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退職金制度とは|求人票に書ける中身と規模による違い
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 制度がある企業は74.9%:「退職金制度あり」と書けること自体は差になりません*1。
- 形態は規模で入れ替わる:一時金のみが全体69.0%、1,000人以上では併用47.1%です*1。
- 勤続年数で倍近く動く:大学卒の定年で20〜24年1,021万円、35年以上2,037万円*2。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
求人票の福利厚生欄に「退職金制度あり」と書く。書けるなら書いたほうがよい項目ですが、それだけでは応募者に何も伝わりません。
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業割合は74.9%です*1。4社に3社が書けるということは、書いてあることが選ぶ理由にはならないということでもあります。
実際に差がつくのは中身です。制度の形態、原資をどこに置いているか、勤続年数でいくら変わるかの3点で、受け取る金額は大きく動きます。
本記事では、この3点を同じ調査の数字で整理し、中小企業退職金共済制度を使う場合に転職者へ説明できることまで扱います。
目次
「退職金制度あり」と書ける企業は4社に3社
まず、全体の位置を確認します。
令和5年就労条件総合調査によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業割合は74.9%です*1。この調査は、常用労働者30人以上の民営企業を対象としています。
規模別に見ると差があります。1,000人以上が90.1%、300人から999人が88.8%、100人から299人が84.7%、30人から99人が70.1%でした*1。規模が小さいほど、制度を持たない企業の割合が上がります。
産業別では、複合サービス事業が97.9%と最も高く、次いで鉱業・採石業・砂利採取業が97.6%、電気・ガス・熱供給・水道業が96.4%となっています*1。
採用の現場で意識したいのは自社の産業の位置です。情報通信業は74.6%で、全体とほぼ同じ水準にあります*1。一方で宿泊業・飲食サービス業は42.2%と低く、産業によって「あって当たり前」かどうかが変わります*2。
つまり、情報通信業で採用する場合、退職金制度の有無は競合と横並びになりやすい項目です。「ある」ことより「どういう形であるか」を書けるかどうかが分かれ目になります。
なお、退職金は法律で義務づけられた制度ではありません。制度を設けた場合に就業規則への記載が必要になる項目であり、労働条件の示し方はエンジニア求人票の書き方と必須14項目で扱った枠組みの中に収まります。
形態は3つ、そして規模で構成が入れ替わる
次が形態です。ここが中身の第一の分かれ目になります。
退職給付制度がある企業について形態別の割合を見ると、「退職一時金制度のみ」が69.0%、「退職年金制度のみ」が9.6%、「両制度併用」が21.4%です*1。全体では一時金だけの企業が多数派になります。
| 企業規模 | 制度がある企業割合 | 一時金のみ | 年金のみ | 両制度併用 |
|---|---|---|---|---|
| 令和5年調査計 | 74.9 | 69.0 | 9.6 | 21.4 |
| 1,000人以上 | 90.1 | 25.9 | 27.0 | 47.1 |
| 300〜999人 | 88.8 | 41.9 | 17.9 | 40.2 |
| 100〜299人 | 84.7 | 60.3 | 13.2 | 26.5 |
| 30〜99人 | 70.1 | 77.2 | 6.6 | 16.2 |
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」第16表より作成*1。
表を縦に見ると、構成が入れ替わっているのが分かります。30人から99人の企業では一時金のみが77.2%を占めるのに対し、1,000人以上では25.9%まで下がり、代わりに両制度併用が47.1%になります*1。
この違いは、応募者から見ると受け取り方の違いになります。一時金だけなら退職時にまとめて受け取ります。年金制度が入ると、受け取り方に分割という選択肢が加わり、在職中の積み立てが可視化されやすくなります。
採用広報の言葉に直すなら、大企業と競合する場面で「退職金制度あり」とだけ書いても、応募者が想像している形と違う可能性があります。一時金のみなのか、企業年金があるのかを明示するだけで、比較の土台がそろいます。
逆に、同規模の企業と競合するなら形態はほぼ同じになります。その場合に差がつくのは、次に見る原資の置き場所と、勤続年数による金額の動き方です。
原資をどこに置いているかで、説明できることが変わる
形態の次は、支払いの準備の仕方です。
退職一時金制度がある企業について支払準備形態を見ると(複数回答)、「社内準備」が56.5%、「中小企業退職金共済制度」が42.0%、「特定退職金共済制度」が9.9%です*1。
これも規模で分かれます。1,000人以上では社内準備が91.6%に達する一方、30人から99人では社内準備49.6%、中小企業退職金共済制度48.5%とほぼ並びます*1。中小企業では、社外の共済制度に積む形が半分近くを占めるということです。
退職年金制度がある企業の側も見ておきます。支払準備形態は(複数回答)「確定拠出年金(企業型)」が50.3%、「確定給付企業年金」が44.3%、「厚生年金基金(上乗せ給付)」が19.3%でした*1。
規模別では、1,000人以上で確定拠出年金が70.9%、確定給付企業年金が62.0%と、どちらも高い水準になります*1。複数の仕組みを重ねている企業が多いことを示しています。
採用の説明という観点では、社外に積む形のほうが説明しやすい面があります。共済制度なら退職時に運営団体から従業員へ直接支払われるため、退職後の受け取り経路が会社の状態に左右されにくいと伝えられます*3。
逆に社内準備の場合は、金額の算定式を規程で示せることが説明の材料になります。どちらであっても、面接で聞かれたときに「積み方」まで答えられるかどうかで印象は変わります。
いくら出るのか。勤続年数で倍近く動く
金額の話に入ります。ここは中途採用でとくに誤解が生まれやすい部分です。
調査では、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者に支給した1人平均退職給付額が集計されています。定年退職者では、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)が1,896万円、高校卒(管理・事務・技術職)が1,682万円、高校卒(現業職)が1,183万円でした*2。
退職事由でも変わります。同じ大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で、会社都合が1,738万円、自己都合が1,441万円です*2。なお、どの学歴においても早期優遇が最も高くなっています*2。
そして勤続年数の効き方が大きい。大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の定年退職者を勤続年数別に見ると、20年から24年で1,021万円、25年から29年で1,559万円、30年から34年で1,891万円、35年以上で2,037万円です*2。20年台前半と35年以上でおよそ2倍の開きがあります。
ここが中途採用の説明で効いてきます。40歳で入社すれば定年まで20年ほど、45歳なら15年ほどしか積み上がりません。新卒から勤め上げた場合の平均額をそのまま示すと、実態とずれた期待を持たせることになります。
形態別でも金額は変わります。定年退職者の大学・大学院卒(管理・事務・技術職)では、退職一時金制度のみが1,623万円、退職年金制度のみが1,801万円、両制度併用が2,261万円でした*2。併用している企業の水準が高く出ます。
高校卒(管理・事務・技術職)でも同じ形が出ます。定年退職者の1人平均退職給付額は全体で1,682万円ですが、勤続35年以上では1,909万円となり、勤続が短い層との差は大きく開きます*2。
この統計はあくまで全国平均であり、自社の規程から計算した額とは別物です。求人票や面接で数字を出すなら、統計の平均ではなく自社の算定式に基づく試算を示すのが筋になります。年収レンジの示し方はエンジニアの年収レンジと公的統計の使い方で整理しました。
中小企業退職金共済制度なら、転職しても通算できる
中小企業で採用するなら、押さえておきたい仕組みがあります。
中小企業退職金共済制度(中退共)は、昭和34年に中小企業退職金共済法に基づいて設けられた中小企業のための国の退職金制度です*3。事業主が中退共と退職金共済契約を結んで毎月の掛金を納付し、従業員が退職したときは中退共から従業員へ直接支払われます*3。
規模感も公表されています。令和7年度の事業概況は、加入企業375,555所、加入従業員3,571,957人、運用資産額は約5.6兆円です*3。
採用の場面で使えるのが通算制度です。加入企業から他の加入企業に転職した場合、掛金が12月以上納付されていること、前の企業を退職した後3年以内に新しい企業で中退共制度に加入すること、前の企業で退職金を請求していないことという条件を満たして申し出れば、前の企業での掛金納付実績をそのまま新しい契約に通算できます*3。
会社都合などで転職した場合は、掛金納付月数が12か月未満でも通算できます。この場合は退職の事由を証明する厚生労働大臣の認定が必要になります*3。
新たに加入する企業側にも通算の道があります。新規加入時に、すでに1年以上勤務している従業員について加入申込み時までの継続した雇用期間を10年を限度として通算できます*3。通常の掛金とは別に過去勤務掛金を納付する形です*3。
期間の効き方も知っておくと説明が正確になります。掛金納付月数が11月以下では支給されず、12月から23月では掛金納付総額を下回り、24月から42月で掛金相当額、43月からは運用利息と付加退職金が加算されます*3。長期加入者を手厚くする設計です*3。
受け取り方も選べます。退職時に一括して受け取る一時金払いのほか、一定の要件を満たせば5年間または10年間にわたる分割払い、両者を組み合わせた一部分割払いを選択できます*3。全額分割払いの要件は、退職した日において60歳以上であることと、退職金の額が5年間の分割払いなら80万円以上、10年間なら150万円以上であることです*3。
掛金月額は5,000円から30,000円までの16種類で、短時間労働者は特例として2,000円・3,000円・4,000円でも加入できます*3。時短勤務での採用については時短勤務での採用、フルタイム前提との違いもあわせて確認してください。
求人票と面接で、どこまで書くか
最後に、実務への落とし方を整理します。
制度は動いています。退職一時金制度について過去3年間に見直しを行った企業割合は7.9%、今後3年間に見直しを行う予定がある企業割合は6.7%でした*1。退職年金制度では、それぞれ4.0%と3.8%です*1。
見直しの中身も出ています。過去3年間に見直しを行った企業では「新たに導入又は既存のものの他に設置」が30.0%と最も高く、今後3年間の予定でも同じ項目が34.2%で最も高くなっています*1。減らす方向より、足す方向の動きが目立ちます。
退職年金制度の見直しでも同じ傾向です。過去3年間に見直しを行った企業では「新たに導入又は既存のものの他に設置」が37.6%、今後3年間に予定がある企業では41.3%で、いずれも最も高くなっています*1。
制度が実際に動いた実績も指標になります。退職給付制度がある企業のうち、令和4年の1年間に勤続20年以上かつ45歳以上の退職者がいた企業割合は29.2%で、1,000人以上では75.0%、30人から99人では18.6%でした*2。中小企業では、制度はあっても支給の実績が近年ない企業が多数派になります。
情報通信業に絞ると、退職者がいた企業割合は31.3%で、退職事由の内訳は定年50.5%、自己都合33.5%、早期優遇10.3%でした*2。定年退職者の割合が全体(56.5%)より低く、自己都合と早期優遇が相対的に厚いという形です*2。
ここから求人票に書ける材料は3つです。1つ目は形態で、一時金のみか、企業年金があるか。2つ目は支払準備形態で、社内準備か共済制度か。3つ目は算定の考え方で、勤続年数と退職事由でどう変わるかです。
面接で聞かれたときは、平均額を答えるのではなく自社の規程に沿った勤続10年・20年時点の試算を用意しておくと話が早くなります。中途で入る人にとって、新卒から勤め上げた場合の数字は自分の話ではないためです。
なお、制度そのものの新設や見直しは、規程の改定と労使の手続きを伴うため時間がかかります。設計を進めるあいだ、目の前の欠員をどう埋めるかは別の判断になり、その工程だけ業務委託で回すという分け方もあります。
まとめ:確認する3点
第一に、有無ではなく中身だという点です。令和5年就労条件総合調査では、退職給付(一時金・年金)制度がある企業割合は74.9%で、1,000人以上90.1%、30人から99人70.1%でした。情報通信業は74.6%と全体とほぼ同じ水準にあり、求人票に「退職金制度あり」と書けること自体は競合との差になりません。第二に、形態と原資です。制度がある企業のうち退職一時金制度のみが69.0%、退職年金制度のみが9.6%、両制度併用が21.4%ですが、30人から99人では一時金のみが77.2%を占めるのに対し、1,000人以上では両制度併用が47.1%と構成が入れ替わります。支払準備形態は、一時金では社内準備56.5%と中小企業退職金共済制度42.0%、年金では確定拠出年金(企業型)50.3%と確定給付企業年金44.3%が中心です。中退共を使う場合は、掛金12月以上の納付、退職後3年以内の加入、前の企業で退職金を請求していないことという条件で転職時に通算できます。第三に、勤続年数の効き方です。定年退職者1人平均退職給付額は大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で1,896万円ですが、勤続20年から24年では1,021万円、35年以上では2,037万円と倍近い開きがあります。中途で入る人に全国平均を示すと期待がずれるため、自社の算定式に基づく試算を用意してください。
よくある質問
退職金制度がある企業はどれくらいありますか。
令和5年就労条件総合調査によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業割合は74.9%です。企業規模別では1,000人以上が90.1%、300人から999人が88.8%、100人から299人が84.7%、30人から99人が70.1%となっています。産業別では複合サービス事業が97.9%と最も高く、情報通信業は74.6%、宿泊業・飲食サービス業は42.2%でした。調査対象は常用労働者30人以上の民営企業です。
退職一時金と退職年金では何が違いますか。
受け取り方と、原資の置き場所が違います。制度がある企業のうち退職一時金制度のみが69.0%、退職年金制度のみが9.6%、両制度併用が21.4%ですが、規模で構成が入れ替わります。30人から99人では一時金のみが77.2%を占め、1,000人以上では両制度併用が47.1%です。支払準備形態は、一時金では社内準備56.5%と中小企業退職金共済制度42.0%、年金では確定拠出年金(企業型)50.3%と確定給付企業年金44.3%が中心になります。
中途入社でも退職金は同じくらい出ますか。
勤続年数で大きく変わります。大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の定年退職者1人平均退職給付額は、勤続20年から24年で1,021万円、25年から29年で1,559万円、30年から34年で1,891万円、35年以上で2,037万円です。全体の平均は1,896万円ですが、これは勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者の数字である点に注意が必要です。中途採用の説明では、自社の算定式に基づく試算を示すことをおすすめします。
中小企業退職金共済制度は転職しても引き継げますか。
条件を満たせば通算できます。加入企業から他の加入企業へ転職した場合、掛金が12月以上納付されていること、前の企業を退職した後3年以内に新しい企業で中退共制度に加入すること、前の企業で退職金を請求していないことという条件を満たして申し出れば、前の企業での掛金納付実績をそのまま新しい契約に通算できます。会社都合などで転職した場合は、掛金納付月数が12か月未満でも通算でき、この場合は退職の事由を証明する厚生労働大臣の認定が必要になります。
出典
- *1 参考:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況 退職給付(一時金・年金)制度」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/23/dl/gaiyou03.pdf)。退職給付制度がある企業割合(全体74.9%、企業規模別、産業別)、制度の形態別企業割合(退職一時金制度のみ69.0%・退職年金制度のみ9.6%・両制度併用21.4%と規模別内訳)、退職一時金制度の支払準備形態(社内準備56.5%・中小企業退職金共済制度42.0%・特定退職金共済制度9.9%)、退職年金制度の支払準備形態(厚生年金基金19.3%・確定給付企業年金44.3%・確定拠出年金50.3%)、退職一時金制度および退職年金制度の見直し状況(過去3年間・今後3年間)の一次情報として(2026年8月確認)
- *2 参考:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況 退職給付(一時金・年金)の支給実態」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/23/dl/gaiyou04.pdf)。勤続20年以上かつ45歳以上の退職者がいた企業割合(29.2%、規模別・産業別)と退職事由別退職者割合、退職事由別・学歴別の1人平均退職給付額(定年1,896万円/1,682万円/1,183万円、会社都合、自己都合、早期優遇)、退職給付制度の形態別および勤続年数別の定年退職者1人平均退職給付額の一次情報として(2026年8月確認)
- *3 参考:独立行政法人勤労者退職金共済機構「中退共 制度について」(https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/kentou/seido/seido01.html)。中小企業退職金共済制度の根拠法と目的、事業主が契約を結び掛金を納付し従業員の退職時に中退共から直接支払われるという仕組み、令和7年度の事業概況(加入企業375,555所、加入従業員3,571,957人、運用資産額約5.6兆円)の一次情報として(2026年8月確認)
- *4 参考:独立行政法人勤労者退職金共済機構「中退共 通算制度」(https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/kentou/seido/seido05.html)。転職した場合の通算条件(掛金12月以上の納付、前の企業を退職した後3年以内の加入、前の企業で退職金を請求していないこと)、会社都合等の場合の例外と厚生労働大臣の認定、新規加入時に通算できる過去勤務期間(10年を限度)と過去勤務掛金の一次情報として(2026年8月確認)
- *5 参考:独立行政法人勤労者退職金共済機構「中退共 退職金」(https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/kentou/seido/seido06.html)。退職金が基本退職金と付加退職金の2本建てであること、掛金納付月数による支給の区切り(11月以下は不支給、12月から23月は掛金納付総額を下回る、24月から42月は掛金相当額、43月から運用利息と付加退職金が加算)、掛金月額の種類(5,000円から30,000円の16種類、短時間労働者の特例2,000円・3,000円・4,000円)、支払方法(一時金払い・分割払い・一部分割払い)の一次情報として(2026年8月確認)