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2026.08.27 らしくコラム

EU電池規則、延期された義務と据え置きの違い




監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論

  • 延期は一箇所だけ:規則2025/1561により、第48条のデューデリジェンス義務の適用日が2027年8月18日へ2年延びました*2。
  • 他の期限は動いていない:規則2023/1542は2024年2月18日から適用されており、回収・再生材・表示の期限はそのままです*1。
  • システムの勘どころ:猶予があるのは調達側の記録だけ。製品側のデータは先に固める必要があります。

※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。

延期の報を「対応を後ろ倒しにできる」と読むと、判断を誤ります。EU電池規則(規則2023/1542)で2年延びたのは第48条のデューデリジェンス義務だけであり、それ以外の期限は動いていないためです*2*1。

規則2023/1542は2023年8月17日に発効し、2024年2月18日から適用されています*1。対象は携帯用電池、電気自動車(EV)用電池、産業用電池、始動・照明・点火(SLI)用電池、そして電動アシスト自転車や電動キックボードなどの軽輸送手段(LMT)用電池まで、すべての電池です*1。

本記事では、EU向けに電池または電池を組み込んだ製品を出している企業の情報システム担当と、その仕組みづくりを受託する立場に向けて、何が延びて何が延びなかったのかと、そこから逆算して持つべきデータを整理します。制度の解釈が要る部分は規則の本文と専門家の確認を経て進めてください。

電気自動車の充電ポートにコネクタを差し込んだイメージ

延びたのは第48条だけだった

まず、2025年に何が起きたのかを正確に押さえます。

EU電池規則(規則2023/1542)が2023年8月17日に発効し2024年2月18日から適用されていること、第48条のデューデリジェンス義務だけが規則2025/1561により2025年8月18日から2027年8月18日へ延期され指針の期日も2026年7月26日になったこと、延期の理由が通知機関の指定の遅れであること、一方で携帯用電池の回収目標が2027年末63パーセント・2030年末73パーセント、リチウムの回収が2027年末50パーセント・2031年末80パーセント、再生材の含有率が2031年8月18日からコバルト16パーセント・鉛85パーセント・リチウム6パーセント・ニッケル6パーセントとされ、表示は2026年から、QRコードは2027年からとされていることを整理した図

2025年7月18日に採択された規則(EU)2025/1561は、規則2023/1542の第48条を次のように改めました*2。第1項の日付「2025年8月18日」を「2027年8月18日」に置き換え、第5項の日付「2025年2月18日」を「2026年7月26日」に置き換える、というものです*2。この規則は官報公表の翌日に発効するとされ、官報の日付は2025年7月30日です*2。

第48条が扱っているのは、電池の製造に用いるコバルト、天然黒鉛、リチウム、ニッケルの調達・加工・取引に関する、事業者のデューデリジェンス義務です*2。当初は2025年8月18日から適用される予定でした*2。

延期の理由も明記されています。デューデリジェンス義務には通知機関(notified body)による第三者検証の要求が含まれるところ、その通知機関の指定が想定より時間を要している、という説明です*2。あわせて、電池に含まれる原材料を扱うデューデリジェンス・スキームがまだ開発・実装の途上であり、欧州委員会による同等性の承認の手続きを経る必要があるとも述べられています*2。

ここから読み取れることを挙げます。

第一に、義務そのものは無くなっていません。適用日が動いただけです。求められる内容が緩和されたわけではないため、準備の量は変わりません。

第二に、延期は受け皿の都合でした。企業側の準備不足ではなく、検証する側の体制が整っていないことが理由として挙げられています*2。つまり、体制が整えば予定どおり適用が始まります。

第三に、指針の期日も動きました。第5項の日付が2026年7月26日に変わっています*2。欧州委員会が公表する指針を待って設計を始めると、着手が遅れます。指針の内容にかかわらず集めることになる情報から先に手を付けるほうが確かです。

なお、規則2025/1561は、企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(指令(EU)2024/1760)との整合を図る観点から、指針の公表時期を揃えるべきだとしています*2。調達先の人権・環境リスクを扱う枠組みが複数走っている状況であり、EU強制労働産品規則の対応で扱うような要求とも、集める情報が重なります。

据え置かれた期限のほうが数は多い

延期されなかった期限を並べると、対応の重心が見えてきます*1。

表1:規則2023/1542が定める主な目標と期限(延期の対象外)
領域 内容 期限
携帯用電池の回収 生産者に対する廃電池の回収目標 2027年末63%/2030年末73%
LMT用電池の回収 軽輸送手段用の廃電池の回収目標 2028年末51%/2031年末61%
リチウムの回収 廃電池からのリチウム回収目標 2027年末50%/2031年末80%
コバルト等の回収 コバルト・銅・鉛・ニッケルの回収目標 2027年末90%/2031年末95%
再生材の含有率 産業用・SLI用・EV用電池の最低含有率 2031年8月18日からコバルト16%・鉛85%・リチウム6%・ニッケル6%
取り外し可能性 機器に組み込まれた携帯用電池を利用者が交換できること 2027年まで

回収の目標は生産者に課されるものであり、達成度は実績の数値で示すことになります*1。ここで問われるのは、回収した廃電池を区分ごとに数えられるかです。携帯用、LMT用、産業用、SLI用、EV用。回収の現場では一括で扱っていても、報告は区分ごとに分かれます。受け入れの時点で区分を記録していないと、後から按分するしかなくなります。

リサイクル効率の目標も定められています*1。2025年末までにニッケルカドミウム電池80%、鉛蓄電池75%、リチウム系電池65%、その他の廃電池50%とされ、鉛蓄電池とリチウム系電池については2030年末からさらに高い目標が置かれています*1。

表示についても期限があります。電池の構成や再生材の含有率といった情報がQRコードの形で求められ、LMT用・産業用・EV用の電池については電池パスポートの形で求められます*1。表示の要求は2026年から、QRコードは2027年からとされています*1。

この並びを見ると、延期されたのは調達の上流に関する義務であり、製品そのものに紐づく情報の期限は動いていないことが分かります。システムの優先順位もそこに従います。

もう一点、規則2023/1542は廃棄物枠組指令2008/98/ECと市場監視規則(EU)2019/1020を改正し、電池指令2006/66/ECを2027年6月30日付で廃止するとされています*1。国内の回収・リサイクルの制度と接続している業務では、参照する法令が入れ替わる点も確認が要ります。国内側の枠組みについては、家電リサイクル法の実務で扱うような、回収実績を記録する仕組みが近い性格を持ちます。

電池パスポートは製品側のデータから決まる

電池パスポートは、LMT用・産業用・EV用の電池に求められるとされています*1。

ここで押さえたいのは、載せる情報の多くが調達ではなく製品の側にあるということです。電池の構成、再生材の含有率、性能と耐久性、カーボンフットプリント。いずれも設計と製造の記録から出てくる情報であり、デューデリジェンスの延期*2とは関係なく期限が進みます。

実務として先に決めておきたい点を挙げます。

個体の識別です。パスポートは電池の単位で情報を持ちます。製品コードだけを持っていて、個々の電池を識別できない場合、情報を紐づける先がありません。どこまで識別するかを最初に決めることになります。

再生材の含有率の根拠です。2031年8月18日からコバルト16%、鉛85%、リチウム6%、ニッケル6%とされています*1。この数値は自社で計算するものであり、材料の投入記録から積み上げる必要があります。どの記録を根拠とするかを決めていないと、数字を出せても説明できません。

カーボンフットプリントの算定です。電池のカーボンフットプリントに関する情報が義務づけられるとされています*1。製品単位の算定は、部品表と工程の情報が揃っていないと組めません。排出量の算定と開示で扱うような仕組みが土台になります。

取り外し可能性の記録です。機器に組み込まれた携帯用電池は、2027年までに利用者が取り外して交換できることが求められ、LMT用電池は独立した専門家が交換できることが求められるとされています*1。設計の要件ですが、適合の根拠を文書として残す作業が伴います。

もう一点、これらの情報はいつ時点の値かが問われます。再生材の含有率は調達の切り替えで変わり、フットプリントは工程の変更で変わります。製品コードに一つの値を持たせるだけの設計にすると、変わったときに過去の値が消えます。ロットや期間で値を持ち分けられるかを、最初に決めておく必要があります。

パスポートという器そのものの考え方は、デジタル製品パスポートの基礎で扱う内容と共通します。電池はその先行事例にあたり、エコデザイン規則で広がる枠組みと同じ方向を向いています。二重に作らないよう、識別子と属性の設計は揃えておく価値があります。

デューデリジェンスの2年で何を進めるか

2027年8月18日まで猶予がある領域*2でも、着手を遅らせる理由にはなりません。集める情報の性質が、短期では揃わないためです。

対象はコバルト、天然黒鉛、リチウム、ニッケルの調達・加工・取引です*2。つまり、自社が直接取引していない層まで遡る情報が求められます。取引先に依頼し、回答を受け取り、内容を確かめるという往復には時間がかかります。

この2年で進められることを挙げます。

第一に、取引先の台帳を整えることです。どの材料を、どの取引先から、どの製品に使っているか。この対応関係が台帳として引けない状態では、依頼を出す先も定まりません。マスタデータの管理で扱うような、コード体系を揃える作業が先に来ます。

第二に、回答を受け取る形式を決めることです。取引先からの回答をメールと表計算で受けていると、集計にも検証にも人手がかかります。項目を決めて受け取る仕組みにしておけば、対象が増えても運用が破綻しません。

第三に、根拠の保存です。第三者検証が求められる以上*2、回答そのものだけでなく、いつ誰から受け取ったかまで残ることが必要になります。上書きされる形の管理では、後から辿れません。

第四に、他の枠組みと共通化することです。原材料の調達を追う要求は電池だけではありません。重要原材料の調達データ森林減少フリーの追跡で扱うような要求と、依頼先も項目も重なります。別々に依頼を出すと、取引先の負担が増え、回答の質が落ちます。

着手の順序と、受託で進めるときの要点

優先順位をつけるなら、次の順になります。

第一に、表示とQRコードです。表示は2026年から、QRコードは2027年からとされています*1。最も近い期限であり、載せる情報を製品側から集める作業が伴います。

第二に、電池の識別です。パスポートも回収の記録も、電池を識別できることが前提になります。粒度が足りないと、後から作り直しになります。

第三に、再生材とフットプリントの根拠です。2031年は先に見えますが、投入記録の積み上げは過去に遡れません。記録を残し始めた時点からしか計算できないためです。

第四に、デューデリジェンスの台帳です。2027年8月18日*2に向けて、取引先と材料の対応関係から着手します。

受託で進める場合の要点も挙げます。

延期を前提に設計しないことです。適用日が動いただけで、義務の内容は変わっていません*2。「2027年まで不要」として機能を落とすと、その時点で作り直しになります。項目を持てる構造だけは先に用意しておくほうが確かです。

数値の根拠を残す設計にすることです。再生材の含有率もフットプリントも、値そのものより、どう計算したかが問われます。計算に使った入力を保存しておかないと、検証に応じられません。

取引先への依頼を一本化することです。電池、重要原材料、強制労働、森林減少。依頼元が別々だと、取引先から見れば同じ質問が何度も来ることになります。

期限の変更を設定で吸収できるようにすることです。今回の延期は、規則の日付を書き換えるという形で行われました*2。同じことは今後も起こり得ます。適用日を条件分岐として書き込んでいると、そのたびに改修が必要になります。日付を設定値として外に出しておけば、変更は運用で吸収できます。

参照する法令の入れ替わりに備えることです。電池指令2006/66/ECは2027年6月30日付で廃止されるとされています*1。既存の帳票や画面に法令名が埋め込まれている場合、置き換えの作業が発生します。

体制としては、製造の実務と調達の実務の双方に触れられる要員が入れるかが分かれ目になります。投入記録の実態、部品表の構造、取引先とのやりとりの現状。これらは仕様書の項目名だけを見ていても判断できません。業務側と設計側が同じ場で話せる形を作れるかを、委託先を選ぶ観点に入れておくとよいでしょう。

まとめ:EU電池規則への対応で押さえる3つの視点

EU電池規則(規則2023/1542)は2023年8月17日に発効し、2024年2月18日から適用されています。押さえたい視点は三つです。第一に、2025年の延期は第48条のデューデリジェンス義務に限られていること。規則(EU)2025/1561により適用日が2025年8月18日から2027年8月18日へ2年動き、指針の期日も2026年7月26日になりました。理由は通知機関の指定が想定より時間を要していることであり、義務の内容が緩和されたわけではありません。第二に、据え置かれた期限のほうが数は多いこと。携帯用電池の回収は2027年末63%・2030年末73%、リチウムの回収は2027年末50%・2031年末80%、再生材の含有率は2031年8月18日からコバルト16%・鉛85%・リチウム6%・ニッケル6%とされ、表示は2026年から、QRコードは2027年からとされています。第三に、電池パスポートに載せる情報の多くが製品側にあること。再生材の含有率もカーボンフットプリントも、投入記録と部品表から積み上げるものであり、記録を残し始めた時点からしか計算できません。まずは表示とQRコードの期限に向けて、電池を識別できるかと、数値の根拠を残せるかの点検から着手するのが堅実でしょう。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、元請(プライムベンダー)として、製品情報・調達データ・開示データに関わる業務システムの開発と改修を受託しています。電池を個体で識別する設計、再生材やフットプリントの根拠を残す構造、取引先への依頼と回答を一本化する仕組み、適用日が動いても作り直しにならない持ち方まで、制度が段階的に固まる案件に耐える形をご提案できるのが強みです。

よくある質問

EU電池規則の対応は2027年まで待ってよいのですか。

待てません。2年延びたのは第48条のデューデリジェンス義務だけです。規則(EU)2025/1561により適用日が2025年8月18日から2027年8月18日へ動きましたが、規則2023/1542そのものは2024年2月18日から適用されています。表示は2026年から、QRコードは2027年からとされており、回収やリサイクルの目標も動いていません。

なぜデューデリジェンス義務だけが延期されたのですか。

デューデリジェンス義務には通知機関による第三者検証の要求が含まれますが、その通知機関の指定が想定より時間を要していることが理由として挙げられています。あわせて、電池に含まれる原材料を扱うデューデリジェンス・スキームがまだ開発と実装の途上であり、欧州委員会による同等性の承認を経る必要があるとも述べられています。

電池パスポートはどの電池に必要ですか。

情報と表示は電池の構成や再生材の含有率などを対象とし、QRコードの形で求められます。そのうえでLMT(軽輸送手段)用、産業用、EV用の電池については電池パスポートの形で求められるとされています。表示の要求は2026年から、QRコードは2027年からとされています。

再生材の含有率はいつから何%必要ですか。

産業用電池、始動・照明・点火(SLI)用電池、EV用電池について、2031年8月18日からコバルト16%、鉛85%、リチウム6%、ニッケル6%が最低の水準とされています。この数値は材料の投入記録から積み上げるものであり、記録を残し始めた時点からしか計算できない点に注意が要ります。

システムとしてまず何を用意すべきですか。

三つです。電池を個体で識別できる仕組み、再生材の含有率やカーボンフットプリントの計算に使った入力を保存する仕組み、そして取引先への依頼と回答を項目を決めて受け取る仕組みです。とくに数値そのものより、どう計算したかを説明できるかが問われるため、根拠の保存を後回しにしない設計が要ります。

電池の製品情報と調達データの整備はLASSICへ

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出典

  1. *1 参考:EUR-Lex「Sustainability rules for batteries and waste batteries」(規則(EU)2023/1542の公式サマリー)(https://eur-lex.europa.eu/EN/legal-content/summary/sustainability-rules-for-batteries-and-waste-batteries.html)。規則2023/1542が2024年2月18日から適用されること、対象となる電池の区分(携帯用・EV用・産業用・SLI用・LMT用)、携帯用電池の回収目標(2027年末63%/2030年末73%)とLMT用の回収目標(2028年末51%/2031年末61%)、リチウムの回収目標(2027年末50%/2031年末80%)、コバルト・銅・鉛・ニッケルの回収目標(2027年末90%/2031年末95%)、再生材の最低含有率(2031年8月18日からコバルト16%・鉛85%・リチウム6%・ニッケル6%)、リサイクル効率目標、取り外し可能性の要求、QRコードと電池パスポート(表示は2026年から・QRコードは2027年から)、電池指令2006/66/ECの2027年6月30日付の廃止の一次情報として(2026年8月確認)
  2. *2 参考:EUR-Lex「規則(EU)2025/1561」(官報 OJ L, 2025/1561, 2025年7月30日)(https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=OJ:L_202501561)。2025年7月18日採択の規則2025/1561が規則2023/1542の第48条を改正し、第1項の日付を2025年8月18日から2027年8月18日へ、第5項の日付を2025年2月18日から2026年7月26日へ置き換えたこと、対象がコバルト・天然黒鉛・リチウム・ニッケルの調達/加工/取引に関するデューデリジェンス義務であること、延期の理由が通知機関の指定の遅れとデューデリジェンス・スキームの整備途上であること、指令(EU)2024/1760との指針の時期の整合の一次情報として(2026年8月確認)




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