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エンジニア中途採用が事業承継のシステム引き継ぎに間に合わない理由
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- システムの作り方や動かし方の知識は、経営者の交代の前に書き出して一覧にします。
- 前任者と一緒に働く期間を事業承継計画に書き、エンジニア中途採用を始める時期を逆算します。
- 求めるのは既存システムの保守の経験で、システムの管理権限は前任者から段階的に移します。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
長年システムの面倒を見てきたのは社長本人か古参の社員で、代替わりの後に誰が担当するのかが決まっていない。後継者は決まったものの、システムの中身については何も聞いていない——。中小企業の事業承継では、こうした心配が後回しにされがちです。事業承継でのシステム引き継ぎとは、経営者の交代に合わせて、社内システムの管理と、その作り方や動かし方の知識を次の担当者へ移すことを指します。
社内に引き継ぐ人がいなければ、エンジニア中途採用で担当者を迎えるのが一つの方法です。ただし万能ではなく、採用した翌月から一人でシステムを任せられるわけではありません。本記事では、事業承継を控えた中小企業の経営者と管理部門の担当者に向けて、事業承継の中でのシステムの位置づけ、採用の時期、求める経験、引き継ぎ計画に書くこと、そしてつまずきやすい点を整理します。
目次
事業承継で引き継ぐもの
中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」は、事業承継を、親族に引き継ぐ親族内承継、親族以外の役員・従業員に引き継ぐ従業員承継、社外の第三者に引き継ぐ社外への引継ぎ(M&A)の3つに分けています。*1 本記事が扱うのは、このうち親族内承継と従業員承継です。M&A(企業の合併・買収)では、引き継ぐ相手の会社が持つシステムとの統合という別の作業が加わります。
ガイドラインは、後継者に引き継ぐ経営資源を「人(経営)」「資産」「知的資産」の3つに大別しています。知的資産とは、「人材、技術、技能、知的財産(特許・ブランドなど)、組織力、経営理念、顧客とのネットワークなど、財務諸表には表れてこない目に見えにくい経営資源の総称」です。あわせて、中小企業ではノウハウや取引関係が経営者個人に集中していることが多いとも指摘しています。*1
社内システムに当てはめると、サーバーやソフトウェアの利用契約は資産の側、システムがどう作られ、日々どう動かしているかという知識は知的資産の側に入ると考えると整理しやすくなります。前者は契約書や台帳で引き継げますが、後者は知っている人から聞き取らなければ書面に残りません。ガイドラインも、知的資産の承継は、自社が持つ知的資産に気付く「棚卸し」から始め、その「見える化」(誰にでも分かる形に書き出すこと)を行うことが大切だとしています。*1
調査に出た承継の問題
日本政策金融公庫総合研究所が2023年1月に行った「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」は、従業者299人以下の中小企業4,465社から回答を得ています。*2 このうち後継者が決まっていて本人も承諾している「決定企業」は10.5%でした。決定企業313社に事業承継の際に問題になりそうなことを尋ねると、「後継者の経営能力」が28.0%と最も多く、「技術・ノウハウの承継」は15.6%で5番目です(複数回答)。*2
選択肢の中で社内システムに最も近いのは「技術・ノウハウの承継」です。この項目は、2019年調査の21.6%から6.0ポイント下がりました。*3 「特にない」は33.0%にとどまり、決定企業の7割近くが何らかの問題を抱えています。なお、回答企業の65.4%は従業者1〜4人の企業で、社内にシステムの担当者を置く規模の会社とは事情が違う面もあります。*2 それでも、経営者や古参の社員の頭の中にある知識は、交代の前に書き出しておかないと、交代の後で確かめる相手がいなくなります。
なぜ承継の前に採るのか
ガイドラインによると、後継者を決めてから事業承継が終わるまでの移行期間は、3年以上かかる割合が半数を上回り、10年以上かかる割合も少なくありません。平均引退年齢が70歳前後であることから、ガイドラインは経営者が概ね60歳頃には準備に着手することが望ましいとしています。後継者の側でも、経営者になるために必要だと思う準備期間を「5年以上」と答えた人が約5割を占めます。*1
システムの引き継ぎも、この準備期間のうちに進めます。採用した人がシステムを覚えるには、いまシステムを担当している人から直接話を聞ける期間が要ります。その人が経営者本人であれば、社長交代の後に相談役として残るのか、完全に退くのかで、話を聞ける時間が大きく変わります。経営交代と同じ年に採用を始めるのでは、前任者と一緒に働ける期間がほとんど取れません。
ガイドラインは、事業承継の前に経営体制を総点検し、役員・従業員の職務権限を明確にして業務権限を段階的に委譲すること、各種規程類やマニュアルを整備することを求めています。事業承継を契機に「デジタル化の推進を起点として成長を目指していくことも必要」とも書いています。*1
採用の時期を計画に書く
採用の時期は、事業承継計画の中に書き込みます。ガイドラインは事業承継計画を、会社の将来(例えば10年後)を見据えて「いつ、どのように、何を、誰に承継するのか」を具体的にした計画と説明し、後継者や親族と共同で作り、取引先や従業員、取引金融機関などと共有しておくことが望ましいとしています。巻末には、10カ年版と5カ年版の事業承継計画の様式と記入例が付いています。*1
この様式の年表にシステムの行を1本加えると、採用の時期を決めやすくなります。書き込むのは、経営者が交代する年、いまシステムを担当している人が担当を離れる年、採用した人と一緒に働く期間、そして採用活動を始める時期です。採用にかかる期間は会社や職種によって違うので、自社の過去の中途採用で、求人を出してから入社するまでに何か月かかったかを目安にします。
| 時期 | 経営の承継 | システム引き継ぎ | エンジニア中途採用 |
|---|---|---|---|
| 交代の4年前 | 後継者が経営企画に加わる | 使っているシステムと契約の棚卸しを始める | 求める経験を書き出し、求人を出す |
| 交代の3年前 | 後継者が取締役に就く | 採用した人が前任者と一緒に保守を担当する | 入社 |
| 交代の2年前 | 後継者が主要な取引先を訪ねる | 日々の運用を採用した人に任せ、改修は前任者と一緒に行う | ― |
| 交代の1年前 | 取引先や金融機関に計画を説明する | 管理者の権限と委託先との契約の名義を移す | ― |
| 交代の年 | 代表者が交代する | 採用した人が主担当になり、前任者は相談に応じる | ― |
この例では交代の4年前に求人を出していますが、年数は会社の規模やシステムの数で変わります。大切なのは、前任者と一緒に働く期間を先に決め、そこから採用を始める時期を逆算することです。
求める経験
事業承継のためのエンジニア中途採用では、新しいシステムを一から作った経験より、すでに動いているシステムを引き受けて保守した経験を重く見ます。求人票や面接では、次のような作業の経験を尋ねると、任せたい仕事と照らし合わせやすくなります。
- 前任者から引き継いだシステムの保守や改修
- 仕様書が古いか無い状態で、プログラムや設定から動きを読み解いた作業
- システムを使う部門から要望を聞き、改修の内容をまとめた作業
- 委託先やクラウドサービスとの契約、利用者のアカウントと権限の管理
仕様書が古いシステムを引き継げる形に直す手順は「レガシーの仕様書が古いときに引き継げる形へ直す4つの手順」で扱っています。もう一つ確かめたいのは、後継者との関係です。後継者は、承継の後にシステムの更新や投資を判断する立場になります。採用する人には、技術の話を経営の判断に使える形で説明できるかどうかも、面接で確かめておきます。
ガイドラインは従業員承継の後継者教育として、経理や総務、営業から経営企画まで幅広い業務を経験させること、後継者塾(後継者向けの勉強会)や経営者会合などに参加させること、社内の重要プロジェクトを遂行させることを挙げています。*1 システムの引き継ぎを社内の重要プロジェクトの一つとして、後継者と採用した人が一緒に進める形にしておけば、後継者が自社のシステムを知る機会にもなります。
引き継ぎ計画に書くこと
引き継ぎ計画は、事業承継計画に加えたシステムの行を細かくしたものです。最初に、引き継ぐものを次のように書き出します。
- 使っているシステムと、サーバーやパソコンなどの機器
- ソフトウェアの利用契約と保守契約、支払いの方法
- 管理者のアカウントとパスワードの保管場所、権限を持つ人
- 保守を頼んでいる委託先と、連絡の窓口
- 月次の締めや年度替わりなど、決まった時期に行う作業の手順
書き出したものの中で、いまの担当者しか知らない項目に印を付けておくと、一緒に働く期間に何を聞くべきかが分かります。個人に依存している技術情報の洗い出し方は「担当者の離脱に備えて技術情報の個人依存を洗い出す」で扱っています。
一緒に働く期間は、前任者の作業を見る、一緒に作業する、採用した人に任せて前任者が確かめる、の順に段階を分け、段階ごとに終わりの時期を決めます。管理者の権限や委託先との契約の名義は、最後の段階で移します。
作った計画は、後継者や関係する社員と共有しておきます。経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)の第16条は、「人材の育成」などに計画的に取り組むことが特に必要な中小企業について、その経営に従事する者に経済産業大臣が指導と助言を行うと定めています。*4 採用と育成を計画に書いておくことは、公的な支援を相談するときの材料にもなります。
つまずきやすい点
一つ目は、承継の直前になってから採用を始めることです。前任者が退いた後に入社すると、システムについて尋ねられる相手がいません。棚卸しで書き出した資料だけでは、なぜその設定にしたのかという理由までは読み取れないことが多いものです。採用が遅れそうなときは、前任者に退いた後も相談に応じてもらう期間を、あらかじめ決めておきます。
二つ目は、採用した1人にシステムをすべて任せることです。前任者1人に集まっていた知識が、今度は採用した1人に集まるだけになります。手順書を残すこと、後継者か別の社員も管理者の権限を持つこと、保守の一部を委託先に任せることなどを組み合わせ、1人が休んでも止まらない体制にしておきます。
三つ目は、経営の承継とシステムの引き継ぎを別々の計画で進めることです。社長交代の時期が1年ずれると、システムの引き継ぎの日程もずれます。事業承継計画の年表に同じ行として載せておけば、どちらかの時期が変わったときに、もう一方もその場で見直せます。
まとめ:システム引き継ぎで確かめておきたい3つの点
事業承継に合わせて社内システムを引き継ぐうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、システムの作り方や動かし方の知識を知的資産の一つとして棚卸しし、いまの担当者しか知らない項目を書き出すこと。第二に、採用した人が前任者と一緒に働ける期間を事業承継計画に書き、そこからエンジニア中途採用を始める時期を逆算すること。第三に、既存システムを引き受けて保守した経験を求め、権限を段階的に移す引き継ぎ計画を作ることです。この3点を踏まえておけば、「社長が退いた後に、システムのことを聞ける人が誰もいない」という事態を避けやすくなります。採用や引き継ぎの進め方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
採用が承継に間に合わないときは、どうすればよいですか
採用が決まるまでの間、既存システムの保守を外部の専門人材に任せる方法があります。その場合も、任せる作業と社内で判断することを書面にしておき、管理者の権限は社内の人が持つようにします。採用した人が入社したら、外部の専門人材から引き継ぎを受ける期間を設けます。
前任者と一緒に働く期間は、どのくらい見ておけばよいですか
決まった長さはないので、事業承継計画の年表から逆算して決めます。目安にしやすいのは、月次の締めや年度替わりの作業を一巡するまでの期間です。決まった時期にしか行わない作業も、一度は前任者と一緒に経験できます。
事業承継の相談は、どこにすればよいですか
ガイドラインは、国が全国に設置した事業承継・引継ぎ支援センターのほか、商工会議所・商工会、金融機関、税理士や弁護士などの専門家を支援機関として挙げています。*1 経営承継円滑化法の第16条第2項は、中小企業基盤整備機構が経営の承継の円滑化に関して必要な助言を行うと定めています。*4
後継者がシステムに詳しくない場合、何を知っておけばよいですか
システムの細部よりも、どのシステムがどの業務を支えているか、年間の費用と契約の更新時期、止まったときの連絡先の3つを知っておくと、承継の後の判断がしやすくなります。細部は採用した担当者に任せ、この3つは後継者自身が説明できるようにしておきます。
事業承継に伴うシステムの引き継ぎを相談したいとき
引き継ぐシステムの洗い出しと、採用する人に求める経験の整理からご相談いただけます。
Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。
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出典
- *1 参考:中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf)。出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」(令和4年3月改訂)。第一章1.(4)(移行期間・準備の着手時期)、2.(1)(2)(事業承継の類型と構成要素・知的資産の定義)、第二章2.(ステップ3の経営体制の総点検、ステップ4-1の事業承継計画)、3.(1)、第三章1.(1)・2.(2)(後継者教育)、第六章(支援機関)、巻末の事業承継計画の様式を参照(2026年9月確認)
- *2 参考:日本政策金融公庫総合研究所「中小企業のうち後継者が決定している企業は10.5%、廃業を予定している企業は57.4%」(https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings230323_1.pdf)。出典:日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)」結果(2023年3月23日公表)。調査時点2023年1月、有効回答4,465件、ウエイトづけ後の集計。表-1、主な属性(従業者数)、図-14(事業承継の際に問題になりそうなこと、決定企業、複数回答)を参照(2026年9月確認)
- *3 参考:日本政策金融公庫総合研究所「経営者の高齢化の進行と事業承継問題」(https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/ronbun2402_01.pdf)。出典:深沼光・原澤大地・中島章子「経営者の高齢化の進行と事業承継問題」(日本政策金融公庫論集 第62号、2024年2月)。図-13 と本文(2019年調査との比較)を参照(2026年9月確認)
- *4 参考:e-Gov法令検索「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(https://laws.e-gov.go.jp/law/420AC0000000033)。出典:中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(平成20年法律第33号)第16条第1項・第2項(指導及び助言等)を参照(2026年9月確認)