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DXの必要性は合意済みでも進まない理由|最初の1件の選び方
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- IPAの2022年度の調査では、DXの必要性が高いとした企業は64%、取り組みが活発とした企業は37%でした。
- 取り組み状況でいちばん多い回答は「あまり活発ではない」の40%で、着手はしたものの進みが遅い企業が中心です。
- 必要だと合意している案件を1件選び、判断は社内の担当者が行い、作業は期間を決めて外部に任せると着手を進めやすくなります。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
DXが必要なことは、社内でもう合意できている。それなのに、着手できない案件ばかりが増えていく——。DX(デジタル技術を使った事業や業務の変革)を進める現場では、必要だと分かっていても着手できない状態がよく起こります。IPA(情報処理推進機構)の2022年度の調査でも、DXの必要性が高いとした企業が64%だったのに対し、取り組みが活発とした企業は37%でした。*2 ここでいうDXの必要性とは、DXが自社の事業にとってどれだけ必要かについての、企業自身の見方です。
必要性と取り組みの差を見ると、DXの案件を進めるには、必要性を説明し直すより、作業を担う人を確保するほうが効果的な場面が多そうです。ただし、この進め方は万能ではなく、何を判断すべきかが社内で決まっていない案件には向きません。本記事では、DXの推進を担う方に向けて、調査で見た必要性と取り組み状況の差、製造分野向けDXとの違い、1件に着手して進める方法、そして外部に委託するときに確認したい点を整理します。
目次
DXの必要性と取り組み状況とは
ここで取り上げるのは、IPAの「2022年度組込み/IoT産業の動向把握等に関する調査」です。配布数は7,864件、回答数は1,214件でした。*1 この調査のQ11は、DXの動きによる事業への影響などを尋ねる設問群で、その中に「DXの必要性」と「DXの取り組み状況」が並んでいます。同じ調査の中で、必要だと思うかどうかと、実際に動いているかどうかを別々に聞いているため、2つを並べて見ることができます。
集計の対象は、ユーザー企業、メーカー企業、サブシステム提供企業、サービス提供企業、その他の全類型です。*2 回答は「DX全般」と、製造分野に向けたDXを尋ねた「製造分野向けDX」の2つに分けて集計されています。どちらも1つだけを選ぶ形式で、5つの区分を合わせると100%になります。必要性の選択肢は「非常に高い」から「全くない」までと「わからない」、取り組み状況の選択肢は「非常に活発」から「取り組んでいない」までと「わからない」です。
回答数は設問ごとに少しずつ違います。必要性はDX全般が1,128、製造分野向けDXが1,077、取り組み状況はDX全般が1,131、製造分野向けDXが1,081です。*2 ここでは、DX全般、製造分野向けDXのそれぞれの中で、必要性と取り組み状況を並べて見ていきます。
必要性はどれくらい高いのか
DX全般の必要性では、「非常に高い」が20%、「高い」が44%でした。*2 この2つを合わせると64%になり、3社に2社近くが必要性は高いと答えたことになります。反対に、「低い」は21%、「全くない」は4%にとどまり、「わからない」は11%でした。
この分布から分かるのは、DXが必要かどうかで社内の意見が割れて止まっている企業は少数派だということです。案件が進まないときに、DXの意義をもう一度説明する資料を作り直しても、着手が早まるとは考えにくいでしょう。社内で合意が取れているなら、その次の段階、つまり誰がいつ作業をするのかに話を移したほうが効果が出やすくなります。
取り組みはどこまで進んでいるのか
DX全般の取り組み状況では、「非常に活発」が7%、「活発」が30%で、合わせると37%でした。*2 いちばん多い回答は「あまり活発ではない」の40%です。「取り組んでいない」は14%、「わからない」は9%でした。
つまり、まったく手をつけていない状態よりも、着手はしたものの進みが遅い状態のほうが中心です。状態によって、必要な対策が変わります。着手していない企業では、まず何から始めるかを決めることが先になります。一方、着手済みで進みが遅い企業では、始めた案件を誰が担当し、いつまでに何を終えるかを決め直すことが先になります。
必要性の高い側の64%と、取り組みが活発な側の37%を比べると、27ポイントの差があり、64%は37%の約1.73倍です。この2つの値は、資料の掲載値から計算したものです。なお、必要性と取り組み状況は別々の設問で、必要性が高いと答えた企業に限った取り組み状況は公表されていません。
製造分野向けDXとの違い
製造分野向けDXでは、必要性が「非常に高い」16%、「高い」35%で、合わせて51%でした。取り組み状況は「非常に活発」6%、「活発」24%で、合わせて30%です。*2 差は21ポイント、倍率は1.70倍で、DX全般の27ポイントより差は小さくなります。
違いがはっきり出るのは、「全くない」「取り組んでいない」「わからない」の回答です。「取り組んでいない」はDX全般の14%に対して製造分野向けDXは22%で、8ポイント高くなっています。必要性が「全くない」もDX全般の4%に対して11%で、7ポイント高い値です。「わからない」も、必要性で16%、取り組み状況で13%と、どちらもDX全般より高くなっています。*2 一方、必要性が「低い」は21%と22%で、ほとんど違いはありません。
| 項目 | DX全般 | 製造分野向けDX |
|---|---|---|
| 必要性が高い(非常に高い+高い) | 64%(20%+44%) | 51%(16%+35%) |
| 必要性が低い/全くない | 21%/4% | 22%/11% |
| 取り組みが活発(非常に活発+活発) | 37%(7%+30%) | 30%(6%+24%) |
| あまり活発ではない | 40% | 35% |
| 取り組んでいない | 14% | 22% |
| わからない(必要性/取り組み状況) | 11%/9% | 16%/13% |
| 必要性と取り組みの差/倍率 | 27ポイント/約1.73倍 | 21ポイント/1.70倍 |
製造分野向けDXでは、必要性と取り組みの差は小さい一方で、必要性そのものを感じていない企業や、まだ取り組んでいない企業の割合が大きくなっています。製造分野のDXを進める立場なら、着手済みの案件の進め方だけでなく、そもそも何のために取り組むのかを社内で確かめる作業も並行して必要になりそうです。
1件に着手して進める方法
調査の結果を踏まえると、進め方は次の4つの手順にまとめられます。必要性については合意が広く、取り組みでは進みが遅い状態が中心なので、全体を一度に進めようとするより、まず1件に着手して進めることから始めます。
- 必要だと社内で合意しているのに進んでいない案件を1件選ぶ
- 進まない理由を「作業をする人がいない」と「判断が下りない」に分けて書き出す
- 何をやり、何をやらないかの判断は社内の担当者が行う
- 作業の側は、作業名と期間を決めて外部に委託する
1件に絞るのは、合意のある案件を全部対象にすると、担当者の時間が分散してしまうためです。2つ目の手順で理由を分けるのは、理由によってやり方が変わるからです。判断が下りないことが原因なら、人を増やしても進みません。先に決めるべき人と期限をはっきりさせます。作業をする人がいないことが原因なら、人を増やすことで進められます。
判断を社内の担当者が行うのは、何をやらないかを決めるのは事業を知っている社内の人にしかできないからです。一方、作業の側は、内容と量が見通せる部分から外部の人に加わってもらえます。たとえば「既存の受注データを新しいシステムへ移す作業を3か月」「現場の担当者が使う入力画面の試作を1か月」のように、作業名と期間まで書けていれば、委託先も必要な人を選びやすくなります。フリーランスを含む業務委託は、期間を決めて依頼し、作業が終われば契約を終えられるので、こうした進め方と組み合わせやすい方法です。
つまずきやすい点
一つ目は、必要だと合意している案件をすべて同時に動かそうとすることです。担当者の時間が案件ごとに少しずつ割かれ、どの案件も「あまり活発ではない」状態のまま残りやすくなります。最初の1件で、誰がいつ何を終えるかを決めて進めてから、次の案件に移るほうが、結果として早く進みます。
二つ目は、進まない理由を確かめないまま人を増やすことです。判断が下りないことが原因の案件では、外部の人に加わってもらっても、何を作ればよいかが決まらず作業が止まります。委託する前に、判断をする社内の担当者と、判断の期限を決めておきます。三つ目は、判断まで外部に任せてしまうことです。何をやらないかを委託先が決めると、社内の事業の事情とずれた結果になりがちです。
DXの取り組みについて、ほかの角度から見たい場合は、同じ設問群の事業への影響を扱った「DXの効果が出た分野」、同じ調査の進め方の設問を扱った「DXの全社展開の割合」、目標の置き方を扱った「DXの目標の項目」もあわせてご覧ください。
まとめ:DXの必要性で確かめておきたい3つの点
DXの必要性と取り組みの差を小さくするうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、社内で必要性の合意が取れているなら、説明を重ねるより、誰がいつ作業をするかに話を移すこと。第二に、進まない理由を「作業をする人がいない」と「判断が下りない」に分け、判断は社内の担当者が行うこと。第三に、作業の側は作業名と期間を決め、1件ずつ外部に委託することです。この3点を踏まえておけば、「必要なのは分かっているのに、今年も手をつけられなかった」という事態を避けやすくなります。着手の進め方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
この調査の数値は、いつ時点のものですか
2022年度の調査で、それより後の傾向は含まれていません。この調査は2018年度から2022年度まで年度ごとに公開されています。*4 年度ごとの比較の集計は、対象の企業の種類が絞られ、2018年度から2019年度は対象の定義も違うため、単純には比べられません。*2
製造分野向けDXの数値は、製造業の企業だけの回答ですか
いいえ。DX全般と製造分野向けDXのどちらも、ユーザー企業、メーカー企業、サブシステム提供企業、サービス提供企業、その他の全類型を対象に集計されています。*2 製造分野に向けたDXについて、全類型の企業がどう答えたかという値です。
必要性が高い企業ほど、取り組みも活発なのですか
調査からはそこまでは言えません。必要性と取り組み状況は別々の設問で、2つを組み合わせた集計は公表されていないためです。必要性が高いから取り組むのか、取り組んだから必要性を感じるのかといった関係も示されていません。
作業を任せる相手は、フリーランスでもよいですか
はい。業務委託にはフリーランスへの依頼も含まれます。作業名と期間を決めて依頼すれば、作業が終わった時点で契約を終えられるので、1件ずつ着手を進めるやり方と組み合わせやすくなります。判断をする社内の担当者は、依頼の前に決めておきましょう。
DXの作業を担う人を探したいとき
着手する1件を決めたあと、任せる作業と期間の整理からご相談いただけます。
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出典
- *1 参考:IPA「2022年度組込み/IoT産業の動向把握等に関する調査」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/kumikomi/kumikomi-iot2022.html)。出典:IPA「2022年度組込み/IoT産業の動向把握等に関する調査」。配布数7,864件・回答数1,214件と利用の条件(政府標準利用規約に準拠する形での出典の記載と編集・加工の旨の記載)を参照。本記事の図表は示された値を用いて作成(編集・加工)(2026年9月確認)
- *2 参考:IPA「組込み/IoTに関する動向調査」調査結果(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/kumikomi/ps6vr7000001tewn-att/kumikomi-iot2022.pdf)。出典:同調査の調査結果。Q11のDXの必要性とDXの取り組み状況の比率・回答数・集計対象(全類型)、および経年の集計の対象と注記を参照。いずれも単一回答で、資料は整数の百分率で示している(2026年9月確認)
- *3 参考:IPA「アンケート調査票」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/kumikomi/ps6vr7000001tewn-att/kumikomi-iot2022-chousahyou.xlsx)。出典:同調査の調査票。Q11の設問の並びと選択肢を参照(2026年9月確認)
- *4 参考:IPA「組込み/IoT産業の動向把握等に関する調査」一覧(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/kumikomi/index.html)。出典:同調査の一覧ページ。2018年度から2022年度まで年度ごとに調査が公開されていることを参照(2026年9月確認)