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政府調達のしきい値3つ、豪州は1万豪ドル超で国内企業のみ
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 1万豪ドルから国内企業限定:根拠を残せば例外もあります*1。
- DTA所管の枠はSME限定:12万5千豪ドル未満が対象*1。
- 公表は42日以内:変更も1万豪ドル刻みで*1。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
海外の公共案件を狙うとき、最初に効いてくるのは技術力ではなく金額の線です。いくらから何が変わるのかを知らないと、提案の前段で外れます。
豪州の連邦調達規則(CPRs)が更新され、2025年11月17日から新しい版が適用されています*1。2025年10月7日に財務大臣が制定し、旧版(2024年7月1日版)は施行と同時に廃止されました*1。根拠は公共統治・実績・説明責任法2013(PGPA法)の第105B条第1項です*1。
今回の版では、しきい値未満の調達で豪州企業を優先する要件が初めて導入されました*1。IT関連では、DTA(デジタル変革庁)が所管する一般契約にSME限定の枠が置かれた点も見逃せません*1。順に見ていきます。
目次
金額の線は3種類あり、役割が違う
まず全体像です*1。
CPRsには性格の異なる金額の線が並びます*1。混同しやすいので、先に整理します*1。
| 区分 | 金額 | 意味 |
|---|---|---|
| 公表しきい値 | 1万豪ドル | 非法人連邦機関の契約。これ以上はAusTenderへの公表が要る |
| 公表しきい値 | 40万豪ドル | 所定の法人連邦機関の契約のうち、建設サービス以外の調達 |
| 公表しきい値 | 750万豪ドル | 所定の法人連邦機関の契約のうち、建設サービスの調達 |
| 調達しきい値 | 12万5千豪ドル | 非法人連邦機関(建設サービス以外)。これ以上は第2部の追加規則も適用 |
| 調達しきい値 | 40万豪ドル | 所定の法人連邦機関(建設サービス以外) |
| 調達しきい値 | 750万豪ドル | 対象機関による建設サービスの調達 |
公表しきい値は、契約の内容を公開する義務の起点です*1。調達しきい値は、手続きの厳しさが一段上がる起点で、これ以上の調達では第2部の追加規則が加わります(附属書Aの適用除外に当たる場合を除く)*1。同じ40万豪ドルという数字が両方に出てきますが、指している対象が違います*1。
もう一点、CPRsは2つの部(division)で構成されます*1。第1部はすべての調達に適用される規則、第2部は調達しきい値以上の調達に適用される追加の規則です*1。附属書Aの適用除外に当たる場合には、しきい値以上でも第2部が外れます*1。自社が狙う案件がどちらの世界にあるのかを、まず金額で見分けることになります*1。
今回の版では、建設以外の調達しきい値が20年ぶりに引き上げられたと序文が述べています*1。引き上げの効果として、豪州企業だけに開かれる調達の機会が増えるとも書かれました*1。裏返せば、しきい値が上がった分だけ、公開の入札として海外の事業者が参加できる帯は狭くなったということでもあります*1。金額の線が動くと、参入の可否も一緒に動きます*1。
1万豪ドルから、打診の相手が国内企業に限られる
今回の改定でいちばん大きいのが第5.4項です*1。
予定価額が1万豪ドル以上、かつ調達しきい値未満の調達について、非法人連邦機関は豪州企業のみに提案を求めなければならないとされました*1。一般契約(standing offer)からの調達は除かれます*1。また、先住民調達方針の要件がある場合は、豪州企業へ打診する前にそちらを先に満たします*1。
逃げ道も用意されています*1。提案がまったく集まらなかった場合、または価値に見合う提案がなかった場合には、機関は通常の調達方法で進められます*1。さらに、調達の担当職員が豪州企業に打診することがその調達にとって適切でないと判断した場合には第5.4項を適用しないことができ、その場合は判断の根拠を文書化しなければなりません*1。
「豪州企業」の定義も規則の中にあります*1。親会社を含めて、50%以上が豪州の所有であるか、主として豪州の株式市場で取引されていること、税務上の豪州居住者であること、主たる事業所が豪州にあることの3つを満たす事業体です*1。第5.4項の適用に限っては、ニュージーランドの企業も豪州企業に含むとされました*1。
日本の事業者から見ると、この帯(1万豪ドル以上・12万5千豪ドル未満)の案件は、豪州に実体を持つ法人を通さなければ入口に立てない、ということになります*1。小さな案件から入って実績を作る、という進め方は取りにくくなりました*1。現地での実績づくりは、民間案件か、しきい値以上の公開入札のどちらかから始めることになります*1。
DTA所管の一般契約には、SME限定の枠がある
IT分野に直結するのが第5.5項です*1。
予定価額が12万5千豪ドル未満で、経営助言サービスパネル、人材パネル、またはDTAが所管するあらゆる一般契約から調達する場合、非法人連邦機関はその一般契約に載っているSMEのみに提案を求めなければなりません*1。DTAが所管する一般契約については、先住民調達方針の要件が先に来ます*1。
DTAが運営する調達の入口としては、序文がデジタルマーケットプレイスを名指ししています*1。ITサービスの小規模な調達が、この枠に入ってくることになります*1。開発の一部を切り出す小口の発注や、短期の技術支援は、この帯に収まりやすい規模です*1。
SMEの定義も明確です*1。豪州企業またはニュージーランド企業で、常勤換算200人未満の事業体です*1。従業員数を数えるときは、会社法2001第50AAA条にいう関連事業体の従業員も含めます*1。親会社、子会社、関係会社が対象です*1。大企業の子会社を豪州に置いても、この枠には入れません*1。
こちらにも例外があります*1。提案がない場合、価値に見合う提案がない場合、当該の一般契約にSMEが含まれていない場合には、機関は同じ一般契約上の他の供給者へ打診できます*1。担当職員がSMEへの打診を適切でないと判断した場合も適用されず、その根拠は文書化されます*1。
この2つの優先の枠は、性格が違います*1。第5.4項は所有と拠点で線を引き、第5.5項は規模で線を引きます*1。前者は市場を国内に閉じる方向、後者は国内市場の中で大手への集中を避ける方向です*1。どちらの条件も満たさないと入れない帯があるということでもあります*1。
SME全体については、政府の目標も掲げられています*1。非法人連邦機関について、10億豪ドルまでの契約では価額ベースで25%以上をSMEから、2千万豪ドルまでの契約では40%をSMEから調達する、というものです*1。
公表は42日以内、変更も1万豪ドル刻み
受注した後の扱いも押さえておきます*1。
対象機関は、公表しきい値以上の契約について、契約を締結してから42日以内にAusTenderで公表しなければなりません*1。一般契約についても、締結または変更から42日以内の公表が求められます*1。
変更の公表には3つの引き金があります*1。未公表の契約が変更されて公表しきい値以上になった場合、ひとつの変更で公表済みの契約額が1万豪ドル以上増減する場合、そして未公表の変更の累計が公表済みの契約額を1万豪ドル以上変動させる場合です*1。
供給者から見ると、契約の金額と変更の履歴が公開の場に出るという前提になります*1。一般契約の通知では、供給者の情報や他の対象機関の名称といった項目を、調達しきい値以上の価額のものとして扱うとも定められました*1。
期限の起点にも注意が要ります*1。42日は締結の日から数えます*1。契約の締結と、社内での承認や押印の完了が別の日付になる運用では、起点の解釈を発注側と合わせておくと確実です*1。変更についても、変更ごとの判定と累計の判定が並列で置かれているため、小さな変更を重ねる案件では累計の管理が必要になります*1。
公開の前提は、価格の交渉戦略にも影響します*1。過去の同種案件の落札額が参照できるということでもあるためです*1。日本でも公共の入札情報は公開されますが、変更の刻みまで規則で決めている点は参考になります*1。近い論点は米国OMBの調達データの透明性にも現れていました。
リスクと保険の配分にも、原則が書かれている
契約条件の交渉で引ける材料もあります*1。
CPRsは、リスク配分の一般原則として、リスクは最もよく管理できる立場の当事者が負うべきであると述べます*1。そのうえで、対象機関は他の当事者が管理により適したリスクを引き受けるべきではなく、逆に自らが管理により適したリスクを供給者へ不適切に移すべきではないとしました*1。
保険についても具体的です*1。対象機関は、供給者が実際に負うリスクを契約上の賠償責任の上限に反映することによって、契約における保険の要求を抑えるべきとされます*1。さらに、契約が授与されることになるまで、供給者に付保を指示すべきではないとも書かれました*1。応札の段階で保険料を負担させない、という配慮です*1。
セキュリティの扱いも明示されています*1。対象機関は、サイバーセキュリティのリスクを含む調達上のセキュリティのリスクを、豪州政府の保護的セキュリティ政策枠組みに従って考慮し管理すべきとされました*1。要求事項の根拠が枠組みに紐づくため、提案の側もその構造で答えると通りやすくなります*1。
SMEへの配慮も、条文として並んでいます*1。職員は、要求事項を定め価値を評価する際に競争力のあるSMEと取引する利点を考慮すべきこと、提案書の作成費用のような参入の障壁に留意すべきこと、SMEの能力と地域市場への関与を見るべきこと、そして大規模な案件を適切な場合に小さな単位へ分割することを含む、供給者の層を厚くする利点を考慮すべきことです*1。
支払いにも触れています*1。非法人連邦機関は、物品やサービスの引渡しが満足なものと確認され、正しく作成された請求書を受け取った後、上限となる支払期日の中で支払わなければならないとされました*1。
日本のIT企業は、どう読むか
この規則は豪州政府の内部規範で、日本の事業者に義務を課すものではありません*1。ただし、参入の可否と条件を左右します*1。
第一に、入口の設計です*1。1万豪ドル以上・調達しきい値未満の帯は、原則として豪州企業だけの世界になりました*1。この帯を狙うなら、現地法人の設立か、豪州企業との協業が前提になります*1。所有比率50%以上という条件があるため、単なる支店では要件を満たしません*1。
第二に、SME枠の使い方です*1。DTAが所管する一般契約では、12万5千豪ドル未満がSME限定です*1。関連事業体を含めて常勤換算200人未満という条件なので、日本の親会社が大きい場合、豪州子会社はSMEになりません*1。この枠は、現地のSMEと組んで下請けに入る形で関わることになります*1。
第三に、しきい値以上を狙うという選択です*1。12万5千豪ドル以上の調達には第2部の追加規則が適用され、原則として公開の入札になります*1。国際的な約束に沿って開かれる領域なので、規模の大きい案件の方が海外事業者には入りやすい構造です*1。
もうひとつ、倫理と規制の確認という要素があります*1。CPRsは、職員が調達を行うにあたり、入札者の実務について倫理的な雇用慣行を含む労働に関する規制、労働安全衛生、環境への影響を考慮して、合理的な照会を行わなければならないとしています*1。提案書に添える情報として、これらを示せる材料を用意しておくことになります*1。海外の元請として応じる場合、再委託先の労務や環境の状況まで説明を求められることがあるため、体制図と併せて整理しておくと手戻りが減ります*1。
第四に、契約条件の交渉材料です*1。リスクは管理に適した側が負う、保険は実リスクを賠償上限に反映して抑える、授与が決まるまで付保を求めない。これらは規則に書かれた原則なので、条件の擦り合わせで引用できます*1。日本国内の受託でも、同じ整理を提案の前提として持ち込む価値があります*1。関連して、米国OMBの商用調達の拡大も、要求の作り方を変える動きでした*1。
まとめ:豪州の連邦調達規則2025で押さえる3つの視点
豪州では、PGPA法2013第105B条第1項に基づく連邦調達規則(CPRs)の新しい版が2025年10月7日に制定され、2025年11月17日から適用されています。旧版(2024年7月1日版)は施行と同時に廃止されました。押さえたい視点は三つあります。第一に、金額の線。公表しきい値は、非法人連邦機関の契約が1万豪ドル、所定の法人連邦機関の契約が建設サービス以外で40万豪ドル、建設サービスで750万豪ドルです。調達しきい値は、非法人連邦機関が建設サービス以外で12万5千豪ドル、所定の法人連邦機関が40万豪ドル、建設サービスの調達が750万豪ドルで、これ以上の調達には第2部の追加規則も適用されます。金額はいずれもGST込みで、建設以外の調達しきい値は20年ぶりに引き上げられました。第二に、優先の枠。第5.4項により、予定価額が1万豪ドル以上で調達しきい値未満の調達では、一般契約からの調達を除き、非法人連邦機関は豪州企業のみに提案を求めます。豪州企業とは、親会社を含めて50%以上が豪州の所有であるか主として豪州の株式市場で取引され、税務上の豪州居住者であり、主たる事業所が豪州にある事業体で、この項の適用に限りニュージーランド企業も含みます。第5.5項により、12万5千豪ドル未満で経営助言サービスパネル、人材パネル、またはDTAが所管する一般契約から調達する場合は、その一般契約に載るSMEのみに提案を求めます。SMEは、豪州またはニュージーランドの企業で、関連事業体を含めた常勤換算が200人未満の事業体です。いずれも、適切でないと判断する場合は根拠の文書化が求められます。第三に、公表と契約条件。公表しきい値以上の契約は締結から42日以内にAusTenderで公表し、未公表の契約がしきい値以上になった場合、変更で契約額が1万豪ドル以上増減する場合、未公表の変更の累計が1万豪ドル以上変動させる場合にも公表します。リスクは最もよく管理できる当事者が負うべきとされ、保険の要求は実際に負うリスクを賠償上限に反映して抑え、契約の授与が決まるまで付保を指示しないこととされました。サイバーセキュリティを含む調達上のセキュリティのリスクは、豪州政府の保護的セキュリティ政策枠組みに従って考慮・管理されます。
よくある質問
日本の企業は、しきい値未満の案件に参加できないのですか。
第5.4項の対象となる帯では、原則として難しくなります。同項は、予定価額が1万豪ドル以上で調達しきい値未満の調達について、一般契約からの調達を除き、非法人連邦機関が豪州企業のみに提案を求めなければならないとしています。豪州企業の定義は、親会社を含めて50%以上が豪州の所有であるか主として豪州の株式市場で取引されていること、税務上の豪州居住者であること、主たる事業所が豪州にあることの3つです。なお、提案がない場合や価値に見合う提案がない場合、担当職員が適切でないと判断して根拠を文書化した場合には、通常の調達方法で進められます。
SMEの200人という基準は、単体で数えるのですか。
関連事業体を含めて数えます。CPRsの定義では、SMEは豪州企業またはニュージーランド企業で、常勤換算200人未満の事業体とされています。従業員数を評価する際には、会社法2001第50AAA条にいう関連事業体の従業員も含めるとされ、関連事業体には親会社、子会社、および関係会社が含まれます。したがって、大企業の傘下にある小規模な現地法人は、この基準ではSMEに当たりません。
契約の内容は、どこまで公表されますか。
公表しきい値以上の契約が対象です。対象機関は、公表しきい値以上の価額で契約を締結した場合、42日以内にAusTenderで公表しなければなりません。公表しきい値は、非法人連邦機関の契約が1万豪ドル、所定の法人連邦機関の契約が建設サービス以外で40万豪ドル、建設サービスで750万豪ドルです。変更についても、未公表の契約がしきい値以上になった場合、契約額が1万豪ドル以上増減する場合、未公表の変更の累計が1万豪ドル以上変動させる場合に、42日以内の公表が求められます。一般契約についても、締結または変更から42日以内に公表されます。
応札の段階で保険に入る必要がありますか。
規則は、そうしないよう求めています。CPRsは、対象機関が契約における保険の要求を、供給者が実際に負うリスクを契約上の賠償責任の上限に反映することによって抑えるべきだとしています。そのうえで、契約が授与されることになるまで、供給者に付保を指示すべきではないと明記しました。あわせて、リスクは一般原則として最もよく管理できる当事者が負うべきであり、対象機関は他の当事者が管理により適したリスクを引き受けるべきではなく、自らが適する場合には供給者へ不適切に移すべきではないとされています。
出典
- *1 参考:オーストラリア連邦法令登録簿「Commonwealth Procurement Rules 17 November 2025」(F2025L01263・2025年10月7日制定/2025年11月17日施行)(https://www.legislation.gov.au/F2025L01263/asmade/text)。本記事の一次情報。序文(PGPA法2013 第105B条第1項に基づく制定、旧CPRs 2024年7月1日版(F2024L00627)の廃止、しきい値未満での豪州企業の優先の新設、経営助言サービスパネル・人材パネル・デジタルマーケットプレイスにおけるSMEの優先、建設以外の調達しきい値の20年ぶりの引き上げ)、金額がGST込みである旨、公表しきい値(1万豪ドル/40万豪ドル/750万豪ドル)と42日以内のAusTender公表・変更の3つの引き金・一般契約の通知の扱い、調達しきい値(12万5千豪ドル/40万豪ドル/750万豪ドル)と第2部の適用、第5.4項(豪州企業のみへの打診、一般契約からの調達の除外、先住民調達方針の優先、例外と文書化)、第5.5項(12万5千豪ドル未満でのSME限定、DTA所管の一般契約、例外と文書化)、SMEに関する配慮と25%・40%の目標、支払期日、リスク配分と保険の原則、ならびに保護的セキュリティ政策枠組みに沿ったサイバーセキュリティを含むセキュリティのリスクの取扱い、定義(AusTender、豪州企業、SME、標準ほか)を確認した。確認日は2026年9月10日。(2026年9月確認)