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技術選びで遅れは戻らない、開発のアジリティは工程から見る
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- IPAの調査で企業がアジリティに重要だとしたのは、クラウドなどの利活用が46.6%で最も多く、テストや本番反映の自動化(CICDなど)は7.9%でした。
- 5つまで選べる設問で41.2%の企業が上限まで選んでおり、重要なものを絞り込んでいません。
- 遅れを取り戻すときは、技術を選ぶ前に遅れている工程を1つ選び、待ち時間の原因が人手不足か、テストやレビューといった確認の手順かを見分けます。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
遅れを取り戻そうと相談を始めたのに、話がいつのまにか、どの新しい技術を取り入れるかに移っている。導入を検討しているあいだも、遅れている工程はそのまま残っている——。開発の現場では、こうした食い違いが起こりがちです。開発のアジリティとは、IPAの調査の説明によれば、開発の「俊敏性・適応性」を指します。*3
企業がアジリティを高めるうえで何を重視しているかが分かれば、自社で何から手を付けるかを考える材料になります。ただし万能ではなく、調査は重要だと思うものを選んでもらった結果で、実際に取り入れているかどうかまでは示していません。本記事では、開発の遅れに悩む実務担当者に向けて、企業が重視する項目、項目の選び方の特徴、遅れを取り戻す手順、そして外部に頼むときに確認したい点を整理します。
目次
開発のアジリティとは
IPA(情報処理推進機構)の「2024年度ソフトウェア動向調査」は、アジリティの高いソフトウェア開発を行ううえで重要だと思うものを企業に尋ねています。*3 選択肢は16の項目に「わからない」と「その他」を加えた18個で、企業は重要だと思うものを5つまで選びます。
16の項目には、クラウドやAIといった技術の導入だけでなく、アジャイル開発の推進、開発内製化、意思決定の高速化なども並んでいます。つまり、この設問でいうアジリティを高める手段は、新しい技術を取り入れることに限りません。どの項目を選んだかを見ると、企業が技術、開発の進め方、社内の体制のどれを重視しているかが分かります。
企業は何を重視しているのか
調査は2024年12月17日から2025年2月14日にかけて行われ、2025年4月7日時点で企業799件の回答がありました。回答は匿名化され、オープンデータとして公開されています。*1 ここでは、公開されている企業向けの回答データ(CSV)を数えて比率を計算しました。この設問はすべての企業が答える設問なので、比率はどれも799件に対する割合です。
最も多く選ばれたのは「クラウド、OSS、マイクロサービスなどの利活用」で、372件、46.6%でした。OSS(ソースコードが公開されたソフト)や、機能を小さく分けて作るマイクロサービスを含む項目です。次いで「AIなどの先進的な外部サービスの導入」が364件で45.6%、「ノーコード、ローコードの活用」が290件で36.3%です。*2 ノーコードとローコードは、プログラムをほとんど書かずに画面や機能を作る方法を指します。
4番目と5番目には、「レガシーシステムの脱却」の234件、29.3%と、「意思決定の高速化」の232件、29.0%が並びました。上位5つを選んだ件数を合計すると1492件で、全項目を選んだ件数の合計2745件の54.4%を占めます。5つのうち3つは、クラウドやAI、ノーコードといった社外から取り入れる技術です。残る2つは、古いシステムの入れ替えと、判断の速さにかかわる項目でした。
| 選択肢 | 件数 | 799件に対する比率 |
|---|---|---|
| クラウド、OSS、マイクロサービスなどの利活用 | 372件 | 46.6% |
| AIなどの先進的な外部サービスの導入 | 364件 | 45.6% |
| ノーコード、ローコードの活用 | 290件 | 36.3% |
| レガシーシステムの脱却 | 234件 | 29.3% |
| 意思決定の高速化 | 232件 | 29.0% |
| 開発内製化 | 193件 | 24.2% |
| 外部企業との協力強化 | 179件 | 22.4% |
| アジャイル開発の推進 | 176件 | 22.0% |
| 専門部署の設置 | 129件 | 16.1% |
| 将来ニーズ調査や分析の強化 | 122件 | 15.3% |
| DevOpsやDataOpsなどの業務と運用の一体化 | 79件 | 9.9% |
| CICDや自動テストの導入による効率化 | 63件 | 7.9% |
| 技術的負債の管理 | 59件 | 7.4% |
| プラットフォーム・エンジニアリングの推進 | 51件 | 6.4% |
| モデリングの活用 | 35件 | 4.4% |
| シミュレーション、デジタルツインなどの導入 | 24件 | 3.0% |
| わからない | 129件 | 16.1% |
| その他 | 14件 | 1.8% |
少なかったテストと運用の自動化
下位には、開発の進め方と自動化にかかわる項目が並びます。「DevOpsやDataOpsなどの業務と運用の一体化」は79件で9.9%、「CICDや自動テストの導入による効率化」は63件で7.9%でした。*2 CICDは、プログラムを変更するたびに、テストと本番環境への反映を自動で行う仕組みのことです。DevOpsは、開発する人と運用する人が一体となって開発を進めるやり方を指します。
最も多い46.6%と「CICDや自動テストの導入による効率化」の7.9%を比べると、差は38.7ポイントで、件数では372件と63件で約5.90倍になります。最も少なかったのは「シミュレーション、デジタルツインなどの導入」の24件、3.0%でした。*2 テストや運用を自動化すれば確認の待ち時間を直接減らせますが、これらを選んだ企業は1割前後にとどまりました。
なお、「わからない」を選んだ企業も129件、16.1%ありました。「専門部署の設置」と同じ件数ですが、取り組みの項目ではないため、順位には含めていません。
上限の5つまで選ぶ企業が多い
項目ごとの比率だけでは、企業がどう選んだかは見えません。そこで、16の項目のうちいくつを選んだかで799件を分けると、上限の5個を選んだ企業が329件、41.2%で最も多くなりました。次いで3個が137件で17.1%、0個が136件で17.0%、4個が94件で11.8%、2個が67件で8.4%、1個が36件で4.5%です。*2
選んだ個数の中央値(少ない順に並べて真ん中の企業の値)は4個、平均は3.26個でした。0個の136件は、「わからない」を選んだ128件と、「その他」だけを選んだ8件です。1個だけ選んだ36件では、「クラウド、OSS、マイクロサービスなどの利活用」の9件が最も多く、「専門部署の設置」の7件が続きました。
4割の企業が上限まで選んでいるということは、多くの企業が重要なものを絞り込んでいないということです。自社で遅れを取り戻すときは、候補を並べたままにせず、何から手を付けるかを決める必要があります。
技術の導入と進め方の重なり
16の項目を3つのまとまりに分けて数え直すと、もう一つの特徴が見えてきます。1つ目は、クラウドなどの利活用、AIなどの外部サービス、ノーコード・ローコード、シミュレーションやデジタルツインの4項目で、社外から取り入れる技術です。2つ目は、CICDや自動テスト、DevOpsなど、アジャイル開発、モデリング、技術的負債(後回しにした改修の積み残し)の管理、プラットフォーム・エンジニアリングの6項目で、開発の進め方と自動化にあたります。3つ目は、開発内製化、レガシーシステムの脱却、意思決定の高速化、将来ニーズ調査や分析、専門部署の設置、外部企業との協力強化の6項目で、体制と判断にかかわるものです。
それぞれ1つ以上を選んだ企業は、取り入れる技術が579件で72.5%、体制と判断が592件で74.1%、進め方と自動化が332件で41.6%でした。「取り入れる技術」と「進め方と自動化」の2つの組み合わせで見ると、技術だけを選んだ企業が282件で35.3%、両方を選んだ企業が297件で37.2%、進め方と自動化だけが35件で4.4%、どちらも選ばなかった企業が185件で23.2%です。*2
技術を挙げた579件のうち、半分ほどにあたる282件は、進め方と自動化の項目を1つも選んでいません。技術を取り入れることを重視する企業でも、開発の進め方や自動化までは挙げていない企業が多いということです。
遅れを取り戻すにはどう進めるのか
こうした回答の傾向を踏まえると、開発の遅れを取り戻すときは、導入する技術を選ぶ前に、次の4つの手順で進めると整理しやすくなります。
- 遅れている工程を1つ選ぶ
- その工程の待ち時間が、人手不足で起きているのか、テストやレビューといった確認の手順で起きているのかを分ける
- 人手不足で起きている部分は、任せる作業と期間を決めて人を増やす
- 確認の手順で起きている部分は、自動化を1つだけ取り入れる
1つ目の手順で工程を1つに絞るのは、候補を並べたままでは、どこから手を付けるかが決まらないためです。2つ目の手順で待ち時間の原因を分けるのは、分けずに話し合うと、上位に並ぶクラウドやAIといった技術の導入の話に移りやすいためです。
3つ目の手順で作業と期間を決めるのは、テストや運用の自動化が進んでいない状態では、当面は人手で遅れを取り戻すことになるためです。たとえば「結合テストの実施を来月末まで」のように作業と期限を書き出しておけば、誰にどれだけ加わってもらえばよいかが見えてきます。4つ目の手順で自動化を1つに限るのは、いくつも同時に始めると、どれも途中で止まりやすいためです。1つを取り入れて日々の作業で使えるようにしてから、次に進みます。
リリース前にどんな確認をしているかは「リリース前の確認事項を決める手順」で、同じ調査の799件を母数にしたプロジェクト管理の体制は「プロジェクト管理の体制」で扱っています。
つまずきやすい点
一つ目は、遅れを取り戻す相談が、新しい技術の導入の検討に変わってしまうことです。導入の検討には数か月かかります。検討は別の議題として進め、遅れている工程への対応とは分けて話し合います。
二つ目は、調査の順位をそのまま自社の優先順位にしてしまうことです。この設問は重要だと思うものを尋ねたもので、実際に取り入れているか、アジリティが上がったか、なぜ重要だと思うかは尋ねていません。*3 上位の項目を取り入れれば自社の遅れが解消するとは言えないため、自社で遅れている工程から考えます。
三つ目は、人手不足の部分に人を増やすとき、任せる作業と期間を決めないまま始めることです。作業が決まっていないと、加わった人は何から始めればよいかを周りの社員に尋ねることになり、答える社員の手も止まってしまいます。
外部に委託するときに確認しておきたい点
3つ目の手順で決めた作業と期間は、そのまま外部の専門人材に任せる作業の条件になります。遅れている工程のうち、どの作業をいつまで任せるかが決まっていれば、フリーランスを含む業務委託の人材にも加わってもらいやすくなります。委託する前に、作業の中身と期限、確認の手順を誰が担うかを書き出しておきましょう。
一方で、1つ目と2つ目の手順、つまりどの工程を優先するか、待ち時間の原因をどう見るかは、社内で決めます。どこから遅れを取り戻すかは、自社の事業の状況によって変わるためです。人材不足への対応を企業がどう考えているかは「IT人材不足の対応方針」で、古いシステムを使い続けた場合の影響は「レガシーシステムを放置したときの影響」で整理しています。
まとめ:開発のアジリティで確かめておきたい3つの点
開発のアジリティを踏まえて遅れを取り戻すうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、導入する技術を選ぶ前に、遅れている工程を1つ選ぶこと。第二に、その工程の待ち時間が人手不足で起きているのか、確認の手順で起きているのかを分けること。第三に、人手不足の部分は任せる作業と期間を決め、確認の手順の部分は自動化を1つずつ取り入れることです。この3点を踏まえておけば、「技術の検討を続けているうちに、納期が近づいてしまった」という事態を避けやすくなります。遅れている工程を誰が担うかに迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
アジャイル開発とアジリティは同じ意味ですか
同じではありません。調査では、アジリティは開発の「俊敏性・適応性」と説明され、アジャイル開発の推進はそれを高める16の項目の1つとして並んでいます。*3 アジャイル開発の推進を選んだ企業は176件、22.0%でした。
この調査の数値は、日本の企業全体の傾向と考えてよいですか
そのままは当てはまりません。回答は任意で、母集団を代表するように選んだものではないためです。*1 また2025年4月7日時点の回答で、ここでは産業別や規模別の違いは集計していません。自社の状況と比べる目安として使うとよいでしょう。
個人の回答は含まれていますか
含まれていません。調査には個人74件の回答もあり、企業799件と合わせて計873件ですが、ここで扱ったのは企業向けの799件です。*1 個人向けと企業向けは別の設問で尋ねられています。
「その他」にはどんな回答がありましたか
「その他」を選んだ企業は14件、1.8%でした。自由記述の中身は公開データに含まれておらず、内容は公表されていません。「その他」だけを選び、16の項目を1つも選ばなかった企業は8件です。
開発の遅れを相談したいとき
遅れている工程で任せる作業と期間の整理からご相談いただけます。
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出典
- *1 参考:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査」調査結果データの公開と分析レポートの募集(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/software-engineering/result-software2024.html)。出典:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査」の公開ページ。公開日2025年2月27日・最終更新日2025年4月25日、調査期間(2024年12月17日から2025年2月14日)、2025年4月7日時点の回答件数(企業799件・個人74件の計873件)、匿名化してオープンデータとして公開していることを参照(2026年9月確認)
- *2 参考:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 企業向け 調査結果(選択肢項目文字列)」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/software-engineering/h5f8pg00000028n8-att/software2024-c-result-data-str.csv)。出典:Q2-12の回答データ。本文・図・表の件数と比率、差と倍率、延べ選択数、選んだ個数の分布、3つのまとまりの件数、中央値と平均は、このCSVを数えて計算した値。図と表はこの値をもとに作成(2026年9月確認)
- *3 参考:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 企業向け 設問一覧」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/software-engineering/h5f8pg00000028n8-att/software2024-c-questions.xlsx)。出典:Q2-12の設問文、18の選択肢、5つまで選ぶ必須の複数選択であること、アジリティを「俊敏性・適応性」と説明していること、すべての企業種別が回答対象であることを参照(2026年9月確認)
- *4 参考:IPA「ソフトウェア開発関連調査」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/index.html)。IPAが公開している開発関連の調査の一覧(2026年9月確認)