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本国原則の撤廃、英国は2026年5月7日に線を引き直した
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 本国原則の残りが消えた:2026年5月7日からです*1。
- 市場アクセスの免除がなくなる:EEA拠点でも英国の規律に服します*1。
- 訴追の制限も外れた:公益の逸脱条件は不要になります*1。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
越境でオンラインサービスを出すとき、どこの国の規律に従うのかは費用に直結します。英国は、その線を引き直しました。
電子商取引(改正および付随規定)規則2026が2026年4月13日に制定され、議会への提出から21日後の2026年5月7日に施行しました*1。根拠は保持EU法(廃止・改革)法2023の第14条第1項と第20条第1項(b)です*1。
廃止されたのは、本国原則(Country of Origin Principle、CoOP)に関する規定です*1。何が残っていて、何がなくなったのかを順に見ていきます。
目次
本国原則とは、どこの規律に従うかの割り振り
まず全体像です*1。
本国原則は、電子商取引指令(Directive 2000/31/EC)の第3条に由来する考え方です*1。情報社会サービスの提供者は、原則として設立している国(本国)の規律に服し、受け入れ国の側は、その分野について上乗せの規律を課さない、という割り振りです*1。
域内市場を作るための仕組みでした*1。事業者から見れば、EEAのどこか1か国のルールを守れば全域へサービスを出せることになります*1。国ごとに免許や届出を取り直す必要がなくなるため、越境の費用が下がります*1。小さな事業者ほど、この恩恵は大きくなります*1。
英国はEUを離脱しましたが、この仕組みの一部は保持EU法として残っていました*1。今回の規則は、その残りを片づけるものです*1。
説明ノートの整理が明快です*1。改正または廃止される規則は、保持EU法(廃止・改革)法2023の第11条第2項にいう二次的な保持EU法であるか、その二次的な保持EU法への改正に伴って改正されるものである、とされました*1。
「情報社会サービス」という語も、この文脈では広く取られます*1。指令の定義では、報酬を得て、遠隔で、電子的手段により、受け手の個別の求めに応じて提供されるサービスを指します*1。ウェブサイト、アプリ、オンラインの取引の場、配信のサービスなど、オンラインで完結する多くのものが入ります*1。
手続きにも触れておきます*1。この規則は、法2023の別表5第6項第2号にいうふるい分け(sift)の要件を2026年3月11日に満たしています*1。議会の委員会が手続きの重さを判断する仕組みを通したうえで制定された、ということです*1。保持EU法を扱う改正では、この段階を経たかどうかが冒頭に明記されるため、改正の重さを推し量る手がかりになります*1。
市場アクセスの免除が、なくなった
いちばん影響が大きいのが第2条です*1。
第2条は、電子商取引(EC指令)規則2002から本国原則の規定を削除しました*1。対象は、第2条第1項の定義のうち調整分野(coordinated field)、第2条第2項、第4条第3項から第5項および第7項、第5条の全体、そして別表の全体です*1。
説明ノートは、これらが何をしていたかを述べています*1。情報社会サービスの開始または遂行について、資格、許可、届出に関する要件や、提供されるサービスの質もしくは内容に関する要件を含む、英国の一定の市場アクセス規制から、EEAに拠点を置く提供者を免除していた*1。
| 改正の対象 | 削除された内容と、それが持っていた効果 |
|---|---|
| 電子商取引(EC指令)規則2002 | 「調整分野」の定義、第2条第2項、第4条第3項〜第5項・第7項、第5条、別表。資格・許可・届出の要件や、サービスの質・内容に関する英国の市場アクセス規制から、EEAに拠点を置く提供者を免除していた |
| 電子商取引指令(テロリズム法2006)規則2007 | 第2条第2項と第4条。テロリズム法2006の第1条(テロの奨励)または第2条(テロ出版物の頒布)の罪について、公益の逸脱の条件が満たされない限り、EEAに拠点を置く情報社会サービスの提供者に対して手続きを提起しないとしていた |
| 極端なポルノグラフィ(電子商取引指令)(スコットランド)規則2011 | 第2条第2項・第3項と第3条。市民統治(スコットランド)法1982の第51A条の罪について、同様の訴追の制限を置いていた |
| 電子商取引(雑則)規則2018 | 第2条第2項・第3項、第6条、第11条。特定の複数の罪について同様の訴追の制限を置き、あわせて見直しの義務づけも定めていた |
削除の対象に別表が含まれている点も見ておきたいところです*1。2002年規則の別表は、本国原則の適用から外れる分野を並べたものでした*1。原則そのものがなくなるため、その例外の一覧も不要になります*1。定義の「調整分野」が消えたのも同じ理由で、原則が働く範囲を画するための語だったからです*1。
第6条から第8条は、これらに付随する削除です*1。電子商取引(改正等)(EU離脱)規則2019、法執行および保安(改正)(EU離脱)規則2019、刑事司法(EU離脱)(スコットランド)(改正等)規則2020の該当箇所が対象になりました*1。
適用地域の扱いも整理されています*1。第1条第3項は、この規則による改正は、改正または廃止される規定と同じ適用地域を持つとしました*1。改正の対象ごとに、及ぶ範囲が決まる形です*1。
訴追の制限も、同時に外れた
市場アクセスとは別に、刑事の手続きに関する制限も消えました*1。
第3条は、電子商取引指令(テロリズム法2006)規則2007の第2条第2項と第4条を削除します*1。これらは、テロリズム法2006の第1条(テロの奨励)または第2条(テロ出版物の頒布)の罪について、公益の逸脱の条件が満たされない限り、EEAに拠点を置く情報社会サービスの提供者に対して手続きを提起しないという内容でした*1。
第4条は、極端なポルノグラフィ(電子商取引指令)(スコットランド)規則2011の第2条第2項・第3項と第3条を削除します*1。市民統治(スコットランド)法1982の第51A条(極端なポルノグラフィの所持)の罪について、同様の制限がありました*1。
第5条は、電子商取引(雑則)規則2018の第2条第2項・第3項、第6条、第11条を削除します*1。特定の複数の罪について同じ形の制限を置いていたもので、あわせて見直しの義務づけも外れました*1。
これらに共通するのは、公益の逸脱の条件(public interest derogation condition)という仕組みです*1。本国原則のもとでは、受け入れ国が域外の提供者へ規律を及ぼすには、公益上の理由と手続きが要りました*1。その関門がなくなり、通常どおりの判断で手続きを進められるようになります*1。
コンテンツを扱うサービスにとっては、この変化のほうが直接的かもしれません*1。英国の利用者へ向けてサービスを出しているなら、拠点がどこであれ、英国の刑事の規律が同じように及ぶ前提になります*1。オンラインの表現を規律する制度は各国で広がっており、豪州の年齢制限SNSの判定のように、機能や目的で対象を切る例も出ています*1。
実務では「どこに拠点があるか」が効かなくなる
この改正を、事業の側から読み替えます*1。
これまでは、EEAに拠点を置いていることが、英国の一部の規律に対する盾になっていました*1。今後は、その盾がありません*1。英国の利用者へサービスを提供するなら、英国の要件を自分で満たすことになります*1。
確認すべき対象は、説明ノートが挙げた3つの類型です*1。資格に関する要件、許可に関する要件、届出に関する要件、そして提供するサービスの質または内容に関する要件です*1。業種ごとの免許や登録が、ここに含まれます*1。
実務では、いま自社が英国で何に依拠しているかの棚卸しが出発点になります*1。免許や登録が要る事業でなければ、そもそも本国原則の恩恵を受けていなかった可能性もあります*1。逆に、英国側で登録が求められる分野に踏み込んでいるなら、施行の前後で扱いが変わります*1。
もっとも、影響の大きさは分野で異なります*1。金融サービスのように、もともと別の枠組みで規律されている分野は、本国原則の外に置かれていることが多いためです*1。自社の分野で、実際に本国原則に依拠していた要件があったかを確かめる作業が先になります*1。
時期の設計も見ておきます*1。制定から施行までは21日しかありません*1。しかも、これは議会への提出の日から21日後という数え方です*1。既存の事業者にとっては、準備の時間が長くありません*1。
影響評価が作られていない点も特徴です*1。説明ノートは、私的、民間、公的の各部門に対して、重大な影響が見込まれないため、完全な影響評価は作成していないとしました*1。実際に依拠していた事業者は限られている、という前提です*1。ただし説明覚書とデミニミス評価は別に公表されています*1。
保持EU法の整理という、より大きな流れ
この規則は、単独の政策変更というより、大きな整理の一部です*1。
根拠となった保持EU法(廃止・改革)法2023は、EU離脱後に英国法へ残った規定を、廃止・改正・置き換えのいずれかで整理するための法律です*1。第14条第1項は、関係する国内の当局が規則により保持EU法を廃止または改正できる権限を与えます*1。
今回の対象は、いずれも二次的な保持EU法に当たるか、その改正に伴うものでした*1。EU指令の考え方を英国の規則に移し込んだ部分が、指令との結びつきを理由に整理されている構図です*1。
この流れは、越境でサービスを出す立場では追う価値があります*1。いつの間にか根拠が消えているという事態が起こりうるためです*1。今回のように、影響評価が作られない小さな改正で、依拠していた免除がなくなることがあります*1。
整理の順序にも癖があります*1。今回のように、まとめて廃止するのではなく、規則ごとに該当の条項を抜いていく形が採られました*1。1本の改正規則で6つの規則に手が入っています*1。自社に関係する規則の名前だけを見ていると、改正の存在に気づきにくい作りです*1。
追い方としては、法令の題名で監視するのが現実的です*1。英国の法令データベースは、題名で検索できるフィードを提供しています*1。自社に関係する語(電子商取引、情報社会サービス、データ保護など)で定期的に確認すると、こうした改正を拾えます*1。
同じ英国では、標準の本体を法令の外へ置く設計も進んでいます*1。承認データ標準の仕組みのように、法令だけを見ていても義務の中身が分からない制度が増えました*1。監視の対象を、法令と、法令が参照する文書の両方に広げる必要があります*1。
日本のIT部門が持ち帰れる論点
この規則は英国の制度で、日本の事業者に直接の義務を課すものではありません*1。ただし、越境でサービスを出す設計には示唆があります*1。
第一に、準拠する規律の根拠を記録しておくことです*1。「EEAに拠点があるから英国の要件は掛からない」という判断をしていた場合、その根拠が今回なくなりました*1。設計の前提として置いた法的な判断は、根拠の条文とあわせて文書に残しておくと、変更が来たときに影響範囲を特定できます*1。
第二に、地域ごとの要件を機能として分離することです*1。国ごとに要件が変わる前提でシステムを組むなら、地域の判定と、地域ごとの設定(表示する情報、必要な同意、利用できる機能)を、コードに埋め込まず設定として持たせます*1。要件が増えたときに、実装ではなく設定の追加で済みます*1。
第三に、短い施行までの期間に備えることです*1。今回は提出から21日でした*1。制度の変更を、施行後に知って対応する形だと間に合いません*1。監視の仕組みと、影響を判断する担当を先に決めておくのが現実的です*1。
あわせて、越境の判定に使う要素を洗い出しておくことも役に立ちます*1。拠点の所在、サービスの提供先、決済の通貨、表示する言語。制度によって、どの要素で線が引かれるかは異なります*1。要素ごとに現状を一覧にしておけば、新しい制度が来たときに当てはめが速くなります*1。
第四に、影響評価がないことを、影響がないことと取り違えないことです*1。今回は完全な影響評価が作られていませんが、それは依拠していた事業者が少ないという想定に基づくものです*1。自社が例外の側にいる可能性は、自分で確かめるしかありません*1。
まとめ:英国の本国原則の撤廃で押さえる3つの視点
英国では、電子商取引(改正および付随規定)規則2026が2026年4月13日に制定され、議会への提出から21日後の2026年5月7日に施行しました。根拠は保持EU法(廃止・改革)法2023の第14条第1項および第20条第1項(b)で、同法の別表5第6項第2号にいうふるい分けの要件は2026年3月11日に満たされています。押さえたい視点は三つあります。第一に、何が廃止されたか。この規則は、電子商取引指令2000/31/ECの第3条に定める本国原則に関する規定のうち、英国に残っていたものを削除しました。第2条は、電子商取引(EC指令)規則2002から「調整分野」の定義、第2条第2項、第4条第3項から第5項および第7項、第5条、そして別表を削除します。これらは、情報社会サービスの開始または遂行について、資格、許可、届出に関する要件や、提供されるサービスの質もしくは内容に関する要件を含む英国の一定の市場アクセス規制から、EEAに拠点を置く提供者を免除していました。第二に、訴追の制限。第3条は、電子商取引指令(テロリズム法2006)規則2007から、テロリズム法2006の第1条または第2条の罪について、公益の逸脱の条件が満たされない限りEEAに拠点を置く提供者に対して手続きを提起しないとしていた規定を削除しました。第4条は、極端なポルノグラフィ(電子商取引指令)(スコットランド)規則2011から、市民統治(スコットランド)法1982第51A条の罪についての同様の規定を削除し、第5条は、電子商取引(雑則)規則2018から、特定の複数の罪についての同様の規定と、見直しの義務づけを削除しています。第三に、付随の整理。第6条から第8条は、電子商取引(改正等)(EU離脱)規則2019、法執行および保安(改正)(EU離脱)規則2019、刑事司法(EU離脱)(スコットランド)(改正等)規則2020について、付随する削除を行いました。第1条第3項により、これらの改正の適用地域は、改正または廃止される規定の適用地域と同じです。完全な影響評価は作成されていませんが、説明覚書とデミニミス評価が公表されています。
よくある質問
本国原則とは何ですか。
電子商取引指令2000/31/ECの第3条に定める考え方です。情報社会サービスの提供者は、原則として設立している国の規律に服し、受け入れ国の側は、その分野について上乗せの規律を課さないという割り振りです。規則2026の説明ノートは、この原則をCountry of Origin Principle(CoOP)と呼び、削除された規定が、情報社会サービスの開始または遂行についての資格、許可、届出に関する要件や、提供されるサービスの質もしくは内容に関する要件を含む英国の一定の市場アクセス規制から、EEAに拠点を置く提供者を免除していたと説明しています。
いつから適用されますか。
2026年5月7日からです。規則2026の第1条第2項は、規則が議会へ提出された日から21日目に施行すると定めています。規則は2026年4月13日に制定され、4月16日に議会へ提出されました。なお、保持EU法(廃止・改革)法2023の別表5第6項第2号にいうふるい分けの要件は、2026年3月11日に満たされています。
どの規則が改正されましたか。
6つの規則です。電子商取引(EC指令)規則2002(第2条)、電子商取引指令(テロリズム法2006)規則2007(第3条)、極端なポルノグラフィ(電子商取引指令)(スコットランド)規則2011(第4条)、電子商取引(雑則)規則2018(第5条)、電子商取引(改正等)(EU離脱)規則2019(第6条)、法執行および保安(改正)(EU離脱)規則2019(第7条)、および刑事司法(EU離脱)(スコットランド)(改正等)規則2020(第8条)です。第6条から第8条は、他の規定に付随する改正とされています。
影響評価は作られていますか。
完全な影響評価は作られていません。規則2026の説明ノートは、私的、民間、公的の各部門に対して、重大な影響が見込まれないため、この法令について完全な影響評価は作成していないとしています。ただし、説明覚書とデミニミス評価が作成され、法令とあわせて www.legislation.gov.uk で公表されているとも記載されています。
出典
- *1 参考:英国法令データベース「The Electronic Commerce (Amendment and Consequential Provision) Regulations 2026」(SI 2026 No. 407・2026年4月13日制定/2026年5月7日施行)(https://www.legislation.gov.uk/uksi/2026/407/made)。本記事の一次情報。ふるい分けの要件を満たした日(2026年3月11日)、制定日、議会への提出日、施行(提出の日から21日目)、根拠(保持EU法(廃止・改革)法2023 第14条第1項および第20条第1項(b)、ならびに大臣が同法第14条第1項の関係する国内の当局であること、別表5第6項第2号の手続きの充足)、第1条第3項(改正の適用地域)、第2条(電子商取引(EC指令)規則2002からの「調整分野」の定義、第2条第2項、第4条第3項〜第5項・第7項、第5条、別表の削除)、第3条(電子商取引指令(テロリズム法2006)規則2007の第2条第2項と第4条の削除)、第4条(極端なポルノグラフィ(電子商取引指令)(スコットランド)規則2011の第2条第2項・第3項と第3条の削除)、第5条(電子商取引(雑則)規則2018の第2条第2項・第3項、第6条、第11条の削除)、第6条から第8条(EU離脱に伴う各規則についての付随の削除)、ならびに説明ノート(本国原則の説明、各条が廃止した規定の効果、影響評価を作成していない旨、説明覚書とデミニミス評価の公表)を確認した。確認日は2026年9月10日。(2026年9月確認)