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業務委託エンジニアとM&Aのシステム統合、3つの導入方針の違い
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- M&A後のシステム統合では、方針を選ぶ前に、買収した会社のソフトウェアにライセンス違反やサポートが終わったものがないかを確かめます。
- 中小企業庁のガイドラインは導入方針を3つ挙げ、目的や費用対効果から選ぶとしていて、どれが良いとは決めていません。
- 課題を一覧にして担当者と期限を置き、どのシステムを残すかは社内で決めたうえで、期限に間に合わない作業を業務委託エンジニアに頼みます。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
買収した会社の販売管理システムを、自社のものに置き換えるべきか決めきれない。統合の作業を始めたいのに、社内に手の空いているエンジニアがいない——。M&Aのあとにシステムを任された現場では、こうした迷いが起こりがちです。M&A後のシステム統合とは、買収した会社と自社のシステムの使い方を見直し、両社の業務を止めずに続けられる形に整えることを指します。
統合の方針が決まれば、業務委託エンジニアに頼む作業も書き出しやすくなります。ただし万能ではなく、どの方針が合うかは両社の業務やデータの違いによって変わり、一律には決められません。本記事では、M&Aのあとにシステムを任されたマネージャーに向けて、中小企業庁のガイドラインが挙げる失敗例、3つの導入方針の違い、統合の前に確かめるリスク、誰が作業を担うのか、進め方、そして外部に頼むときに確認したい点を整理します。
目次
M&A後のシステム統合とは
中小企業庁は2022年3月に「中小PMIガイドライン」を公表しました。*1 PMI(M&A成立後の統合作業)の進め方を、中小企業どうしのM&Aに合わせて整理した文書です。ガイドラインは会社を買う側を譲受側、買われる側を譲渡側と呼んでおり、本記事でもこの呼び方を使います。
ITシステムは、人事・労務、会計・財務、法務と並ぶ管理機能の一つとして扱われています。ITシステム分野の取組のゴールは2つです。1つは、譲渡側のITシステム環境にあるリスクや課題を把握し、必要に応じて是正すること。もう1つは、導入のコストと効果のバランスを見ながら、双方の業務効率の維持または向上に役立つITシステムを整えることです。*1
つまり、システム統合は「片方のシステムに合わせること」と同じではありません。まず譲渡側のシステムにある問題を見つけて直し、そのうえで両社の業務に合う形を選ぶ、という2段階で考えます。
ガイドラインが挙げる失敗例
ガイドラインはITシステムの項に失敗例を3つ載せています。どれも、統合の作業に入ってから気づくと、やり直す作業が多くなるものです。
1つ目は、譲渡側の従業員が有料のソフトウェアをライセンス(ソフトウェアを使う権利)を買わずに使っていて、従業員個人と企業に罰金が科された例です。*1 契約書や購入の記録と、実際に入っているソフトウェアを突き合わせる作業が要ります。
2つ目は、経営や業務の情報がすべて個人管理の表計算ソフトに入っていて、項目も形式もばらばらだった例です。紙でしか残っていない情報も多く、必要な情報を把握するのに多大な時間と労力がかかったとされています。*1 この場合は統合の前に、データを集めて形式をそろえる作業を1つの工程として見込んでおく必要があります。
3つ目は、譲受側のシステムを譲渡側に入れた結果、両社で業務に必要なデータの項目の違いが多く、足りない項目を追加する改修に費用がかかった例です。要らない入力項目も画面に多く表示され、業務の効率が下がりました。*1 自社のシステムをそのまま入れても、改修と入力の手間が別に生じることがあると分かる例です。
3つの導入方針の違い
ガイドラインは、ITシステムの導入方針に3つのパターンがあるとしています。譲受側のITシステムを譲渡側に導入する、譲渡側の業務に適合したITシステムを導入する、譲受側・譲渡側一体で新たなITシステムを導入する、の3つです。どれを選ぶかは目的や費用対効果などの観点から検討するとしており、どれか1つを勧めてはいません。
| 導入方針 | 合いやすい条件の例 | 先に確かめたい点 |
|---|---|---|
| 譲受側のシステムを譲渡側に導入する | 両社の業務の流れと、扱うデータの項目が近い | 足りない項目の改修と、要らない入力項目の扱い |
| 譲渡側の業務に合ったシステムを導入する | 譲渡側にしかない業務があり、その業務を変えずに続けたい | グループ全体で数字をまとめるときの、データのやり取りの方法 |
| 両社一体で新たなシステムを導入する | 両社のシステムがどちらも古い、または入れ替えの時期が近い | 費用と期間、両社の業務をそろえる話し合いの手間 |
この3つのほかに、当面は両社のシステムを並べて使い続け、会計の数字など必要なデータを両社でやり取りできるようにするだけのやり方もあります。リスクの是正を先に済ませたいときは、この形でしばらく運用してから方針を決めるのも一つの方法です。
方針を選ぶ前に考える観点として、ガイドラインは3つを挙げています。そもそもシステム化の必要があるのか、目的に合わせた機能は何か、譲渡側の利用者がうまく使えるよう譲受側がどんな運用サポートをするのか、です。*1 システムを入れ替えれば、譲渡側の従業員は新しい画面と手順を覚え直すことになります。問い合わせに答える人と期間を、方針と一緒に決めておくと進めやすくなります。
統合の前に確かめるリスク
ガイドラインは、ITシステムに関するリスクへの具体的な取組として3つを挙げています。ライセンス違反等の抑止、情報セキュリティ対策、ITシステム管理方針の明確化です。
ライセンスについては、有料のソフトウェアを関係会社や社内で不正に使い回したり、違法に複製したりしていないかを確かめます。そのうえで、従業員が業務で購入・課金したライセンスの情報を一元管理し、従業員の裁量で購入や課金をさせないよう周知を徹底するとしています。
情報セキュリティでは、サポート期間が終わったソフトウェア(OSを含む)への注意を促しています。不具合や脆弱性(攻撃に使われるおそれのある欠陥)が新たに見つかっても、修正プログラムがメーカーから提供されないためです。該当するソフトウェアを使っていないかを確かめ、適切に管理できるようルールを定めておく必要があるとしています。*1
管理方針については、中小企業ではITシステムの調達、運用保守、情報セキュリティの責任者が不在であることが多く、会社全体の視点でシステム投資を判断することが難しいと指摘しています。そのため、ITシステムの管理責任者を明確に定め、利用の基準やルールをIT管理方針として周知しておくことが望ましいとしています。*1 業務委託エンジニアに統合を頼む場合も、この責任者は社内の人が務めます。どのシステムを残すかを決める人がいないまま作業を頼むと、作業が決定待ちで止まりやすくなるからです。
誰がシステム統合を担うのか
ガイドラインには、中規模・大規模案件52件のPMI推進体制をまとめた図があります。52件のうち、譲受側と譲渡側で組んだチームがITシステムの実務作業に関わった案件は37%でした。会計・財務の60%、営業・販売の56%、人事の46%より低い値です。*1
支援機関(助言や作業を担う外部の専門家)では、差がさらに開きます。支援機関が関わった割合は、会計・財務の48%に対して、ITシステムは6%でした(いずれも複数回答)。*1
一方でガイドラインは、支援機関の役割の目安として、ITシステム分野の相談先に「ITベンダー、スマートSMEサポーター 等」を挙げています。*1 スマートSMEサポーターは、中小企業(SME)のIT導入を支援する事業者として国が認定した事業者です。
M&Aの途中で集めた資料を、PMIの担当者や支援機関に引き継ぐことも勧められています。企業概要書、DD(買収前に行う調査)の調査報告書、譲渡側へのQ&Aシートなどです。 業務委託エンジニアに統合を頼むときも、これらのうちシステムに関わる部分を渡せれば、最初の調べ直しが減ります。
どう進めるのか
進め方は、課題を一覧にするところから始まります。ガイドラインは、現状把握で出てきた課題をリスト化し、課題ごとに対応方針、優先度、担当者、着手時期、完了期限を定めて一覧にするよう求めています。例として載っている課題管理表では、ITシステム分野の課題に「社員全員へのPC導入」が挙がり、優先度は「中」です。共同利用のPCを使っていた社員が1人1台持てるよう、PCを調達して配る取組が書かれています。*1
システム統合の課題も、同じ形で書けます。「譲渡側の会計ソフトのライセンスを確かめる」「サポートが終わったOSのパソコンを入れ替える」「受注データの項目を両社で突き合わせる」——このくらいまで分けると、担当者と期限を置けます。
一覧ができたら、完了時期までに必要な作業を細かく分けてスケジュールにし、担当者を書いて行動計画にします。そのうえで定例会などで進捗を確かめ、遅れが出たら理由と解消の方法をはっきりさせて、完了期限への影響を把握します。
もう1つ大切なのは、DDで分かったことがすべてだと考えないことです。ガイドラインは、DD等はM&Aの限られた期間内に集めた資料をもとに調べるものなので、譲渡側の課題やリスクをすべて把握できるとは限らないと注意を促しています。*1 統合を始めたら、DDのときに接点のなかった譲渡側の従業員にも話を聞き、見つかった課題を一覧に加えていきます。
システムの統合は、譲渡側の従業員が普段不便に思っていることを解消する機会にもなります。ガイドラインは、譲渡側の従業員との信頼関係を築く取組の例として、PC等のデバイスを一人1台支給することや、従業員一人一人にメールアドレスを付与することを挙げています。
外部に委託するときに確認しておきたい点
業務委託エンジニアに頼むのは、課題管理表に書いた作業のうち、社内の人だけでは期限に間に合わないものです。「譲渡側の受注データを自社の形式に変換するプログラムを作る。対象は過去3年分、完了は来年3月末」のように、作業と対象と期限を書いてから声をかけてください。
導入方針を決める判断と、統合後にどのシステムを残すかの判断は社内に残します。業務委託エンジニアには、両社のシステムの違いを調べて一覧にする、データの項目を突き合わせる、といった判断の材料づくりを頼むと進めやすくなります。
頼む前に、ライセンスとサポート期間の確認がどこまで済んでいるかも伝えておきます。確認が済んでいないまま改修を始めると、使い続けられるか分からないソフトウェアを改修することになるためです。
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まとめ:システム統合で確かめておきたい3つの点
M&A後のシステム統合を業務委託エンジニアと進めるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、導入方針を選ぶ前に、譲渡側のライセンス、サポートが終わったソフトウェア、ITシステムの管理責任者の有無を確かめること。第二に、譲受側のシステムを入れる、譲渡側の業務に合わせる、両社で新たに入れる、の3つの方針を、両社の業務とデータの違いや費用から比べ、一律に決めないこと。第三に、課題を一覧にして担当者と期限を置き、期限に間に合わない作業を外部に頼むことです。この3点を踏まえておけば、「自社のシステムを入れたら、足りない項目の改修で予定が延びた」という事態を避けやすくなります。どの作業を社外に委ねるかに迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
M&Aが成立する前から準備できることはありますか
あります。ガイドラインは、成立前からDD等で譲渡側の管理機能の情報を集め、見つかった問題が成立後のPMIにどう影響するかを把握し、現実的な対応策をできる限り事前に整理するよう勧めています。 システムについては、ライセンスの契約と、使っているソフトウェアの一覧を早めに依頼しておくと、成立後の作業に入りやすくなります。
費用の都合でDDを専門家に頼まない場合はどうすればよいですか
ガイドラインは、コスト等の観点からDDを依頼しない場合でも、DD報告書の作成を不要とするなどの簡易な調査を依頼し、できる限り課題やリスクを把握しておくことが望ましいとしています。システムの項目だけでも、ライセンスとサポート期間を調べてもらう方法があります。
ガイドラインはどのくらいの規模のM&Aを想定していますか
2つの規模を想定しています。小規模案件は譲受側の売上高が3億円程度まで、譲渡側が1億円程度まで(従業員5名程度まで)、中規模・大規模案件は譲受側が10億〜30億円程度、譲渡側が3億〜10億円程度(従業員15〜100名程度)です。*1 ITシステムの項は、中規模・大規模案件向けの章(発展編)に置かれています。
情報セキュリティ対策は何を参考にすればよいですか
ガイドラインは、具体的な対策についてIPA(情報処理推進機構)の「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」を参照するよう書いています。あわせて、サイバー攻撃に備えて「サイバーセキュリティお助け隊サービス」の導入なども検討するとしています。
M&Aのあとのシステム統合を相談したいとき
課題管理表に書いた作業のうち、社内だけでは期限に間に合わないものの整理からご相談いただけます。導入方針がまだ決まっていない段階でも構いません。
Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。システムの違いを調べる作業から、データの変換まで、作業と期限を決めたうえでお探しいただけます。
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出典
- *1 参考:中小企業庁「中小PMIガイドライン~中小M&Aを成功に導くために~」(PDF)(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/pmi_guideline.pdf)。出典:中小企業庁「中小PMIガイドライン」(令和4年3月)。P.29(案件規模のイメージ)、P.35(中規模・大規模案件におけるPMI推進体制の実態、n=52、複数回答)、P.36(支援機関の役割・引き継ぎ資料)、P.48(信頼関係構築の取組例)、P.70〜71(課題管理表・スケジュール・進捗の管理)、P.97〜98(管理機能の現状把握)、P.119〜121(ITシステム分野)を参照。図とこの記事の表は、資料に示された数値と記述をもとに筆者が作成した(2026年9月確認)
- *2 参考:中小企業庁「事業承継」(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/index.html)。中小PMIガイドライン(令和4年3月16日)が掲載されていることの確認として(2026年9月確認)