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業務委託の電子契約の進め方|個人のエンジニアと結ぶ手順と保存
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論
- 個人のエンジニアとの業務委託は電子契約で結べ、フリーランス法の取引条件の明示も相手の事前の承諾なく電子で行えます。
- 電子で明示したあとに相手が書面を求めたら遅滞なく交付し、本人確認と署名の方法は契約の重要性に応じて選びます。
- 署名済みの契約データは電子取引データとして、改ざんの防止と検索の要件を満たす形で保存します。
※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
フリーランスのエンジニアに業務委託で開発を頼むことになり、契約は電子契約で結びたい。ただ、相手は個人で、同意はどう取るのか、取引条件はメールで送ってよいのか、結んだ契約のデータはどう残すのか——。紙の契約書から切り替えるときに迷う点です。
本記事は、個人のエンジニアと業務委託契約を電子契約で結ぶ企業の担当者に向けて、相手との取り決めから保存までを5つの手順で示します。よりどころには民法、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)と公正取引委員会・厚生労働省の資料、電子署名法、電子帳簿保存法と国税庁の資料を使います。個別の契約の扱いは専門家に確認してください。
目次
業務委託を電子契約で結ぶ5つの手順
契約は、申込みに相手が承諾したときに成立します。民法第522条は、契約の成立には「法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定めています。*1 業務委託の契約を紙ではなく電子契約で結ぶこと自体に、法律上の妨げはありません。
一方で、相手が従業員を使わない個人のエンジニアなら、フリーランス法の決まりが加わります。発注側は業務委託をしたら直ちに、給付の内容・報酬の額・支払期日などを、書面か電磁的方法で明示しなければなりません。*2 電子契約なら、この明示も電子で済ませます。手順は次の5つです。
| 手順 | やること | よりどころ | 抜けやすい点 |
|---|---|---|---|
| 手順1 結び方を相手と決める | 電子で結ぶこと、条件を受け取るメールアドレスや連絡手段、紙の控えが要るかを確かめる | 民法第522条、フリーランス法第3条第2項 | 相手が紙の書面を求めたときの扱いを決めていない |
| 手順2 取引条件を電子で明示する | 給付の内容・報酬の額・支払期日などを、メールやチャットで文字にして送る | フリーランス法第3条、公正取引委員会規則第1条・第2条 | 契約書の締結を待つうちに明示が遅れる |
| 手順3 本人確認と署名の方法を決める | 署名する人が本人かを確かめる手段と、電子署名の付け方を選ぶ | 電子署名法第2条・第3条、第3条関係Q&A | 相手の正確な氏名や連絡先を確かめずに送る |
| 手順4 署名して控えを渡す | 双方が署名したデータを、相手も自分の手元に保存できる形で渡す | フリーランス法Q&A(Q41) | 相手の手元に契約の控えが残らない |
| 手順5 電子取引データとして保存する | 署名済みのデータを、改ざんを防ぐ措置をとり、検索できる形で保存する | 電子帳簿保存法第7条、同法施行規則第4条 | メールの受信箱に置いたままにする |
契約書に書く項目そのものは「業務委託エンジニアの契約書に入れる7つの項目」で扱っています。
取引条件を電子で明示するときの決まり
フリーランス法の明示(3条通知)を電子で行うとき、相手の事前の承諾は要りません。公正取引委員会と厚生労働省の「考え方」は、3条通知を電磁的方法で提供することについて「事前に特定受託事業者の承諾を得る必要はない」としています。*4 ただし、相手は電子で受け取ったあとでも、同じ事項を書いた書面の交付を求められます。求められた発注側は、遅滞なく書面を交付しなければなりません。*2

電磁的方法として認められる送り方は、公正取引委員会の規則とQ&Aが示しています。
- 電子メール、チャットツール、SMSで、受け取る相手を特定して送る
- SNSやアプリのメッセージ機能のうち、第三者が見られないもので送る
- 明示する事項を載せたウェブページのURLを、メッセージに書いて送る
- 明示する事項を記録したファイルを、USBメモリなどに入れて渡す
どの方法でも、明示する事項は文字や番号などで表示されていなければなりません。メールなどで送った場合は、相手の端末で受信した時に届いたものとみなされます。*3 明示する事項は規則に12の号で並んでおり、エンジニアへの開発の委託でまず押さえるのは次の項目です。
- 双方の名称や氏名(相手を識別できるもの)と、業務委託をした日
- 給付(成果物や作業)の内容と、受け取る期日か期間、受け取る場所
- 検査をする場合は、検査を完了する期日
- 報酬の額と支払期日
書面の交付を求められても応じなくてよい場合も、規則に定めがあります。相手のほうから電子での提供を求め、それに応じて明示した場合や、すでに書面を交付している場合などです(相手の責めによらず内容を見られなくなったときを除く)。*3 電子で明示した発注側は、少なくとも報酬を支払うまでは書面交付の求めに応じる必要があるとされています。*4
本人確認と電子署名の決め方
電子署名法は、電子署名を、その情報を作った人が措置を行ったと示せること、改変されていないかを確かめられることの2つを満たす措置と定めています。第3条は、本人だけが行える電子署名が付いた電磁的記録を「真正に成立したものと推定する」としています。*6 争いになったとき、本人が作った文書として扱われやすくなるという意味です。
電子契約の仕組みには、署名する本人の鍵を使う形と、サービスを提供する事業者が利用者の指示で署名する形があります。違いと選び方は「電子契約システムの導入を外注する費用と進め方」で扱っています。個人のエンジニアと結ぶ場面で発注側が決めるのは、次の点です。
- 署名する人の確かめ方:登録したメールアドレスとパスワードに加え、SMSで届くワンタイム・パスワードを入れる2要素認証は、十分な水準を満たすと評価され得る例として挙げられています。2要素認証が必須という意味ではありません
- 身元の確かめ方:サービス事業者による身元確認は推定の要件ではありませんが、利用者と契約書の名義人が同じだと示す有効な手段の一つになり得ます。取引の当事者同士で確かめる場合も同様です
- 方式の選び方:契約の重要性や金額を考え、推定が得られなかった場合の損害も踏まえて選ぶことが適当とされています*7
- 相手の氏名:3条通知ではハンドルネームでも相手を特定できれば足りますが、正確な氏名をあらかじめ把握しておくことがトラブルへの備えになるとされています*5
身元確認を高い水準で行っていなかった場合でも、契約の成立の過程を裏付ける証拠を出せれば、文書が真正に成立したことを示す手段になり得るとされています。*7 面談の記録や、条件をやり取りしたメールも一緒に残しておきます。
契約データの保存の要件
電子で結んだ業務委託の契約書のデータは、電子帳簿保存法の「電子取引」に当たります。電子取引は、注文書・契約書・領収書などに通常書かれる取引情報を電磁的方式でやり取りする取引と定義され、法人税と所得税の保存義務者はそのデータを保存しなければなりません。*8

国税庁の一問一答は、保存の要件を真実性(改ざんされていないこと)と可視性(見て探せること)を確保するためのものとして示しています。*9 発注側で準備することは次の表のとおりです。
| 要件 | 求められること | 発注側の準備 |
|---|---|---|
| 改ざんの防止 | 次のいずれか:タイムスタンプが付いた後に授受する/授受の後に速やかにタイムスタンプを付す/訂正や削除の記録が残るか、訂正や削除ができない仕組みで授受と保存をする/訂正や削除を防ぐ事務処理の規程を定めて運用する | 使う仕組みでどれを満たすかを決める。規程で済ませるなら規程を備え付ける |
| 検索 | 取引年月日その他の日付・取引金額・取引先で検索でき、日付と金額は範囲を指定でき、2つ以上の項目を組み合わせて探せる | ファイル名か一覧表に、日付・金額・相手の名前を残す |
| 見られる状態 | 画面や書面に、整然とした形で明瞭に表示できる機器を備え付ける | 保存した場所を開けるパソコンと、出力できる環境を用意する |
| 保存の期間 | 法人は、契約書などの書類を原則7年保存する | 契約の終了ではなく、法人税の保存期間に合わせて残す |
令和3年度の税制改正で、電子取引のデータを紙に印刷して保存する措置は廃止されました。*9 検索の要件は、基準期間の売上高が5,000万円以下で、税務職員からのデータのダウンロードの求めに応じられるようにしている場合などは不要になります。紙で結んだときの印紙の扱いは「業務委託契約書の印紙のよくある質問」をご覧ください。
外部に頼むときに確認しておきたい点
電子契約で結ぶ準備が整っても、条件の合うエンジニアが見つからなければ契約には進めません。外部人材の紹介を受けるときは、相談の前に次の5つを書き出しておくと話が早く進みます。
- 範囲:任せたい作業と、成果物で受け取るか作業の提供で受け取るか
- 期間:始める時期と契約の区切り、更新するかどうか
- 体制:社内で指示や確認をする人と、契約の窓口になる人
- 費用の決まり方:月の稼働で払うか成果物で払うかと、支払期日の決め方
- 結び方と引き継ぎ:電子契約で結ぶこと、取引条件を送る連絡手段、終了時に返してもらう資料
まとめ:業務委託を電子契約で結ぶ手順
個人のエンジニアとの業務委託は、電子契約で結べます。第一に、フリーランス法の取引条件の明示は相手の事前の承諾なく電子で行えますが、相手が書面を求めたら遅滞なく交付します。第二に、本人確認と電子署名の方法は、契約の重要性や金額に応じて選び、成立の過程を示す記録も残します。第三に、署名済みの契約データは電子取引データとして、改ざんの防止と検索の要件を満たす形で保存します。
よくある質問
個人のエンジニアに電子契約を断られたらどうしますか
紙の契約書で結べば足ります。契約の成立に書面などの方式は要らず、フリーランス法の明示も書面か電磁的方法のどちらかで行えます。電子で明示したあとに書面を求められた場合も、原則として遅滞なく交付します。
契約書のPDFをメールで送るだけでも足りますか
明示する事項を書いたファイルをメールに添付して送る方法は、3条通知の電磁的方法に当たります。ただし、電子署名法第3条の推定は本人による電子署名が付いているときの定めです。金額の大きい契約では、署名と本人確認の方法を決めておきます。
契約データはメールの受信箱に置いたままでもよいですか
電子取引のデータは、検索できる形と改ざんを防ぐ措置をそろえて保存します。国税庁の一問一答は、ファイル名に日付・取引先・金額を規則的に入れ、訂正や削除を防ぐ事務処理の規程を定めて運用する方法を例に挙げています。
電子契約で結べる外部エンジニアを探す
任せたい作業の範囲と期間が分かっていれば、そのままご相談いただけます。契約の結び方を検討している段階でも構いません。
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出典
- *1 参考:民法(明治29年法律第89号)第522条(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)。出典:e-Gov法令検索(法令API)。契約の成立と方式を参照(確認日2026年10月26日)(2026年10月確認)
- *2 参考:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)第2条・第3条(https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000025)。出典:e-Gov法令検索(法令API)。特定受託事業者の定義、給付の内容その他の事項の明示等を参照(確認日2026年10月26日)(2026年10月確認)
- *3 参考:公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則 第1条〜第3条(https://laws.e-gov.go.jp/law/506M60200000003)。出典:e-Gov法令検索(法令API)。明示する事項、電磁的方法、書面の交付を要しない場合を参照(確認日2026年10月26日)(2026年10月確認)
- *4 参考:公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(PDF)(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/may/01_5_fl_jftcmhlwguidelines.pdf)。出典:公正取引委員会(令和6年5月31日)。第2部第1の明示する方法と書面交付請求への対応を参照(確認日2026年10月26日)(2026年10月確認)
- *5 参考:公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」(https://www.jftc.go.jp/fllaw_limited/fllaw_qa.html)。出典:公正取引委員会。Q38(相手を識別できるもの)、Q41(電磁的方法による提供)を参照(確認日2026年10月26日)(2026年10月確認)
- *6 参考:電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号)第2条・第3条(https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000102)。出典:e-Gov法令検索(法令API)。電子署名の定義と、電磁的記録の真正な成立の推定を参照(確認日2026年10月26日)(2026年10月確認)
- *7 参考:デジタル庁・法務省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」(PDF)(https://www.moj.go.jp/content/001327658.pdf)。出典:令和2年9月4日総務省・法務省・経済産業省、令和6年1月9日一部改定。問2・問4・問5・問6を参照(確認日2026年10月26日)(2026年10月確認)
- *8 参考:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律 第2条・第7条、同法施行規則 第4条(https://laws.e-gov.go.jp/law/410AC0000000025)。出典:e-Gov法令検索(法令API)。電子取引の定義と電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存を参照(施行規則は法令ID 410M50000040043)(確認日2026年10月26日)(2026年10月確認)
- *9 参考:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和8年7月)(PDF)(https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0026007-006_05.pdf)。出典:国税庁。問2、問18、問19、問48と保存期間の参考表を参照(確認日2026年10月26日)(2026年10月確認)