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2026.07.28 らしくコラム

下請法改正(取適法)2026|IT委託の発注実務

LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム開発・運用を受託

取適法への改正内容を確認する発注担当者

2026年1月1日、これまで「下請法」と呼ばれてきた法律が「中小受託取引適正化法(略称:取適法)」へと改称され、内容も見直されました。システム開発やソフトウェアの制作を外部に発注している企業にとっては、他人事ではありません。改正では適用対象の判定に従業員数の基準が新たに加わり、これまで対象外だった発注企業が新しくルールの適用を受けるケースも出てきたのです。本記事では、IT・システム開発の委託という切り口から、何が変わり、自社が対象になるのか、発注者として何を見直せばよいのかを、専門部署がなくても読み進められるよう要点を絞って解説します。

ポイントは、「自社は資本金が小さいから下請法とは無縁だ」という従来の感覚が通用しなくなった点にあります。従業員数を基準にした線引きが加わったことで、開発を外注する多くの中堅企業が、発注者側の義務を負う立場になり得るのです。ルールを知らないまま従来どおりの取引を続けると、意図せず違反状態に陥りかねません。まずは全体像を押さえておきましょう。

この記事のポイント

  • 2026年1月施行で「下請法」は「取適法」に改称され、システム開発の外注(情報成果物作成委託)も対象です
  • 資本金基準に加えて従業員基準が新設され、開発委託では従業員100人超の発注企業が新たに対象になります
  • 価格協議への応諾、手形払いの見直し、60日以内の支払など、発注者が備えるべき実務が明確になりました

1. 2026年1月、下請法が「取適法」に変わった

まずは改正の輪郭を押さえます。名称が変わっただけの形式的な改正ではなく、対象範囲と守るべきルールの双方に手が入っている点が重要です。背景を理解しておくと、自社にどう関係するのかを判断しやすくなります。

1-1. 改称と改正の背景

今回の改正で、下請法は「中小受託取引適正化法(取適法)」へと名称が改められ、2026年1月1日に施行されました*1。「下請」という言葉が対等でない印象を与えるという指摘や、価格転嫁が進みにくい取引慣行を是正したいという政策的な狙いが背景にあります。物価や人件費が上がるなかで、立場の弱い受託側にしわ寄せが集中しないよう、発注者の責任をより明確にする方向での見直しです。呼び名が変わったことで、これまで下請法を「自社には関係ない」と捉えていた企業も、あらためて適用の有無を確認する必要が出てきています。

1-2. システム開発の外注も対象になる

取適法は、プログラムの作成をはじめとする「情報成果物作成委託」を対象取引として明記しています。つまり、業務システムやWebアプリ、スマートフォンアプリの開発を外部のベンダーやフリーランスに委託する行為は、この法律の枠組みに入ります。自社の事業向けに使うソフトウェアの制作を他社に任せる場合が典型例です。ハードウェアの製造委託だけが対象という誤解を持たれることもありますが、ソフトウェア開発の外注も同じように規律の対象となる点は、発注担当者がまず知っておきたい前提だといえるでしょう。

2. 自社は対象になるか|従業員基準の新設

委託契約の適用条件を確認する担当者

今回の改正でとりわけ影響が大きいのが、適用対象を判定する基準の追加です。従来は資本金の額だけで線引きしていましたが、そこに従業員数の基準が加わりました。この変更により、資本金は小さくても従業員数の多い企業が、発注者(委託事業者)として新たに対象になるケースが生まれています。

2-1. 資本金基準に従業員基準が加わった

システム開発などの情報成果物作成委託では、発注側の従業員数が100人を超え、受託側が100人以下という関係であれば、資本金の大小にかかわらず取適法が適用されます*1。従来の資本金基準(発注側の資本金が一定額を超える場合)に、この従業員基準が上乗せされた形です。どちらか一方の基準に該当すれば対象になるため、適用の裾野が広がりました。たとえば資本金は少額でも従業員が120人いるIT企業が、小規模なベンダーへ開発を委託する場合、改正後は発注者としての義務を負う立場になります。

取引の種類 発注側(委託事業者) 受注側(中小受託事業者)
情報成果物作成委託(プログラム作成など) 従業員100人超 従業員100人以下
製造委託・修理委託・特定運送委託など 従業員300人超 従業員300人以下
共通 従来の資本金基準にも該当すれば対象 相対的に小さい側が保護対象

上の表のとおり、ソフトウェア開発の委託は従業員100人という区切りが目安になります。自社が発注者として対象になるかどうかは、まず「常時使用する従業員が100人を超えているか」を確認するところから始めるとよいでしょう。なお対象の判定は取引ごとの当事者の規模で決まるため、相手先によって適用の有無が変わる点にも留意が必要です。

3. 発注者が守るべき主なルール

対象になる場合、発注者にはいくつかの義務と禁止事項が課されます。改正で新たに加わった、あるいは強化された代表的なルールを整理します。取引の実務に直結する部分なので、社内の発注フローと照らし合わせながら読み進めてみてください。

発注者が備える三つのステップを示す図
図:発注者が備える三つのステップ

3-1. 価格協議に応じる義務

改正で明確になったのが、受託側から代金の協議を求められた際に、これに応じずに一方的に代金を決めることが違反にあたるという点です。原材料費や労務費が上がっているのに、発注者が従来どおりの単価を押し付ける行為を防ぐ狙いがあります。開発委託でいえば、エンジニアの人件費が上昇しているなかで、受託ベンダーからの単価見直しの相談を無視して据え置きを通告する、といった対応がリスクになります。定期的に単価や条件を話し合う場を設けておくことが、実務上の対応の基本になるでしょう。

3-2. 手形払いの見直し

代金の支払手段についても見直しが入りました。換金までに時間がかかり受託側の資金繰りを圧迫しやすい手形での支払いは、原則として認められない方向です。紙の約束手形は段階的に廃止される予定とされており、支払手段を振込などへ切り替える準備が求められます。あわせて、振込にかかる手数料を受託側に負担させることも禁じられている点に注意が必要です。これまで慣行として手数料を差し引いて支払っていた場合は、運用の見直しが必要になります。

3-3. 支払期日と発注書面

代金の支払期日は、成果物を受け取った日から数えて60日以内に定めることとされています。長い支払サイトで受託側にしわ寄せがいかないよう、期間が短縮された形です。また、発注時には取引の内容や代金、支払期日などを記した書面(または電子的な記録)を交付する義務も、従来から引き続き課されています。口頭やあいまいな条件のまま開発を進めさせると、この書面交付義務に照らして問題となり得ます。発注の都度、条件を明文化して渡す運用を徹底しておくと、後々のトラブルを防ぎやすくなるでしょう。

項目 発注者に求められる対応
価格協議 受託側からの協議の求めに応じ、一方的な代金決定を避ける
支払手段 手形払いを見直し、振込などへ切り替える
手数料 振込手数料を受託側に負担させない
支払期日 成果物の受領から60日以内に設定する
発注書面 取引条件を記した書面・電子記録を交付する

4. 発注者が今から進めたい準備

ルールを把握したら、次は自社の取引実務を点検する番です。いきなり全ての契約を作り直す必要はありませんが、対象になり得る企業は、早めに現状を確認しておくと慌てずに済みます。取り組みやすい順に整理します。

ステップ1:自社が対象かを確認する

まず、常時使用する従業員数と資本金を確認し、開発を委託している相手先との規模の関係を照らし合わせます。従業員100人を超えていれば、情報成果物作成委託では発注者として対象になる可能性が高いでしょう。複数のベンダーやフリーランスに発注している場合は、取引先ごとに関係を確認しておくと、抜け漏れを防げます。

ステップ2:発注フローと契約を点検する

次に、発注書面の交付、支払期日、支払手段、手数料の扱いといった実務が、改正後のルールに沿っているかを点検します。とくに手形払いや手数料の差し引きが慣行として残っていないか、支払サイトが60日を超えていないかは確認しておきたいポイントです。契約書やテンプレートに古い条件が残っている場合は、この機会に見直しておくとよいでしょう。

ステップ3:協議の場と社内周知を整える

最後に、受託先と定期的に単価や条件を話し合える仕組みを整え、発注を担当する部署にルールを周知します。担当者が制度を知らないまま従来どおりの交渉を続けてしまえば、意図せず違反につながる恐れがあるのです。調達や経理を含めて情報を共有し、発注の実務に落とし込んでおくことが、継続的な対応の土台になります。

5. 受託する側にとっての意味

ここまで発注者の視点で見てきましたが、開発を受託する側にとっては、取引条件を交渉しやすくなる後押しになります。人件費の上昇分を単価に反映してほしいと協議を求めることが、法律の裏付けを持った正当な行為として位置づけられたためです。適正な条件で受注できる環境が広がれば、受託側も人材への投資や品質の向上に取り組みやすくなります。発注者と受託者は対立する関係ではなく、持続的に開発を続けられる取引関係を築くうえで、今回の改正は双方にとっての共通の土台になるといえるでしょう。委託を活用する企業にとっても、健全な取引を通じて信頼できるパートナーと長く付き合えることは、開発体制の安定につながります。

6. まとめ

2026年1月の改正で、下請法は「取適法」へと生まれ変わり、システム開発の外注も含めて発注者の責任がより明確になりました。資本金基準に従業員基準が加わったことで、これまで対象外だった中堅のIT企業が新たにルールの適用を受ける場面が増えています。価格協議への応諾、手形払いの見直し、60日以内の支払、発注書面の交付といった実務は、いずれも取引先との信頼関係を土台から支えるものです。まずは自社が対象になるかを確認し、発注フローと契約を点検するところから始めてみてはいかがでしょうか。制度への対応は、単なる義務の履行にとどまらず、開発を委ねるパートナーと長く協働していくための投資でもあります。

LASSICに相談するメリット

LASSICは元請(プライムベンダー)としてシステム開発・運用を受託し、発注者・受託者双方の立場での取引実務を数多く見てきました。開発の外注体制を見直したい、適正な条件でパートナーと協働したいといったご相談に、上流から運用まで一貫して伴走できるのが強みです。制度対応と開発体制の両面から、貴社の状況に合わせてご提案します。まずは現状の整理からでもお気軽にご相談ください。

よくある質問

下請法と取適法は別の法律ですか?

別の法律ではなく、下請法が改正されて名称と内容が見直され、「中小受託取引適正化法(取適法)」となりました。2026年1月1日に施行されています。従来の枠組みを引き継ぎつつ、適用対象や発注者のルールが拡充された形です。

システム開発の外注も取適法の対象ですか?

対象です。プログラムの作成をはじめとする情報成果物作成委託が対象取引に含まれており、業務システムやアプリの開発を外部へ委託する行為はこの法律の規律を受けます。ソフトウェア開発の発注も対象になる点に注意が必要です。

自社が対象かどうかはどう判断しますか?

情報成果物作成委託では、発注側の従業員が100人を超え、受託側が100人以下という関係が目安になります。加えて従来の資本金基準に該当する場合も対象です。取引先ごとに規模の関係が変わるため、相手先単位で確認するとよいでしょう。

発注者はまず何を見直せばよいですか?

発注書面の交付、支払期日が60日以内か、手形払いや振込手数料の受託側負担が残っていないか、価格協議に応じる体制があるか、といった実務を点検することが出発点です。契約書やテンプレートに古い条件が残っていないかも確認しておきましょう。

ルールに沿わない取引を続けるとどうなりますか?

改正後のルールに反する取引は、行政による指導や勧告の対象となり得ます。意図せず違反状態に陥らないためにも、対象となる企業は早めに発注フローを点検し、担当部署へ制度を周知しておくことが望まれます。

著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑


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  1. *1 出典:政府広報オンライン「2026年1月から下請法が『取適法』に!」、中小企業庁・公正取引委員会による改正下請法(取適法)の解説(施行日・従業員基準・支払ルール等)に基づく


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