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オンライン手続規則|英国HMCTSの不通時ルールと紙の代替
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 技術仕様は公表される:データ標準もGOV.UKです*1。
- 不通の影響は利用者に負わせない:不利益を受けないと明記*1。
- 紙の道は授権法の義務:代理人がいない者に限ります*2。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
行政や司法の手続をデジタルへ寄せるとき、設計の良し悪しは使えなかった人をどう扱うかに出ます。英国は、そこを規則の条文に書きました。
オンライン手続(規則および実務指示)規則2026が2026年6月23日に制定され、9月7日に施行しました*1。2022年司法審査・裁判所法が用意した権限で作られた、最初のオンライン手続規則です*1。
読みどころは3つあります。デジタルサービスについての条文、紙の道の作り方、そして試行の枠組み。順に見ていきます。
目次
最初のオンライン手続規則は、占有回復の手続から始まる
まず全体像です*1*2。
この規則は二重の入れ子になっています*1。外側のオンライン手続(規則および実務指示)規則2026があり、その別表としてオンライン手続規則2026が置かれました*1。作ったのはオンライン手続規則委員会で、記名者には記録長官、審判所上級長官、家事部長が並びます*1。
別表の規則は3部構成です*1。第1部がすべてのオンライン手続を貫く原則、第2部がすべてに適用される中核規則、第3部が特定の種類の手続にだけ適用される規則*1。第3部に入っているのは、いまのところ占有回復の手続だけで、適用開始は2026年9月7日、適用の範囲は実務指示に委ねられています*1。
授権法の側は、もっと広い範囲を想定しています*3。オンライン手続規則(指定手続)規則2025は、指定手続として4類型を挙げました*3。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| (a) | イングランドおよびウェールズにおける財産に関する民事手続 |
| (b) | 第一審審判所における財産に関する手続 |
| (c) | 上級審判所における財産に関する手続 |
| (d) | イングランドおよびウェールズにおける金銭的救済のための家事手続 |
枠は広く取り、実際に動かすのは1種類からという進め方です*1*3。占有回復の手続は、当事者に代理人がいない場合が多い領域でもあります*1。
デジタルサービスそのものに、条文が置かれた
この規則の特徴は、手続の作法だけでなく窓口となるシステムについて条文を置いたことです*1。
第3規則は、オンライン手続におけるすべてのことは、HMCTS(女王陛下の裁判所・審判所サービス)によって、またはその代理として設計され維持されるデジタルサービスにより行われ、GOV.UKから参照されると定めます*1。続けてそのデジタルサービスの技術仕様とデータ標準はGOV.UKで公表されるとし、手続の種類ごとに異なるデジタルサービスがありうることも明記しました*1。
技術仕様とデータ標準の公表を規則の本文に書いた点は、実装する側から見ると大きな違いです*1。接続や様式の仕様が公表物として存在することが、制度の前提になります*1。
第12規則は短い一文です*1。オンライン手続の場を提供するデジタルサービスは、すべての人が使えるように設計され、維持される*1。第14規則が、その中身を5つに分けました*1。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| (a) | 平易な言葉による案内 |
| (b) | 障がいおよび個別の必要に応じた合理的調整 |
| (c) | 実効的な参加を支えるための措置 |
| (d) | デジタルの利用を補助する支援 |
| (e) | 規則に従った非デジタルの代替 |
そして第15規則です*1。理由を問わずデジタルサービスが利用できない場合、その間にサービスを使えなかったことを理由として、オンライン手続において不利益を受ける者があってはならない*1。可用性の目標値ではなく、不通の影響を利用者に負わせないという結果で書かれています*1。同じ考え方は、英国が税務の電子通知で到達の扱いを制度側に置いたのとも通じます*1。
紙の道は、授権法が最初から義務づけていた
非デジタルの代替は、規則が親切心で置いたものではありません*2。2022年司法審査・裁判所法の第19条第6項が、オンライン手続規則が、電子的手段による手続の開始・遂行・進行、または審理以外の手続への参加を求める場合、その者に法的代理人がいないときは、代わりに非電子的手段によることを選べる旨も規則で定めなければならないとしています*2。
同条第1項(a)は、指定された種類の手続について電子的手段による開始を求めなければならないとしており、デジタル前提と紙の選択肢が、同じ条文の中で対になっています*2。第7項は審理についての規定で、電子的手段での参加を求める場合、裁判所または審判所が申立てによりまたは職権で、非電子的手段による参加を命じ、または指示できる旨も置くこととしました*2。
規則の側の作りは具体的です*1。第19規則により、手続の種類ごとの実務指示が紙の様式と、そこに記載すべき事項および形式を定め、様式はHMCTSによりオンラインで公表され、ダウンロードまたは印刷できるようにされます*1。加えて、デジタルサービスで情報を提出できない者から請求があれば、裁判所または審判所は説明資料を添えた紙の様式を交付しなければなりません*1。
提出後の流れも条文にあります*1。第20規則により、代理人がいない者は紙の様式で提出でき、第21規則により、その者が裁判所または審判所の指示に従い、必要な手数料を納めれば、裁判所または審判所がその情報を登録します*1。紙で受け取ったものを、運用でなく規則の指示として、システムへ取り込む形です*1。
第22規則は、開始した後の話です*1。手続が始まった後、代理人がいない当事者は、その手続の進展について紙で通知を受けることを選べます*1。入口だけ紙を認めて以後は画面だけ、という作りにしていません*1。
さらに第24規則は、正義を実現するために必要な場合、裁判所または審判所は、その手続をもはやオンライン手続としない旨を命じ、オンライン手続でなければ適用されたであろう他の規則により規律されるものとすることができるとしました*1。授権法の第19条第9項が用意した逃げ道を、規則の側で受けたものです*2。
試行の枠組みと、期間の数え方
外側の規則の第3規則は、実務指示による試行を認めています*1。実務指示は、ある実務および手続をオンライン手続規則へ取り込む前に評価するための試行の枠組みを設けることができる*1。
試行の間にできることも広めです*1。期間を限って、特定の種類の手続について、特定の裁判所および審判所における手続について、オンライン手続規則による定めを修正し、または適用しないこととすることができます*1。
実務指示の出し方は授権法の別表3にあります*4。イングランドおよびウェールズの民事手続と家事手続については、2005年憲法改革法 別表2 第1部に従って与えることができるほか、それ以外の方法で与えることもできるが、その場合は大法官と首席裁判官の承認を要するとされました*4。ただし法の適用や解釈についての手引き、司法判断の仕方についての手引きに当たる部分は、大法官の承認を要しません*4。
実装に近いところでは、第29規則の期間の数え方も押さえておきたいところです*1。ある日から、またはある日までの日数として期間が定められている場合、その特定の日は日数に数えません*1。5日以内の期間については、土曜日、日曜日、クリスマス、聖金曜日、1971年銀行および金融取引法 第1条の銀行休業日を含めません*1。
そして判決や命令の書き方です*1。行為をすべき最終日は、実行可能な限り暦日で表し、その日の何時までに行うべきかも含めなければなりません*1。期限の計算を実装する側にとって、どれも仕様そのものです*1。
日本のIT部門が持ち帰れる論点
この規則と法は英国の制度で、日本の事業者に直接の義務を課すものではありません*1*2*3*4。ただし、デジタル前提の窓口を設計する立場では参考になります*1*2。
第一に、不通のときの扱いを、可用性の数値ではなく結果で書くことです*1。第15規則は、稼働率の目標を置かず、使えなかったことで不利益を受ける者があってはならないとしました*1。社内の申請系でも、締切と障害が重なったときの救済を先に決めておくほうが、当日の判断で揉めません*1。
第二に、紙の代替を「受け取って終わり」にしないことです*1。第21規則は、紙で受けた情報を裁判所または審判所が登録すると書きました*1。代替経路を用意するとき、そこから先のデータの流れを設計に含めないと、片側だけ手作業の台帳が残ります*1。
第三に、技術仕様とデータ標準を公表物にすることです*1。第3規則は、仕様の公表先まで条文に書いています*1。社内やグループ内の連携でも、仕様を個別のやり取りで配るのをやめ、版のついた公開物として一箇所に置くと、接続先が増えたときの説明が軽くなります*1。
第四に、試行の枠組みを制度として持つことです*1。外側の第3規則は、期間と対象を限って本則を修正・不適用にできる形を用意しました*1。社内標準でも、例外申請ではなく期限つきの試行として扱う枠を作っておくと、本則を汚さずに新しいやり方を試せます*1。
第五に、期限は暦日と時刻で書くことです*1。第29規則の最終日は可能な限り暦日で、その日の何時までかも含めるという指示は、そのまま仕様に写せます*1。「3営業日以内」とだけ書かれた要件は、実装のたびに解釈が割れます*1。
まとめ:英国のオンライン手続規則で押さえる3つの視点
英国では、オンライン手続(規則および実務指示)規則2026が2026年6月23日に制定され、6月26日に議会へ提出されたうえで、2026年9月7日に施行しました。2022年司法審査・裁判所法 第2部第2章の権限により作られた最初のオンライン手続規則で、別表にオンライン手続規則2026が置かれています。押さえたい視点は三つあります。第一に、デジタルサービスについての条文。第3規則は、オンライン手続におけるすべてのことをHMCTSが設計し維持するデジタルサービスで行い、GOV.UKから参照するとし、技術仕様とデータ標準をGOV.UKで公表するとしました。第12規則はサービスをすべての人が使えるように設計し維持するとし、第14規則は平易な言葉の案内、障がいと個別の必要に応じた合理的調整、実効的な参加を支える措置、デジタル利用の補助、規則に従った非デジタルの代替の5つを保障します。第15規則は、サービスが利用できない間に使えなかったことを理由として不利益を受ける者があってはならないとしました。第二に、紙の道。授権法 第19条第6項が、電子的手段を求める場合には、法的代理人がいない者が非電子的手段を選べる旨も規則で定めることを義務づけています。規則の側では、実務指示が紙の様式を定め、様式はオンラインで公表され、請求があれば紙で交付され、提出された情報は裁判所または審判所がデジタルサービスへ登録します。開始後に紙で通知を受ける選択も認められます。第三に、適用範囲と試行。第3部に入っているのは当面、占有回復の手続だけで、適用開始は2026年9月7日です。外側の第3規則は、実務指示が期間と手続の種類を限って規則を修正し、または適用しないこととする試行の枠組みを設けられるとしました。
よくある質問
オンライン手続規則2026は、どの手続に適用されますか。
当面は占有回復の手続だけです。外側の規則の第2条第3項の表が、規則が適用される手続の種類と、適用が始まる日、適用の範囲を示しており、そこに挙げられているのは占有回復の手続で、適用開始は2026年9月7日、範囲は「占有回復手続のためのオンライン手続規則」と題する実務指示によるとされています。なお、オンライン手続規則(指定手続)規則2025は、指定手続として、イングランドおよびウェールズにおける財産に関する民事手続、第一審審判所と上級審判所における財産に関する手続、そしてイングランドおよびウェールズにおける金銭的救済のための家事手続の4類型を挙げています。
デジタルサービスが使えないときは、どうなりますか。
第15規則が、理由を問わずデジタルサービスが利用できない場合、その間にサービスを使えなかったことを理由として、オンライン手続において不利益を受ける者があってはならないと定めています。稼働率の目標や復旧時間の基準ではなく、利用者に不利益を負わせないという結果で書かれている点が特徴です。あわせて第12規則は、サービスをすべての人が使えるように設計し維持するとし、第14規則は、平易な言葉による案内、障がいと個別の必要に応じた合理的調整、実効的な参加を支える措置、デジタル利用の補助、規則に従った非デジタルの代替を利用者が利用できるものとしています。
紙で手続をすることはできますか。
代理人がいない者はできます。2022年司法審査・裁判所法 第19条第6項が、電子的手段による開始や進行などを求める規則には、法的代理人がいない者が代わりに非電子的手段を選べる旨も定めなければならないとしています。規則の側では、第19規則により実務指示が紙の様式と記載事項を定め、様式はHMCTSによりオンラインで公表され、デジタルサービスを使えない者から請求があれば説明資料とともに紙で交付されます。第20規則と第21規則により、代理人がいない者が紙で提出し、指示に従って手数料を納めれば、裁判所または審判所がその情報をデジタルサービスへ登録します。第22規則により、開始後の通知を紙で受けることも選べます。
規則に書かれていない運用を試すことはできますか。
試行の枠組みがあります。外側の規則の第3規則は、実務指示が、ある実務および手続をオンライン手続規則へ取り込む前に評価するための試行の枠組みを設けられるとし、オンライン手続規則による定めがまだない場合には、評価のための期間を限って、実務および手続についての定めを置けるとしています。試行の実施中は、期間を限り、特定の種類の手続について、また特定の裁判所および審判所における手続について、オンライン手続規則による定めを修正し、または適用しないこととすることもできます。
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出典
- *1 参考:英国法令データベース「The Online Procedure (Rules and Practice Directions) Rules 2026」(SI 2026 No. 696・2026年6月23日制定/2026年9月7日施行)(https://www.legislation.gov.uk/uksi/2026/696/made)。本記事の一次情報。制定日、議会への提出日(6月26日)、施行日(9月7日)、授権規定(2022年司法審査・裁判所法 第19条・第23条・第24条、第26条第1項および第2項の要件を満たしたこと)、オンライン手続規則委員会による作成、第2条(別表がオンライン手続規則2026である旨と、適用される手続の種類・適用開始日・適用範囲を示す表)、第3条(実務指示による試行の枠組みと、期間・手続の種類・裁判所を限った修正または不適用)、ならびに別表の第1規則(3部構成)、第2規則(オンライン手続の定義)、第3規則(デジタルサービス、GOV.UK、技術仕様とデータ標準の公表)、第12規則から第15規則まで(すべての人が使えること、非電子的手段、5つの支援、利用できない場合の扱い)、第17規則から第24規則まで(開始と以後の手続、紙の様式、代理人がいない者の提出と登録、紙での通知、オンライン手続でなくする命令)、第29規則(期間の数え方)、第30規則(占有回復の手続)を確認した。確認日は2026年9月15日。(2026年9月確認)
- *2 参考:英国法令データベース「Judicial Review and Courts Act 2022」第19条(裁判所および審判所におけるオンライン手続のための規則)(https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2022/35/section/19)。授権法の一次情報として。第1項(a)から(c)まで(電子的手段による開始を求めなければならないこと、遂行・進行・終結や審理への参加を電子的手段で認めまたは求めうること)、第2項(規則の名称)、第3項(a)から(d)まで(利用しやすく公正であること、簡素かつ簡潔に表現されること、迅速かつ効率的に解決できること、革新的な解決方法を支えること)、第4項(オンライン手続上の支援を要する者の必要への考慮)、第6項(法的代理人がいない者が非電子的手段を選べる旨を規則に置く義務)、第7項(審理への参加に関する命令または指示)、第9項(オンライン手続規則の適用を受けない場合や受けなくなる場合の定め)、および第15項(実務指示は別表3による旨)を確認した。確認日は2026年9月15日。(2026年9月確認)
- *3 参考:英国法令データベース「The Online Procedure Rules (Specified Proceedings) Regulations 2025」(SI 2025 No. 536・2025年4月29日制定)(https://www.legislation.gov.uk/uksi/2025/536/made)。適用範囲の一次情報として。授権規定(2022年司法審査・裁判所法 第20条第1項・第2項および第49条第2項)、首席裁判官と審判所上級長官の同意、両院の決議による承認、第1条(制定日の翌日に施行すること、適用範囲、金銭的救済の意味は2010年家事手続規則 第2.3条第1項による旨)、および第2条(a)から(d)まで(指定手続の4類型)を確認した。確認日は2026年9月15日。(2026年9月確認)
- *4 参考:英国法令データベース「Judicial Review and Courts Act 2022」別表3(オンライン手続に関する実務指示)(https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2022/35/schedule/3)。実務指示の一次情報として。第1部第1項(イングランドおよびウェールズの民事手続と家事手続について実務指示を与えられる旨)、第2項(オンライン手続規則で定めうる事項について定められる旨)、第3項(2005年憲法改革法 別表2 第1部に従って与える方法と、それ以外の方法による場合に大法官および首席裁判官の承認を要する旨、ならびに法の適用・解釈や司法判断についての手引きに当たる部分は大法官の承認を要しない旨)、第4項(変更・撤回、事案ごとの別異の定め、特定の裁判所や手続に向けた定め)、および第2部(第一審審判所と上級審判所についての同旨の規定)を確認した。確認日は2026年9月15日。(2026年9月確認)