LASSIC Media らしくメディア
新規事業の立ち上げメンバー、エンジニア採用と社内異動の分け方
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 立ち上げメンバーは、事業を率いる役割とシステムを作る役割に分け、誰がどれを受け持つかを先に書き出します。
- DX白書2023では、DXの成果が出ている企業ほど、社内の異動と中途採用をどちらも多く使っていました。
- 設計を率いるテックリードの採用は構想の段階で始め、エンジニアの人数は本格的な開発の前に増やします。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
新規事業を任されたが、最初に誰を集めればよいのか分からない。社内で手を挙げた人を集めてみたものの、システムを設計できる人がいない——。既存の企業が新しい事業を始めるときには、こうした悩みが起こりがちです。新規事業の立ち上げメンバーとは、事業の構想から最初の製品やサービスを世に出すまでの間、中心になって動く少人数のメンバーを指します。
立ち上げメンバーは、エンジニア採用だけで全員をそろえようとせず、社内の異動と採用を組み合わせて集めるのが現実的です。ただし万能な組み合わせはなく、どの役割を社内から出し、どの役割を採用で迎えるかは、事業の中身によって変わります。本記事では、新規事業の責任者や開発の現場をまとめるマネージャーに向けて、立ち上げメンバーに置く役割、社内異動と採用の組み合わせ方、採る時期、そして外部に頼むときに確認したい点を整理します。
目次
新規事業の立ち上げメンバーとは
立ち上げメンバーに置く役割を考える手がかりになるのが、情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2023」です。DX(デジタル技術を使って事業や業務を変えること)に取り組む企業を調べた資料で、デジタル技術を使う事業を担う人材を7つの職種に分けています。*1 ここでいうデジタル事業は、EC(インターネットでの販売)やAI、IoT(機器をインターネットにつなぐ仕組み)、ビッグデータ(大量のデータ)などを活用した事業のことです。いま既存の企業が始める新規事業の多くは、これに当たります。
| 職種 | 資料での説明 |
|---|---|
| プロダクトマネージャー | デジタル事業の実現を主導するリーダー格の人材 |
| ビジネスデザイナー | デジタル事業(マーケティング含む)の企画・立案・推進等を担う人材 |
| テックリード | デジタル事業に関するシステムの設計から実装ができる人材 |
| データサイエンティスト | 事業・業務に精通したデータ解析・分析ができる人材 |
| 先端技術エンジニア | 機械学習、ブロックチェーンなどの先進的なデジタル技術を担う人材 |
| UI/UXデザイナー | デジタル事業に関するシステムのユーザー向けデザインを担当する人材 |
| エンジニア/プログラマー | デジタル事業に関するシステムの実装やインフラ構築、保守・運用、セキュリティ等を担う人材 |
7つのうち、プロダクトマネージャーとビジネスデザイナーは、何を作って誰に届けるかを決める役割です。残りの5つは、決めた内容をシステムとして作る役割です。
立ち上げの時点から、7つすべてに専任の人を置く必要はありません。少人数で始める新規事業では、1人が2つの役割を兼ねることもあります。大事なのは、どの役割を誰が受け持つのかを、最初に一覧にして書き出しておくことです。受け持つ人が決まっていない役割について、社内から出すか採用で迎えるかを考えます。
足りなくなりやすい役割
DX白書2023の企業調査は、2022年6月から7月にかけて日本企業543社から回答を得たもので、人材の設問はDXに取り組んでいる375社の回答をまとめています。*1 7つの職種ごとに人数が足りているかを尋ねると、日本企業で不足しているという回答が多かったのは、データサイエンティスト72.3%、ビジネスデザイナー70.1%、プロダクトマネージャー68.3%でした。*1 ここでの不足は、「やや不足している」と「大幅に不足している」を合わせた割合です。
注目したいのは、足りないと答えた企業が多い3つの職種に、事業を企画して率いる2つの職種が入っていることです。新規事業ではエンジニア採用に目が向きがちですが、何を作るかを決める人がいないままエンジニアを迎えると、迎えた人に任せる仕事が決まりません。立ち上げメンバーを集めるときは、エンジニアより先に、事業を率いる人を誰にするかを決めておきます。
人材を集めるうえでの課題も、同じ調査で尋ねています。日本企業(回答372社)で多かったのは、「戦略上必要なスキルやそのレベルが定義できていない」47.6%と「採用したい人材のスペックが明確でない」42.2%で、「要求水準を満たす人材にアプローチできない」35.8%が続きました(複数回答)。*1 どんな人がほしいのかがはっきりしないまま探し始めても、候補者どうしを比べる基準がありません。役割を書き出しておけば、どんな人を探すのかがはっきりします。
社内異動と採用の組み合わせ方
では、企業は実際にどうやって人を集めているのでしょうか。DXを推進する人材の獲得・確保の方法を尋ねた設問で、日本企業の回答は「社内人材の育成」54.9%、「既存人材(他部署からの異動も含む)の活用」47.7%、「外部採用(中途採用)」44.3%、「社外の専門家との契約(コンサルタントなど)」37.1%の順でした(複数回答)。*1
この設問を、DXの成果が出ている企業(218社)と、成果が出ていない・わからないと答えた企業(157社)に分けて比べると、成果が出ている企業のほうが、どの方法も多く挙げています。*1 「既存人材の活用」は53.7%と39.5%、「外部採用(中途採用)」は50.5%と35.7%で、どちらも14ポイントを超える差があります。*1
成果が出ている企業は、社内の異動と社外からの採用の片方に絞らず、両方を使っています。ただし、両方を使ったから成果が出たのかどうかまでは、この集計からは分かりません。新規事業の立ち上げメンバーに当てはめるなら、社内異動か採用かの二択で考えず、役割ごとにどちらで集めるかを決める、という進め方が考えやすいでしょう。
社内から出す役割、採用で迎える役割
役割ごとに集め方を決めるときの目安は、その役割に既存事業の知識が要るかどうかです。プロダクトマネージャーとビジネスデザイナーは、自社の顧客や販売の経路、社内の決裁の進め方を知っている人のほうが動きやすく、社内から異動で出すのが基本になります。データサイエンティストも、資料の説明に「事業・業務に精通した」とあるとおり、*1 自社のデータと業務を知っていることが前提の役割です。業務に詳しい社員を育てるか、分析の経験者を採用して業務を覚えてもらうかを選びます。
一方、テックリードと先端技術エンジニアは、社内に経験者がいないことの多い役割です。既存のシステムの保守を長く担当してきたエンジニアを異動させても、新しいサービスを一から設計した経験がなければ、テックリードを任せるのは本人の負担が大きくなります。こうした役割は、エンジニア採用で経験者を迎えるか、社外の専門家と契約して加わってもらうのが現実的です。エンジニア/プログラマーは、既存事業の開発部門から異動してもらう人と、採用で迎える人を組み合わせやすい役割です。
組み合わせるときに気をつけたいのは、異動で出す社員の元の仕事です。元の部署の仕事を持ったまま新規事業を兼務させると、立ち上げに使える時間が週に何時間あるのかが分からなくなります。異動させる日と、元の仕事を誰に引き継ぐかを、辞令を出す前に決めておきます。新規事業で採用するエンジニアと社内で担う役割の分け方は「エンジニア採用が新規事業で課題になる理由と、役割の分け方」でも扱っています。
採る時期
立ち上げメンバーは、一度に全員をそろえるより、事業の段階に合わせて順に集めるほうが無理がありません。ここでは、構想、試作、本格的な開発の3つの段階に分けて考えます。構想の段階は、誰のどんな困りごとに応えるのかを決め、事業の計画を作る段階です。ここで要るのはプロダクトマネージャーとビジネスデザイナーで、社内からの異動が中心になります。
試作の段階では、構想を確かめるための最小限の製品やサービスを作ります。この段階に入る時点でテックリードがいないと、何をどの技術で作るかを決められません。採用には募集から入社までの時間がかかるため、テックリードのエンジニア採用は、構想の段階のうちに始めておくと間に合わせやすくなります。画面の使いやすさが事業の成否に関わるサービスなら、UI/UXデザイナーにもこの段階で加わってもらいます。
本格的な開発の段階では、試作で確かめた内容をもとに機能を増やし、運用の体制を整えます。エンジニア/プログラマーの人数を増やすのはここからです。試作の前に大人数のエンジニアを迎えると、作るものが決まるまで任せる仕事のない期間が生まれます。データサイエンティストは、分析に使えるデータがたまってくる時期に合わせて加わってもらうと、仕事を任せやすくなります。
| 段階 | 主に加わる役割 | 集め方の目安 |
|---|---|---|
| 構想 | プロダクトマネージャー、ビジネスデザイナー | 社内からの異動が中心。テックリードの採用活動もこの段階で始める |
| 試作 | テックリード、UI/UXデザイナー | 中途採用か、社外の専門家との契約 |
| 本格的な開発 | エンジニア/プログラマー、データサイエンティスト | 開発部門からの異動と採用を組み合わせる |
つまずきやすい点
一つ目は、役割を決めずに「エンジニアを1人」と募集してしまうことです。テックリードを探しているのか、決まった設計どおりにプログラムを作る人を探しているのかで、求める経験はまったく違います。募集を出す前に、どの役割の人を探すのかを決めておきます。
二つ目は、社内公募で手を挙げた人だけで立ち上げメンバーを組むことです。意欲のある人が集まる一方で、システムを設計する役割を受け持つ人がいないまま始まることがあります。公募で集まった人をどの役割に当てるかを先に決め、受け持つ人がいない役割は、採用や社外との契約で探します。
三つ目は、既存事業と同じ基準で立ち上げメンバーを評価することです。立ち上げの時期は、売上がまだ小さいことがほとんどです。売上の大きさだけで評価すると、異動した社員の働きが評価に表れにくく、次に新規事業へ手を挙げる人が出にくくなります。何を評価するのかは、異動の前に本人へ伝えておきます。
外部に委託するときに確認しておきたい点
テックリードの役割や試作の開発を、社外の専門家や開発会社に頼む方法もあります。先の調査では、「特定技術を有する企業や個人との契約」を挙げた企業が、成果が出ている企業で34.9%、成果が出ていない・わからない企業で19.1%でした。*1 頼むときは、試作で作る機能と期限、作ったプログラムや設計書を社内に引き渡してもらう条件を、契約の前に決めておきます。
もう一つ確かめておきたいのは、社内に何を残すかです。事業の判断を下すプロダクトマネージャーの役割は、社外に頼まず社内に置きます。社外のエンジニアに加わってもらう間に、設計の考え方や作業の手順を社内のメンバーが引き継げるよう、打ち合わせの記録や資料の残し方を決めておくと、試作のあとの開発を社内で続けやすくなります。試作をもとに要件を決める手順は「フリーランス活用で新規事業の要件定義を進める、試作から決める手順」で扱っています。
まとめ:新規事業の立ち上げメンバーで確かめておきたい3つの点
新規事業の立ち上げメンバーを集めるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、7つの役割のうち誰がどれを受け持つかを、一覧にして書き出すこと。第二に、事業を率いる役割は社内から出し、社内に経験者がいない技術の役割はエンジニア採用や社外との契約で迎えること。第三に、テックリードの採用は構想の段階で始め、エンジニアの人数は本格的な開発の前に増やすことです。この3点を踏まえておけば、「エンジニアは採れたのに、何を作るかが決まらず仕事を任せられない」という事態を避けやすくなります。役割の分け方や採用の順番に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
立ち上げメンバーは何人くらいで始めればよいですか
決まった人数はありません。構想の段階は、事業を率いる人と企画を担う人の少人数で始め、試作に入る時点でテックリードに加わってもらう形が組みやすいでしょう。人数よりも、役割ごとに受け持つ人が決まっているかを先に確かめます。
新卒採用で立ち上げメンバーを集めることはできますか
立ち上げの段階では、異動と中途採用が中心になります。DX白書2023でも、DXを推進する人材の確保に新卒採用を挙げた日本企業は23.7%で、中途採用の44.3%より少なくなっていました。*1 新卒で入った社員には、本格的な開発の段階でエンジニア/プログラマーとして加わってもらう形が考えられます。
立ち上げメンバーの採用は、人事部と事業の責任者のどちらが進めますか
求める経験を決めるのは事業の責任者、募集の手続きと条件の調整は人事部、と分けると進めやすくなります。テックリードの面接には、社内で技術が分かるエンジニアにも同席してもらうと、応募者の経験の中身を確かめやすくなります。
新規事業のエンジニア採用を相談したいとき
採用するエンジニアに求める役割と経験の整理からご相談いただけます。
Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。
Remoguは、リモート前提で全国から即戦力のITプロ人材を調達するサービスです。リラシクは、扱う求人がすべてリモートワークのITエンジニア専門転職エージェントです。どちらもLASSICが運営しています。
出典
- *1 参考:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX白書2023」(https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/gmcbt8000000botk-att/000108041.pdf)。出典:IPA「DX白書2023」第4部第1章。図表4-6(デジタル事業に対応する人材)、図表4-7(デジタル事業に対応する人材の「量」の確保・職種別)、図表4-8(DXを推進する人材の獲得・確保)、図表4-9(同・DX成果別)、図表4-10(DXを推進する人材の獲得・確保の課題)を参照。調査は「企業を中心としたDX推進に関する調査」(日本企業543社、2022年6月28日〜7月28日)。人材の設問はDXに取り組む日本企業375社(図表4-10は372社)の回答(2026年9月確認)