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第三者行為災害の進め方|届出から示談までの順番
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 届出は遅滞なく出す:第三者の氏名・住所と被害の状況を届け出ます*2。
- 調整は求償と控除の2つ:先に給付するか、先に賠償を受けるかで向きが変わります*1。
- 示談を先にすると給付が止まる:真正に成立した全部示談の後は原則として給付されません*3。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
通勤の途中で車にはねられた。取引先の構内で他社の車両に接触された。こうした場面は労災であると同時に、加害者がいる事故でもあります。
労災保険はこれを第三者行為災害として別に扱います*3。第三者が被災労働者や遺族に対して損害賠償義務を有する場合です*3。
仕組みの中心は調整です*1。同じ損害について保険給付と損害賠償が二重にならないよう、条文が2つの向きを用意しています*1。
本記事では、届出の期限、求償と控除の違い、示談をする前に確かめること、そして会社側の関わり方を整理します。
目次
労災であると同時に賠償の話になる
まず、位置づけからです。
厚生労働省の労働局は、第三者行為災害を労災保険の給付の原因である事故が第三者の行為などによって生じたものと説明しています*3。被災労働者または遺族に対して第三者が損害賠償義務を有する場合です*3。
典型は交通事故です*3。通勤の途中や業務中に、他人の運転する車に衝突された場面がこれに当たります*3。
このとき、補償の経路が2つ並びます*1*3。労災保険からの給付と、加害者からの損害賠償です*1。
放っておくと同じ損害を二重に受け取ることになります*1。そこで法律が調整の規定を置いています*1。
| 名前 | 条文 | どちらが先か | 起きること |
|---|---|---|---|
| 求償 | 法第12条の4第1項 | 保険給付が先 | 政府が給付の価額の限度で、第三者に対する損害賠償請求権を取得する |
| 控除 | 法第12条の4第2項 | 損害賠償が先 | 政府がその価額の限度で保険給付をしないことができる |
労働者災害補償保険法第12条の4第1項・第2項および厚生労働省東京労働局「第三者行為災害について」より作成*1*3。
どちらが起きるかは順番で決まります*1。先に給付が行われれば求償、先に賠償が行われれば控除という関係です*1*3。
調整の対象になるのは、あくまで同じ損害についての部分です*1。条文が同一の事由についてと限定しているためです*1。
会社の側から見ると、通常の労災とは書類が1枚増える形になります*2。次の節で見ます*2。
労災そのものの手続きは別に整理しました。報告と給付の流れは労災が起きたときの手順|報告と補償と給付の順番で扱っています*1。
調整の規定が置かれている場所も、この位置づけを表しています*1。保険給付そのものの条文ではなく、給付と損害賠償の関係を定めた条文に置かれています*1。
加害者がいる場合だけ、その上に調整の話が乗る構造です*1*3。
届出は遅滞なく出す
手続きの入口が届出です。
根拠は労働者災害補償保険法施行規則第22条です*2。保険給付の原因である事故が第三者の行為によって生じたときの届出を定めています*2。
出す人も条文にあります*2。保険給付を受けるべき者とされており、被災した本人や遺族が主体です*2。
期限は遅滞なくです*2。日数での指定ではありませんが、後回しにできる書き方ではありません*2。
届け出る先は所轄労働基準監督署長です*2。厚生労働省の労働局も、提出先を所轄の労働基準監督署としています*3。
書く内容も3つに整理されています*2。その事実、第三者の氏名及び住所、そして被害の状況です*2。
相手が分からない場合の扱いもあります*2。第三者の氏名及び住所がわからないときは、その旨を届け出ることとされています*2。
ひき逃げのような場面を想定した書き方です*2。分からないから出さない、という選択にはなりません*2。
被害の状況を書く欄がある以上、事故直後の記録が材料になります*2。時間が経つほど記憶は薄くなるためです*2。
出すタイミングも案内されています*3。厚生労働省の労働局は、原則として労災保険給付請求に先立って、または請求書と同時に提出するとしています*3。
つまり給付の請求より後ろにはしません*3。順番が決まっている手続きです*2*3。
届出の対象も条文で絞られています*2。保険給付の原因である事故が第三者の行為によって生じたものであることが前提です*2。
逆に言えば、加害者がいない労災には第三者行為災害届は登場しません*2。設備の不具合や本人の転倒だけであれば通常の請求で完結します*2。
会社は本人が書けない状況を想定しておく必要があります*2。事故直後は本人が動けないことがあるためです*2。
先に給付されたときは求償
調整の1つ目が求償です。
条文は第12条の4第1項です*1。政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によって生じた場合において保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得するとしています*1。
権利が移る仕組みです*1。被災者が持っていた請求権が、給付した額の範囲で政府のものになります*1。
厚生労働省の労働局も同じ説明です*3。政府が第三者や保険会社に対して直接その請求権を行使するとしています*3。
限度が付いている点が要点です*1。給付した価額を超えて政府が請求できるわけではありません*1。
被災者の側にも意味があります*1。給付額を超える損害が残っていれば、その部分は引き続き本人が請求できる形になります*1。
加害者の側から見ると、支払先が2つに分かれます*1*3。被災者本人と、政府の両方です*3。
自動車事故であれば相手方の保険会社とのやり取りになります*3。労働基準監督署が間に入る場面が出てきます*3。
会社が直接お金を動かす場面ではありません*1。ただし事実関係の確認を求められることはあります*2。
事故の状況を記録に残しておく意味は、ここにもあります*2。届出に被害の状況を書く必要があるためです*2。
求償が働くのは、政府が実際に保険給付をしたときです*1。条文が保険給付をしたときと書いているためです*1。
給付が長期にわたる災害では、この判断が一度で終わらないことになります*1。給付のたびに価額が積み上がるためです*1。
先に給付を受けても、賠償の話が消えるわけではないという点を押さえておきます*1*3。
先に賠償を受けたときは控除
もう1つの向きが控除です。
同じ条文の第2項です*1。保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができるとしています*1。
ここでも限度が付きます*1。受け取った賠償の額を超えて給付が止まるわけではありません*1。
同一の事由という条件も重要です*1。損害の種類が対応していなければ、そのまま差し引かれる形にはなりません*1。
厚生労働省の労働局は、二重補償を防ぐ制度だと説明しています*3。求償と控除は同じ目的の裏表という位置づけです*3。
被災者から見ると、受け取る総額は変わらない設計です*1*3。どちらの経路から先に受け取るかが違うだけです*1。
ただし手続きの順番によっては、思わぬ結果になることがあります*3。次の節で見る示談がその場面です*3。
会社としては、本人が加害者側と直接やり取りしている場合に注意が要ります*3。給付の請求と並行して進むことがあるためです*3。
状況を把握しておくだけでも違います*2*3。届出の内容と食い違えば、後から確認が入ることになります*2。
条文の書き方にも幅があります*1。第2項は保険給付をしないことができるという形で、当然に止まると書いてはいません*1。
実際にどこまで控除されるかは、賠償の中身と給付の種類の対応で決まります*1。同一の事由という条件が効いてくる場面です*1。
調整は行政の側で行われますが、材料を出すのは当事者です*1*2。
示談を先にすると給付が止まる
ここが実務でいちばん注意が要る部分です。
厚生労働省の労働局は、全部示談が真正に成立した場合について、原則として示談成立以後の労災保険の給付を行わないこととなっていると説明しています*3。
示談の額と関係なく止まる形です*3。将来の給付額が示談額を上回っていても、給付が行われないことがあります*3。
示談は損害賠償請求権を処分する行為だからです*1*3。第12条の4の調整は、その請求権があることを前提にしています*1。
厚生労働省の労働局は、示談前に請求するか、示談額が給付額を下回る可能性を考慮すべきだとしています*3。順番と金額の両方を見る話です*3。
被災した本人にとっては大きな判断です*3。早く解決したいという気持ちと、長期の給付が噛み合わない場面があります*3。
会社が示談の当事者になるわけではありません*3。ただし本人が相談してくることはあり得ます*3。
そのときに答えるべきは示談の内容ではありません*3。示談の前に労働基準監督署へ相談するという道筋を伝えることです*2*3。
届出が請求に先立って出されるべきものとされているのも、この順番と関係します*3。行政が状況を把握したうえで調整するためです*3。
示談してしまってから相談しても、戻せない部分が出てきます*3。取り返しがつきにくい類の手続きです*3。
止まるのは示談成立より後の給付です*3。厚生労働省の労働局が原則として示談成立以後の給付を行わないとしている書き方から読めます*3。
療養が長引きそうな災害ほど、この差は大きくなります*3。給付は先の分まで続くためです*1*3。
通勤災害の一部負担金も変わる
細かい部分にも影響が出ます。
通勤災害には一部負担金の仕組みがあります*2。施行規則第44条の2第2項が、その額を200円(日雇特例被保険者である労働者については100円)としています*2。
徴収されない場合も並んでいます*2。同条第1項第1号が、第三者の行為によって生じた事故により療養給付を受ける者を挙げています*2。
つまり第三者行為災害では一部負担金の対象から外れます*2。加害者がいる以上、被災者に負担させない整理だと読めます*2。
ほかの類型もあります*2。療養の開始後3日以内に死亡した者その他休業給付を受けない者、同一の通勤災害に係る療養給付について既に一部負担金を納付した者です*2。
控除の方法も決まっています*2。同条第3項が、休業給付を支給すべき場合に当該休業給付について行うとしています*2。
金額としては小さい話です*2。ただし手続きの分岐としては、第三者行為災害かどうかで扱いが変わる例の1つです*2。
実際に負担金がどう処理されるかは、届出の内容に左右されます*2。第三者行為災害として扱われているかが前提になるためです*2。
届出を出すかどうかは、こうした細部にも波及します*2。出さないまま進むと、本来の扱いと違う処理になることがあります*2。
一部負担金は休業給付から差し引く形で処理されます*2。そのため休業給付を受けない者は、はじめから対象に入りません*2。
第三者行為災害では、この差引き自体が生じないことになります*2。第1項第1号で除かれているためです*2。
制度の細かい枝まで、第三者がいるかどうかで分岐しています*1*2。
通勤災害そのものの範囲は別の論点です。判断の枠組みは労災が起きたときの手順で扱いました*1。
採用実務で押さえる3点
最後に、採用や労務の担当が押さえる3点です。
1点目は、加害者がいる労災は書類が増えると知っておくことです。通常の請求書に加えて第三者行為災害届が要ります*2*3。
通勤中の事故は特に起こりやすい場面です*3。入社したばかりの人が通勤経路に慣れていない時期は、確率が上がります*3。
2点目は、示談の話が出たら順番を伝えることです*3。本人が加害者側と早く片づけたいと考えるのは自然だからです*3。
会社が示談の内容に踏み込む必要はありません*3。労働基準監督署に相談してから進める、という道筋だけで足ります*3。
3点目は、事実関係を記録に残すことです*2。届出には第三者の氏名及び住所と被害の状況を書くためです*2。
相手が分からない場合もその旨を書きます*2。記録がなければ、分からないことすら説明できません*2。
入社時の説明に入れておく手もあります*2。通勤中の事故は誰にでも起こり得るためです*3。
体制の側で備える枠組みもあります。窓口の決め方は安全衛生推進者の選び方|10人からの選任と業種の分かれ目で整理しました*2。
労働保険の事務そのものを外に出している会社もあります。委託の枠組みは労働保険事務組合はなぜ小さい会社向けなのかで扱いました*2。
ただし給付の請求に関する事務は委託の対象外です*2。第三者行為災害の届出も、当事者の側に残る手続きです*2。
3点とも、事故が起きてからでは間に合いにくい種類の準備です*2*3。届出の期限が遅滞なくとされている以上、その場で調べる時間はあまりありません*2。
起きてから調べるには順番が細かすぎる制度です*1*3。先に道筋だけ知っておくのが現実的でしょう*3。
まとめ:第三者行為災害の要点
第一に、位置づけです。厚生労働省の労働局は、第三者行為災害を労災保険の給付の原因である事故が第三者の行為などによって生じたもので、被災労働者または遺族に対して第三者が損害賠償義務を有する場合と説明しています。労災保険の給付と加害者からの損害賠償という2つの経路が並ぶため、労働者災害補償保険法第12条の4が調整を定めています。第二に、2つの向きです。同条第1項は、政府が保険給付をしたときにその給付の価額の限度で保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得するとしており、これが求償です。第2項は、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときに、政府がその価額の限度で保険給付をしないことができるとしており、これが控除です。第三に、手続きと注意点です。同法施行規則第22条は、保険給付を受けるべき者が、その事実、第三者の氏名及び住所(わからないときはその旨)並びに被害の状況を、遅滞なく所轄労働基準監督署長に届け出なければならないとしています。厚生労働省の労働局は、届出を原則として労災保険給付請求に先立って、または請求書と同時に提出するとし、全部示談が真正に成立した場合には原則として示談成立以後の労災保険の給付を行わないこととなっていると説明しています。なお同規則第44条の2第1項第1号により、第三者の行為によって生じた事故により療養給付を受ける者は、通勤災害の一部負担金の対象から外れます。
よくある質問
第三者行為災害とは何ですか。
厚生労働省の労働局は、労災保険の給付の原因である事故が第三者の行為などによって生じたもので、被災労働者または遺族に対して第三者が損害賠償義務を有する場合と説明しています。通勤中や業務中の交通事故が典型です。この場合、労災保険の給付と加害者からの損害賠償が並ぶため、労働者災害補償保険法第12条の4が二重補償を防ぐ調整を定めています。
求償と控除はどう違いますか。
順番が違います。労働者災害補償保険法第12条の4第1項は、政府が保険給付をしたときに、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得するとしています。これが求償です。第2項は、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときに、政府がその価額の限度で保険給付をしないことができるとしています。これが控除です。
届出はいつ誰が出しますか。
同法施行規則第22条は、保険給付を受けるべき者が、その事実、第三者の氏名及び住所(第三者の氏名及び住所がわからないときは、その旨)並びに被害の状況を、遅滞なく、所轄労働基準監督署長に届け出なければならないとしています。厚生労働省の労働局は、原則として労災保険給付請求に先立って、または請求書と同時に提出するとしています。
先に示談をしても大丈夫ですか。
厚生労働省の労働局は、全部示談が真正に成立した場合について、原則として示談成立以後の労災保険の給付を行わないこととなっていると説明しています。示談前に請求するか、示談額が給付額を下回る可能性を考慮すべきだとされています。示談を進める前に所轄の労働基準監督署へ相談する順番が実務上の要点になります。
通勤災害の一部負担金はどうなりますか。
同法施行規則第44条の2第2項は、一部負担金の額を200円(健康保険法に規定する日雇特例被保険者である労働者については100円)としていますが、同条第1項第1号は、第三者の行為によって生じた事故により療養給付を受ける者を対象から外しています。ほかに、療養の開始後3日以内に死亡した者その他休業給付を受けない者、同一の通勤災害に係る療養給付について既に一部負担金を納付した者も対象外です。
出典
- *1 参考:e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法」(昭和二十二年法律第五十号)(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000050)。第12条の4(第1項の政府が保険給付をしたときにその給付の価額の限度で保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得するとする求償の規定、第2項の保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときに政府がその価額の限度で保険給付をしないことができるとする控除の規定)の一次情報として(2026年8月確認)
- *2 参考:e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法施行規則」(昭和三十年労働省令第二十二号)(https://laws.e-gov.go.jp/law/330M50002000022)。第22条の第三者の行為による災害についての届出(保険給付を受けるべき者が、その事実、第三者の氏名及び住所(わからないときはその旨)並びに被害の状況を、遅滞なく所轄労働基準監督署長に届け出ること)、第44条の2の一部負担金(第1項第1号の第三者の行為によつて生じた事故により療養給付を受ける者ほかの除外、第2項の二百円(日雇特例被保険者である労働者は百円)という額、第3項の休業給付についての控除)の一次情報として(2026年8月確認)
- *3 参考:厚生労働省 東京労働局「第三者行為災害について」(確認日2026年8月31日)(https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/rousai_hoken/ro-3.html)。第三者行為災害が労災保険の給付の原因である事故が第三者の行為などによって生じたものであり被災労働者または遺族に対して第三者が損害賠償義務を有する場合であること、求償が政府による損害賠償請求権の取得と第三者や保険会社への直接の行使であること、控除が二重補償を防ぐ制度であること、全部示談が真正に成立した場合には原則として示談成立以後の労災保険の給付を行わないこととなっていること、示談前に請求するか示談額が給付額を下回る可能性を考慮すべきこと、第三者行為災害届の提出先が所轄の労働基準監督署であり原則として労災保険給付請求に先立ってまたは請求書と同時に提出することの一次情報として(2026年8月確認)