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緊急通報の障害報告、豪州の9つの情報と3000万豪ドル
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 指示は7日以内に出される:カストディアンの要請を受けて*1。
- 求めうる情報は9類型:社内の連絡まで含みます*1。
- 民事罰は1件3000万豪ドル:違反の幇助なども対象です*1。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
大規模な通信障害で緊急通報がつながらない事態は、各国で起きています。豪州は、その後の検証を待つのではなく、最中に情報を出させる権限を作りました。
電気通信法改正(Triple Zeroカストディアンおよび緊急通報の権限)法2025が2025年10月30日に裁可され、翌10月31日に全部が施行されました*1。改正の対象は電気通信(消費者保護・サービス基準)法1999です*1。
実務の観点で読むと、押さえどころは3つです。誰が誰に何を指示できるか、求められる情報の範囲、従わない場合の帰結。順に見ていきます。
目次
カストディアンが要請し、ACMAが7日で出す
まず全体像です*1。
この法律が作ったのは、Triple Zero カストディアンという役割と、ECS指示という手段です*1。ECSは緊急通報サービス(emergency call service)の略で、条文はこの語を軸に組み立てられています*1。
カストディアンの正体は第151J条にあります*1。長官の職務を行う者がカストディアンとなると定められました*1。新しい組織を作るのではなく、既存の役職に機能を載せた形です*1。
機能は第151K条に4つ並びます*1。ECS障害事象への備え、対応、復旧を支援すること、ECS障害事象への備えを高めること、緊急通報サービスが有効に機能し、ECS事項が適正に機能していることを監督すること、そして同法が緊急通報サービスに関して与えるその他の機能です*1。大臣は、緊急通報サービスに関係すると認める機能を、立法文書で追加できます*1。
指示を出すのはACMAですが、カストディアンが引き金を引けます*1。第151L条は、カストディアンが自らの機能の遂行のために必要または適切と考える場合、搬送事業者、搬送サービス提供者、または個人でない緊急通報取扱者に対して指示を出すよう、ACMAへ書面で要請できるとしました*1。要請には受け手と指示の文言を明記します*1。
期限も定められています*1。ACMAは、要請の受領から7日以内に指示を出さなければなりません*1。要請がそう求めていれば実行可能な限りすみやかに、あるいはカストディアンが書面で同意したより長い期間の中で出します*1。そして、要請が指定した者に、指定された文言で出すこととされました(カストディアンが書面で同意した変更を除く)*1。
指示できる範囲は「ECS事項」で線が引かれる
第151A条第1項が、指示の対象となる事項を5つ挙げます*1。
緊急通報サービスへのアクセスの提供、緊急通報サービスの運用、緊急通報番号への呼の受信・処理・転送・搬送、緊急通報取扱者が緊急サービス(またはその派遣を行うサービス)へ行う呼の処理・転送・搬送、そしてこれらに影響を及ぼし、またはこれらから影響を受けうる事項であって、公衆または公衆の一部の安全に対するリスクをもたらしうる方法によるものです*1。
最後の受け皿が広めです*1。緊急通報そのものではなくても、そこへ影響しうる事項は入ってきます*1。電源、伝送路、認証基盤といった共通の部品が、この定義の射程に入る読み方になります*1。
指示の種類は3つです*1。第2項がECS事項に関する情報の提供、第3項が特定のECS障害事象に関する情報の提供、第5項が特定の行為です*1。
第2項の情報には、ECS事項に関する方針、手順、処理と、ECS事項に関わるネットワーク設備、配線、機器、ファシリティ、ネットワーク、ソフトウェアの設置・運用・保守・試験が例示されました*1。設計や試験の記録まで含む書き方です*1。
第5項の行為には、ECS事項に関する方針・手順・処理を整備するための特定の行為、第2項や第3項の情報を特定の者または団体へ提供すること、特定の者または団体と協議すること、指示のもとで執る行為についてACMAへ情報を提供することが挙がります*1。情報を出させるだけでなく、手順を作らせるところまで指示できます*1。
障害事象について求めうる情報は9類型
第151A条第3項が、障害事象に関する情報を列挙します*1。
| 項 | 内容 |
|---|---|
| (a) | その障害事象の性質についての詳細 |
| (b) | その障害事象によって影響を受けたサービスについての詳細 |
| (c) | 復旧、および障害事象とその影響に対処するためのその他の行為についての詳細(所要の期間を含む) |
| (d) | その障害事象に関係する場所についての詳細 |
| (e) | その障害事象の影響についての詳細。搬送事業者、搬送サービス提供者、緊急サービスまたはその派遣を行うサービス、連邦・州・準州の省庁や機関への影響を含む |
| (f) | その障害事象によって影響を受けた、または関係する設備についての情報 |
| (g) | 障害事象の前、最中、後におけるネットワークの性能と管理に関するデータ |
| (h) | その障害事象に関する、受け手と他の者とのやり取りについての詳細(影響を受けた主体とのものを含む) |
| (i) | その障害事象に関する、受け手の対外的または社内の連絡についての詳細 |
(i)が目を引きます*1。社内の連絡まで対象に含まれています*1。障害の最中に社内でどう判断し、どう伝えたかが、規制当局の照会の範囲に入るということです*1。
(g)も実務的に重い項目です*1。前・最中・後という書き方なので、平常時のベースラインが要ります*1。障害の直前の状態を後から再構成できるだけの粒度で、性能の指標を保持しておく必要があります*1。
そして第4項が、ECS障害事象を定義します*1。カストディアンまたはACMAが、その事象が発生しているか、または発生するであろうと合理的に信じ、かつ、それが1人以上の者が緊急通報サービスへのアクセスを失う結果、または緊急通報取扱者が緊急通報番号への呼を受信・処理できない、もしくは緊急サービス等へ転送できない結果をもたらしうる場合です*1。
「発生するであろう」が入っている点が重要です*1。事後の検証だけでなく、予兆の段階でも指示を出せる建て付けになっています*1。計画停止や、輻輳のおそれがある工事も、状況によっては対象になりうる読み方です*1。
指示には期限と、逃げ道の書き方まで決まっている
第151B条が、指示の内容の要件を定めます*1。
指示には、受け手が従うべき期間(遵守の期間)と、その延長をACMAへ申請できることを明記します*1。情報の提供を求める場合は、提供の方法と様式と、その提供が電気通信法1997の第13部の目的で法により求められ、または認められるものであることを書きます*1。
口頭での提供が想定される場合の扱いも定められました*1。受け手は口頭で情報を提供した後、実行可能な限りすみやかに、その情報の書面の記録を作り、写しをACMAへ渡すこととされ、指示にはその旨と、写しの提出の免除をACMAへ申請できることを記載します*1。緊急時に電話で伝えることを許しつつ、記録は残させる設計です*1。
そして第151B条第1項(f)が、衝突の回避を置きました*1。指示のほかの部分に何が書かれていても、第147条の決定によって受け手に課されている要件と矛盾する範囲では、この指示は受け手に義務を課さない*1。既存の決定が優先される、という整理です*1。
ACMAは、受け手の要請により書面の通知をもって、遵守の期間を延長し、または口頭提供の記録の写しの提出を免除できます*1。
カストディアンへの共有も義務です*1。第151C条は、ACMAが指示を出した後、実行可能な限りすみやかに、指示の写しをカストディアンへ渡すことを求めます*1。第151L条第5項は、指示によりACMAへ情報が提供された場合、ACMAがその情報とその情報についてのACMAの見解(あれば)をカストディアンへ渡すとしました*1。
違反の民事罰は1件3000万豪ドル
第151D条が遵守の義務を定めます*1。
第1項は、ECS指示により要件を課された者は、その指示に従わなければならないとします*1。第2項は、第1項の違反を幇助し、教唆し、助言し、または実現させること、脅しや約束その他の方法により違反を誘引すること、直接または間接に、違反を知りながら関与し、または加担すること、他者と共謀して違反を生じさせることを禁じました*1。
第3項により、この第1項と第2項は民事罰規定です*1。注記は、電気通信法1997の第31部が、民事罰規定の違反に対する金銭的な罰則を定めていることに触れています*1。
金額は第4部の改正で入りました*1。電気通信法1997の第570条第3項へ2つの項目が追加され、電気通信(消費者保護・サービス基準)法1999の第151D条第1項または第2項の違反については、1件あたり3000万豪ドルとされました*1。あわせて、同法の第148条第1項または第3項の違反も1件あたり3000万豪ドルになっています*1。
1件あたりという書き方なので、複数の指示に従わなければ積み上がります*1。金額の水準としては、同じ豪州の詐欺防止枠組みの議論と並ぶ規模です*1。
調査への接続もあります*1。第151N条は、カストディアンが一定の場合に、電気通信法1997の第26部に基づく調査のために、書面で事項をACMAへ付託できるとしました*1。
受け取った情報は、目的の範囲で回せる
第4節が、情報の利用と開示を扱います*1。
第151E条は、指示に基づいて情報を受け取った者、または第151F条により開示を受けた者について、その指示が出された目的、またはその開示が行われた目的と同じ目的でなら、情報を利用し、または開示できるとしました*1。注記は、これが電気通信法1997の第13部、プライバシー法1988、その他の法(コモン・ローを含む)の目的における授権を構成すると説明します*1。
第151F条は、ECS情報を定義したうえで、より広い利用を認めます*1。ECS情報とは、この節や第3節・第5節に基づく機能・職務の遂行、または権限の行使の過程で、もしくはその目的で、ある者が取得または生成した情報です*1。
カストディアンとACMAは、ECS障害事象への備え、対応、復旧を助けること、ECS障害事象への備えを高めること、緊急通報サービスを維持すること、緊急通報サービスまたはECS事項に関する事項のために、ECS情報を利用・開示できます*1。
開示の相手も列挙されました*1。搬送事業者、搬送サービス提供者、緊急通報取扱者、緊急サービスまたはその派遣を行うサービス、国家緊急事態管理庁、大臣、そして連邦・州・準州の省庁や機関です*1。事業者間で情報を回す経路が制度として用意された形です*1。
第151G条は、委託を受けた者(entrusted person)による利用・開示の授権を並べます*1。同法の目的での職務の遂行、法執行に関わる活動、他の豪州の法により求められ、または認められる場合、情報が関係する本人への開示、本人の明示的な同意、情報を提供した者への開示、すでに適法に公表されている情報、そして他人の安全・健康・福祉に対する重大な脅威を軽減し、または防ぐために必要な場合です*1。
日本のIT部門が持ち帰れる論点
この法律は豪州の制度で、日本の事業者に直接の義務を課すものではありません*1。ただし、重要な役務を支えるシステムを運用する立場では、参考にできる点があります*1。
第一に、社内の連絡が照会の対象になりうるという前提です*1。(i)は、対外だけでなく社内の連絡の詳細を求めています*1。障害対応のチャットや議事の記録は、後から第三者が読む前提で残すことになります*1。憶測や感情的な表現を避け、判断と根拠を書く運用が、結果として自社を守ります*1。
第二に、障害の前後の性能データを持っておくことです*1。(g)は、前・最中・後のネットワークの性能と管理のデータを求めます*1。障害の最中の値だけでは比較になりません*1。保持の期間と粒度を、平常時の運用として決めておく必要があります*1。
第三に、予兆の段階での報告体制です*1。ECS障害事象の定義には「発生するであろう」が入っています*1。起きてから動く体制だけでは足りず、起きそうだと判断した時点で外部へ伝える経路が要ります*1。誰が判断し、誰が伝えるかを、障害対応の手順に組み込んでおく論点です*1。
第四に、口頭で伝えた内容を記録に落とすことです*1。第151B条は、口頭で提供した後にすみやかに書面の記録を作らせます*1。緊急時の電話連絡は速いのですが、記録が残りません*1。通話の直後に定型の様式へ書き起こす運用を、あらかじめ準備しておくと負担が減ります*1。障害の履歴を公開する制度とは、障害登録簿の仕様で接続しています*1。
まとめ:豪州のTriple Zeroカストディアン法で押さえる3つの視点
豪州では、電気通信法改正(Triple Zeroカストディアンおよび緊急通報の権限)法2025が2025年10月30日に裁可され、翌10月31日に全部が施行されました。電気通信(消費者保護・サービス基準)法1999を改正し、Triple Zeroカストディアンの役割とECS指示の仕組みを作っています。押さえたい視点は三つあります。第一に、指示の出し方。カストディアンは長官の職務を行う者がなり、備え・対応・復旧の支援、備えの向上、緊急通報サービスとECS事項の機能の監督などを担います。カストディアンが書面で受け手と文言を指定して要請すると、ACMAは原則として受領から7日以内に、指定された者へ指定された文言で指示を出します。指示の写しはカストディアンへ渡され、指示により提供された情報とACMAの見解も共有されます。第二に、求めうる情報。ECS事項に関する方針・手順・処理や、設備・配線・機器・ネットワーク・ソフトウェアの設置や試験に関する情報のほか、ECS障害事象については9つの類型が列挙されました。事象の性質、影響を受けたサービス、復旧と対処(所要の期間を含む)、関係する場所、影響を受けた主体への影響、影響を受けた設備、事象の前後と最中のネットワークの性能と管理のデータ、他者とのやり取りの詳細、そして対外的または社内の連絡の詳細です。ECS障害事象は、緊急通報サービスへのアクセスの喪失などをもたらしうる事象であって、発生しているか発生するであろうと合理的に信じられるものを指します。第三に、遵守と罰則。指示に従うことと、その違反を幇助・誘引・共謀しないことは民事罰規定とされ、電気通信法1997第570条第3項の改正により、1件あたり3000万豪ドルとされました。指示には遵守の期間と延長の申請、情報の提供の方法と様式、口頭提供時の書面記録とその免除の申請、第147条の決定と矛盾する範囲では義務を課さない旨を記載します。受け取った情報は、指示が出された目的と同じ目的でなら利用・開示でき、カストディアンとACMAは備えや復旧のために、事業者、緊急サービス、国家緊急事態管理庁、大臣、官公庁などへ開示できます。
よくある質問
ECS指示は誰が出すのですか。
ACMAが出します。第151A条第1項は、ACMAが搬送事業者、搬送サービス提供者、または個人でない緊急通報取扱者に対して、書面の指示を出せるとしています。ACMAは自らの発意でも出せますが、第151L条により、Triple Zeroカストディアンが、自らの機能の遂行に必要または適切と考える場合に、受け手と指示の文言を指定した書面の要請をACMAへ行うこともできます。この場合、ACMAは原則として要請の受領から7日以内に、指定された者へ指定された文言で指示を出します。
障害が起きる前でも指示の対象になりますか。
なります。第151A条第4項は、ECS障害事象を、カストディアンまたはACMAが、その事象が発生しているか、または発生するであろうと合理的に信じ、かつ、それが1人以上の者が緊急通報サービスへのアクセスを失う結果、または緊急通報取扱者が緊急通報番号への呼を受信・処理できず、もしくは緊急サービスやその派遣を行うサービスへ転送できない結果をもたらしうる場合と定義しています。「発生するであろう」が含まれているため、予兆の段階も対象になります。
指示に従わないと、どうなりますか。
民事罰の対象です。第151D条第1項は、ECS指示により要件を課された者が指示に従わなければならないとし、第2項は、その違反を幇助・教唆・助言・実現させること、脅しや約束などにより誘引すること、知りながら関与または加担すること、共謀して違反を生じさせることを禁じています。第3項により両項は民事罰規定であり、電気通信法1997第570条第3項の改正で、これらの違反は1件あたり3000万豪ドルとされました。同法第148条第1項または第3項の違反も同額です。
提供した情報は、どこまで共有されますか。
目的の範囲で共有されます。第151E条は、指示に基づき情報を受け取った者が、その指示が出された目的と同じ目的でなら利用・開示できるとしています。第151F条は、カストディアンとACMAが、ECS障害事象への備え・対応・復旧を助けること、備えを高めること、緊急通報サービスを維持すること、緊急通報サービスやECS事項に関する事項のために、ECS情報を利用・開示できるとし、開示先として搬送事業者、搬送サービス提供者、緊急通報取扱者、緊急サービスやその派遣を行うサービス、国家緊急事態管理庁、大臣、連邦・州・準州の省庁や機関を挙げています。
出典
- *1 参考:オーストラリア連邦法令登録簿「Telecommunications Legislation Amendment (Triple Zero Custodian and Emergency Calling Powers) Act 2025」(C2025A00050・2025年10月30日裁可)(https://www.legislation.gov.au/C2025A00050/asmade/text)。本記事の一次情報。第2条の施行(裁可の翌日である2025年10月31日に全部)、別表1の第1部(電気通信(消費者保護・サービス基準)法1999の改正)として、第5条第2項への定義の追加(カストディアン、ECS指示、ECS情報、ECS事項、ECS障害事象)、第146条への概要の追加、第8部への第3節の追加(第151A条のECS事項5類型と3種類の指示・障害事象について求めうる9類型・障害事象の定義、第151B条の指示の記載事項と延長や免除、第151C条のカストディアンへの写しの交付、第151D条の遵守義務と幇助等の禁止・民事罰規定である旨)、第4節(第151E条の同一目的での利用・開示、第151F条のECS情報の定義と利用・開示の目的および開示先、第151G条の委託を受けた者による授権、第151H条)、第5節(第151J条のカストディアンの設置と長官の職務を行う者が就くこと、第151K条の機能、第151L条の要請と7日以内の指示・情報と見解の還元、第151M条の情報や助言の請求、第151N条の調査への付託)、ならびに第4部の民事罰の引き上げ(電気通信法1997 第570条第3項への追加により、第148条第1項・第3項および第151D条第1項・第2項の違反について1件あたり3000万豪ドル)を確認した。確認日は2026年9月10日。(2026年9月確認)