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スキルマップの整備状況、従業員数と業種による違い
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- IPAの調査の回答データから計算すると、スキルマップや研修の仕組みを整備している企業は33.7%、特に対応していない企業は42.8%でした。
- 整備している割合は従業員数が多いほど高く、30人以下の8.5%から2,001人以上の66.4%まで上がります。
- 社員のスキルを工程の名前で1枚の表に並べ、社外に委ねる作業は期間と成果物を決めて依頼すると、社員と社外の分担を決めやすくなります。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
この工程は社員に、この工程は業務委託の人材に任せる。そう決めた担当者が、上司から理由を聞かれて答えに詰まる。誰が何をどこまでできるかが一覧になっておらず、手の空いている人に仕事を割り振っている——。エンジニアを抱える会社では、こうした状況が起こりがちです。スキルマップの整備とは、社員一人ひとりが持っているスキルを、仕事の中身と結び付けて一覧にしておくことを指します。
スキルマップがあれば、社員に任せる作業と社外の人材に委ねる作業を、同じ表の上で比べて決められます。ただし万能ではなく、表を作っただけでは、足りないスキルを持つ人は増えません。本記事では、エンジニアの採用や配置を担う実務担当者に向けて、調査で見た整備の状況、従業員数と業種による違い、整備の進め方、そしてつまずきやすい点を整理します。
目次
スキルマップの整備とは
スキルマップは、縦に社員の名前、横に仕事の工程を並べ、それぞれの社員がどの工程をどこまで担当できるかを書き込んだ表です。工程とは、要件定義、設計、プログラムの作成、テスト、運用といった仕事の区切りのことです。表があれば、ある工程を担当できる社員が何人いるのか、誰もいないのかが一目で分かります。
スキルマップと合わせて語られることが多いのが、ラーニング制度(社員が学ぶための研修などの仕組み)です。IPA(情報処理推進機構)の調査も、人材育成制度として、スキルマップやラーニング制度をどこまで整備しているかを一つの設問で尋ねています。*3 表で足りないと分かった工程を、社員の学習で補うのか、社外の人材に任せるのかを決めるには、両方がそろっていると判断しやすくなります。
整備の仕方は大きく2つです。自社の仕事に合わせて一から作る方法と、IPAのデジタルスキル標準のような、公的機関がまとめたスキルの枠組みを参考にして作る方法があります。どちらの場合も、社員の等級や経験年数ではなく、工程の名前で書いておくと、社外の人材に任せる作業と比べるときにそのまま使えます。
どれくらいの会社が整備しているのか
IPAが2024年12月から2025年2月にかけて行った「2024年度ソフトウェア動向調査」では、企業799件の回答データが公開されています。*1 このデータから計算すると、いちばん多い回答は「特に対応していない」で342件、42.8%でした。次いで「社内で作ったスキルマップやラーニング制度を整備している」が196件で24.5%、「導入を検討している」が95件で11.9%です。*2
「IPAのデジタルスキル標準を参考に整備している」は73件で9.1%でした。社内で作ったものと合わせると、整備している企業は269件、33.7%になります。*2 特に対応していない企業の42.8%のほうが、9.1ポイント多い結果です。
| 回答 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 特に対応していない | 342件 | 42.8% |
| 社内で作ったスキルマップやラーニング制度を整備している | 196件 | 24.5% |
| スキルマップやラーニング制度の導入を検討している | 95件 | 11.9% |
| わからない | 75件 | 9.4% |
| IPAのデジタルスキル標準を参考にスキルマップやラーニング制度を整備している | 73件 | 9.1% |
| その他 | 18件 | 2.3% |
整備している企業の中では、社内で作った企業が多数を占めます。件数で比べると、社内で作った196件は、デジタルスキル標準を参考にした73件の約2.68倍です。*2
会社の規模で違うのか
回答データを従業員数で分けて数え直すと、整備している企業の割合は、30人以下で8.5%、31人から100人で17.3%、101人から300人で24.6%でした。301人から1,000人では47.5%、1,001人から2,000人では58.6%、2,001人以上では66.4%です。*2 従業員数が多いほど整備している割合が上がり、いちばん小さい区分といちばん大きい区分では57.9ポイント開いています。
300人以下の3つの区分では、整備している企業が4社に1社を下回ります。この規模の会社では、スキルマップがないほうが普通です。一方で、2,001人以上の会社でも、3社に1社は整備していません。規模が大きい会社でも、全社の制度がそろっているとは言えない状況です。
反対に「特に対応していない」の割合を見ると、30人以下が66.0%、31人から100人が66.2%で、この2つの区分はほとんど変わりません。*2 30人以下では「わからない」と答えた企業が20.9%と多く、そのため特に対応していない割合が、31人から100人をわずかに下回っています。101人以上の区分では、従業員数が多いほど、特に対応していない割合がはっきり下がります。
受託開発の会社との違い
回答した企業の種別で分けると、違いはさらに大きくなります。自社のためにシステムを使う側のユーザー企業662件では、整備している企業が27.5%、特に対応していない企業が49.2%でした。システムの開発を請け負う受託開発ソフトウェアベンダー73件では、整備している企業が65.8%、特に対応していない企業は11.0%です。*2 整備している割合の差は38.3ポイントあります。
開発を請け負う側はスキルの基準を持っていることが多く、発注する側は持っていないことが多いと分かります。発注する側に基準がないと、どの作業をどこまで任せるかを、委託先の基準で決めることになりやすくなります。社員に任せる作業を自社で決めておくためにも、自社の表を持っておく意味があります。
なお、この設問は整備しているかどうかを尋ねたもので、整備している表の中身や、整備していない理由までは分かりません。従業員数や業種による差も、何が原因なのかまでは示していません。
どう進めるのか
全社の制度として作ろうとすると時間がかかります。まずは一つの部署や一つのシステムについて、社員に任せる作業と社外に委ねる作業を決めるための表を1枚作るところから始めます。進め方は次の4つの手順に分けられます。
- 社員が持っているスキルを、工程の名前で1枚の表に並べる
- 社外の人材にいま任せている作業を、同じ表に書き込む
- 表の上で担当が決まっていない作業を、社員と社外のどちらに任せるか決める
- 社外に委ねる作業だけ、期間と成果物を決めて依頼する
手順1では、等級や経験年数ではなく、「テストの計画づくり」「運用手順書の作成」のような工程の名前で書きます。手順2では、業務委託で加わっている人がいま担当している作業を、同じ工程の名前で書き込みます。社員と社外の人材の担当が、1枚の表の上で見比べられるようになります。
手順3では、表の上で担当が決まっていない作業について、社員が学んで担当するのか、社外の人材に任せるのかを決めます。手順4では、社外に委ねると決めた作業について、いつまでに何を納めてもらうかを書きます。人数だけを決めて、作業の中身を書かずに依頼することはしません。
手順4で決めた作業は、工程と期間がはっきりしているので、フリーランスを含む業務委託で頼みやすくなります。スキルの種類ごとの人材の過不足と増減は「IT人材の増減」で、人材が足りないときの対応の方針は「IT人材不足の対応」で、同じ調査の別の設問から整理しています。
つまずきやすい点
一つ目は、全社の制度がそろうのを待ってしまうことです。先に見たとおり、2,001人以上の会社でも整備している割合は66.4%にとどまります。*2 全社で使える表が完成するまで判断を先送りすると、そのあいだも、手の空いている人に仕事を割り振ることになります。部署ごとの表を先に作れば、社外に委ねる作業も決められます。
二つ目は、手順1と手順3まで委託先に任せてしまうことです。そうすると、社員に何を任せるかを委託先が決めることになります。表を作る作業と判断は自社で行い、社外の人材には手順4で決めた作業を依頼します。
三つ目は、表を作ったことで満足してしまうことです。スキルマップは、社員の担当が変わったり、社外に委ねていた作業を社員が引き取ったりするたびに古くなります。プロジェクトの体制を決めるとき、表も一緒に見直す手順にしておくと、判断のもとになる表として使い続けられます。プロジェクトの体制の組み方は「プロジェクト管理の体制」で扱っています。
まとめ:スキルマップで確かめておきたい3つの点
スキルマップを整備して、社員に任せる作業と社外に委ねる作業を決めるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、社員のスキルを、等級や経験年数ではなく工程の名前で1枚の表に並べること。第二に、社外の人材に任せている作業を同じ表に書き込み、担当が決まっていない作業を社員と社外のどちらに任せるかを自社で決めること。第三に、社外に委ねる作業は、期間と成果物を決めて依頼することです。この3点を踏まえておけば、「理由を聞かれても、なぜその作業を社外に任せたのか答えられない」という事態を避けやすくなります。担当の切り分けに迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
この調査は、いつ、どれくらいの企業が回答したものですか
IPAの「2024年度ソフトウェア動向調査」は、2024年12月17日から2025年2月14日にかけて行われました。2025年4月7日時点で企業799件、個人74件の計873件の回答があり、本記事では企業向けの799件を扱っています。*1 回答は匿名化したうえでオープンデータとして公開されています。
この設問は、複数の回答を選べる形式ですか
本記事では、1社が1つだけ選んだものとして集計しています。設問文には「当てはまるものを全てお選びください」と書かれていますが、設問一覧では1つだけ選ぶ形式(単一選択)とされています。*3 公開されている回答データでも、1社につき1つしか値が入っていません。
デジタルスキル標準を参考にする会社は、規模で違いますか
大きく違います。デジタルスキル標準を参考に整備している企業は、2,001人以上では39件で31.2%、30人以下では3件で2.0%でした。*2 30人以下では、整備している企業そのものが8.5%にとどまります。
ユーザー企業と受託開発以外の企業種別の数値はありますか
回答データには含まれていますが、本記事では割合を出していません。ほかの4つの種別は、それぞれ7件から22件と件数が小さく、1件の違いで割合が大きく動くためです。*2
社員と社外の人材の役割分担を相談したいとき
社員に任せる作業と、社外に委ねる作業の切り分けからご相談いただけます。
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出典
- *1 参考:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査」調査結果データの公開と分析レポートの募集(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/software-engineering/result-software2024.html)。出典:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査」の公開ページ。公開日2025年2月27日・最終更新日2025年4月25日、調査期間、2025年4月7日時点の回答件数(企業799件・個人74件)、回答を匿名化してオープンデータとして公開していることを参照(2026年9月確認)
- *2 参考:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 企業向け 調査結果(選択肢項目文字列)」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/software-engineering/h5f8pg00000028n8-att/software2024-c-result-data-str.csv)。出典:企業向けの回答データ(CSV)。Q4-2の件数と割合、整備している2つの合計、従業員数別と企業種別の集計、差と倍率は、このデータから計算した値(2026年9月確認)
- *3 参考:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 企業向け 設問一覧」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/software-engineering/h5f8pg00000028n8-att/software2024-c-questions.xlsx)。出典:企業向けの設問一覧。Q4-2の設問文と選択肢、回答の種別(単一選択)、回答対象の企業種別、Q1-3(企業種別)とQ1-7(従業員数)の区分を参照(2026年9月確認)