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SESから自社雇用への切り替え|引き抜き禁止条項の確認ポイント
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 派遣元は、正当な理由がなければ、派遣先が派遣されている人を雇うことを禁じる契約を結べません。
- 同じ事業所で1年以上受け入れている人がいて、通常の労働者を募集するなら、その人への募集の周知は自社の義務です。
- 自社の雇い入れの努力義務は、1年以上の受け入れ、同じ業務に人を雇い入れようとすること、派遣元からの申し入れの3つがそろって生じます。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
SESで来てもらっている人の仕事ぶりがよく、自社の社員として迎えたい。けれど契約書には引き抜きを禁じるような条項があり、声をかけてよいのか迷う——。開発を外部の人材に支えてもらっている現場では、こうした迷いが起こりがちです。SES(技術者に来てもらう契約の通称)から自社雇用への切り替えとは、来てもらっている人を、自社が直接雇う形に移すことを指します。
受け入れ方が労働者派遣に当たる場合、切り替えの進め方は労働者派遣法の条文である程度決まっています。ただし条文は1つではなく、義務を負う会社も、義務の強さも、期間の数え方も条文ごとに違います。本記事では、SESの人材を自社で雇いたい発注側の担当者に向けて、引き抜きを禁じる契約の扱い、派遣元と自社それぞれの義務、確かめる順序、そしてつまずきやすい点を整理します。
目次
SESから自社雇用への切り替えとは
労働者派遣法と同法の施行規則には、SESという名前の契約は出てきません。そこで本記事では、SESの人材を労働者派遣として受け入れている場合に絞って話を進めます。受け入れ方が労働者派遣に当たるかどうかの判断は、本記事では扱いません。以下、人を出す会社を派遣元、受け入れる自社を派遣先と呼びます。
切り替えに関わる条文は4つあります。第33条は、派遣元が結んではならない契約を定めた条文です。第30条は、派遣元が働く人の雇用を安定させるために講じる措置を定めています。派遣先の側では、第40条の5が募集の周知を、第40条の4が雇い入れを定めています。「組織単位」の定義は第26条にあります。
図のように、条文は派遣元の側と派遣先の側に分かれます。自社が直接負うのは第40条の5と第40条の4ですが、第40条の4の努力義務が生じるかどうかは、派遣元が第30条の措置を講じたかどうかで変わります。自社の条文だけでは努力義務の有無が決まらないのは、このためです。
引き抜きを禁じる契約は結べるのか
第33条「派遣労働者に係る雇用制限の禁止」には2つの項があります。第1項は働く人との約束を対象にした項で、派遣元が、雇用する派遣労働者などとの間で、正当な理由がなく、派遣元との雇用関係の終了後に派遣先に雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはならない、と定めています。*1
第2項は会社どうしの約束を対象にした項です。派遣元は、派遣先となる会社との間で、正当な理由がなく、派遣元との雇用関係の終了後にその派遣労働者を雇用することを禁ずる旨の契約を締結してはならない、とされています。*1 自社の契約書に関わるのは、この第2項です。
どちらの項にも「正当な理由がなく」とあるため、引き抜きを禁じる約束が一切結べないという条文ではありません。何が正当な理由に当たるかは、この条には書かれていません。契約書の条項に理由が書かれていなければ、派遣元に理由を尋ね、その答えを踏まえて扱いを決めていくのが順当です。
派遣元が講じる措置と1年・3年
第30条「特定有期雇用派遣労働者等の雇用の安定等」は、派遣元が義務を負う条文です。対象の中心は特定有期雇用派遣労働者で、期間を定めて雇われ、派遣先の同じ組織単位の業務に続けて1年以上従事する見込みがある人を指します。細かな範囲は省令で定めるとされています。*1 組織単位は第26条で定義されていて、労働者の配置の区分のうち、業務の割り振りに直接の権限を持つ責任者がいる単位です。
条文は、この人について第1号から第4号までの措置を並べ、「講ずるように努めなければならない」としています。第1号は、派遣先に対し、その人に労働契約の申込みをすることを求めることです。つまり、派遣元が派遣先に「この人を直接雇ってほしい」と申し入れる措置です。第2号は派遣労働者としての就業の機会の確保と提供、第3号は期間を定めない雇用の機会の確保と提供、第4号は教育訓練などを指します。
第30条第2項で義務の強さが変わります。同じ組織単位の業務に継続して3年間従事する見込みがある人については、第1項の「講ずるように努めなければ」を「講じなければ」と読み替える、と定めています。*1 1年以上の見込みなら努力義務、3年の見込みなら義務です。変わるのは義務の強さだけで、講じる措置が第1号に絞られるわけではありません。
自社に義務としてかかる募集の周知
ここから派遣先の側です。第40条の5第1項「派遣先に雇用される労働者の募集に係る事項の周知」は、2つの条件がそろうと自社に義務がかかる条文です。1つは、同一の事業所などで、派遣元から1年以上継続して同一の派遣労働者を受け入れていること。もう1つは、その事業所で働く通常の労働者の募集を行うことです。
2つがそろうと、掲示その他の措置によって、業務の内容、賃金、労働時間などの募集に係る事項を、その派遣労働者に周知しなければならない、とされています。*1 語尾が「しなければならない」なので、努力義務ではなく義務です。ただしこの義務がかかるのは募集を行うときで、募集をしていない時期に何かを求める条文ではありません。
第40条の5第2項には読み替えがあります。同一の組織単位の業務に継続して3年間従事する見込みがある特定有期雇用派遣労働者については、第1項の「通常の労働者」を「労働者」と読み替えます。「通常の」という限定が外れるので、通常の労働者に限らない募集も、その人への周知の対象になります。この第2項の対象は、第30条第2項に基づいて、派遣元から直接雇用の申し入れを受けた人です(施行規則第33条の8)。*2
雇い入れの努力義務が生じるとき
第40条の4「特定有期雇用派遣労働者の雇用」は、語尾が「雇い入れるように努めなければならない」の努力義務です。*1 条文が置いている条件は、次の3つに分けて整理できます。
| そろうこと | 条文が置いている条件 |
|---|---|
| 受け入れの実績 | 組織単位ごとの同一の業務について、継続して1年以上、同一の特定有期雇用派遣労働者の派遣を受けたこと |
| 雇い入れる場面 | 派遣を受けた期間(派遣実施期間)が経過した日以後、引き続き同じ業務に労働者を従事させるため雇い入れようとすること |
| 対象者の限定 | 派遣元から、第30条第1項第1号の措置が講じられた者であること |
特に重要なのは3つめです。施行規則第33条の7は、第40条の4の省令で定める者を、第30条第1項第1号の措置が講じられた者としています。*2 派遣元から直接雇用の申し入れを受けた人でなければ、この努力義務の対象になりません。
2つめの「労働者を雇い入れようとする」の労働者は、条文ではその派遣労働者に限られていません。同じ業務に誰かを雇い入れようとする場面で、その派遣労働者を遅滞なく雇い入れるよう努める、という定めです。2つめと3つめの両方が要るため、自社が雇い入れようとしているだけでも、派遣元からの申し入れがあっただけでも、この努力義務は生じません。
第40条の5第1項と比べると違いがはっきりします。募集の周知の義務は受け入れの期間を事業所ごとに数え、対象は1年以上受け入れている同一の派遣労働者です。雇い入れの努力義務は受け入れの期間を組織単位ごとに数え、対象は省令で絞られた特定有期雇用派遣労働者です。
どう進めるのか
自社が確かめることを、動く順に4つ並べます。1つめは、契約書にある引き抜き禁止の条項です。第33条第2項は会社どうしの約束を対象にしているので、最初にここを読みます。条項に理由が書かれていなければ派遣元に尋ねます。2つめは受け入れの実績で、同じ組織単位の同じ業務に、同じ人を継続して1年以上受け入れているかを自社の記録で確かめます。
3つめは、その人が特定有期雇用派遣労働者に当たるかと、派遣元から直接雇用を求める申し入れがあったかです。どちらも派遣元の側にある情報なので、派遣元に確かめることになります。第40条の4は施行規則第33条の7を通じて、第40条の5第2項は施行規則第33条の8を通じて、どちらもこの申し入れを受けた人に対象を絞っています。*2
4つめは、自社が募集を行っているかです。同じ事業所で1年以上続けて同じ派遣労働者を受け入れたうえで、通常の労働者の募集を行うなら、第40条の5第1項の周知の義務がかかります。直接雇うときに期間を定める場合の設計は「有期で採って正社員にする設計の落とし穴」で扱っています。
つまずきやすい点
一つ目は、事業所と組織単位を同じものとして扱ってしまうことです。同じ人を1年以上受け入れていても、募集の周知の義務と雇い入れの努力義務に当たるかどうかは、事業所と組織単位のそれぞれで別々に確かめる必要があります。
二つ目は、1年と3年を、どちらも自社が数える期間だと思い込むことです。第30条の1年と3年は、派遣元が講じる措置の強さを決める「見込み」の期間です。自社が数えるのは、第40条の5第1項と第40条の4の、実際に受け入れてきた1年以上の期間です。実績か見込みかを分けておくと、派遣元に何を尋ねればよいかが見えてきます。
三つ目は、自社が雇いたいと考えた時点で、雇い入れの努力義務が生じると考えてしまうことです。申し入れがない場合、この努力義務は生じません。ただし、本記事で見た条文に、雇うこと自体を禁じる定めはありません。
まとめ:SES切り替えで確かめておきたい3つの点
SESで来ている人を自社で雇う形に切り替えるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、契約書の引き抜き禁止の条項を、正当な理由がなければ結べないとする第33条第2項に照らして読むこと。第二に、同じ事業所や組織単位で、同じ人を1年以上受け入れてきたかを自社の記録で数え、募集を行うなら第40条の5の周知を行うこと。第三に、その人が特定有期雇用派遣労働者に当たり、派遣元から直接雇用の申し入れがあったかを派遣元に確かめることです。この3点を踏まえておけば、「声をかけたら契約違反だと言われ、話が止まってしまった」という事態を避けやすくなります。切り替えの進め方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
SESで来ている人を、そのまま自社で雇ってもよいですか
労働者派遣として受け入れている場合、本記事で見た条文に、派遣先が雇うこと自体を禁じる定めはありません。むしろ第33条は、派遣元が、正当な理由がなく雇用関係の終了後の雇用を禁ずる契約を結ぶことを禁じています。*1 受け入れ方が労働者派遣に当たるかどうかは、先に確かめておきます。
派遣元から直接雇用の申し入れがなくても、声をかけてよいですか
声をかけること自体を禁じる定めは、本記事で見た条文にはありません。申し入れがない場合は、第40条の4の雇い入れの努力義務が生じないというだけです。*2 声をかける前に、契約書の引き抜き禁止の条項を読んでおきます。
1年と3年は、それぞれ何を数えた期間ですか
3年は、派遣元の側で、同じ組織単位の業務に継続して従事する「見込み」の期間です。第30条の措置は、3年の見込みがあると努力義務から義務に変わります。*1 1年は、第30条では見込みの期間ですが、自社にかかる第40条の5第1項では同じ事業所で実際に受け入れてきた期間、第40条の4では同じ組織単位で実際に受け入れてきた期間を指します。
SESからの切り替えを相談したいとき
契約書の条項の読み方を含めて、切り替えの進め方からご相談いただけます。
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出典
- *1 参考:e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(https://laws.e-gov.go.jp/law/360AC0000000088)。出典:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)。第26条第1項第2号、第30条第1項・第2項、第33条第1項・第2項、第40条の4、第40条の5第1項・第2項を参照(2026年9月確認)
- *2 参考:e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則」(https://laws.e-gov.go.jp/law/361M50002000020)。出典:同法施行規則。第33条の7(第40条の4の省令で定める者)と第33条の8(第40条の5第2項の省令で定める者)を参照(2026年9月確認)