LASSIC Media らしくメディア
採用KPIに置く5つの指標と分母の決め方
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 歩留まりの業界平均は公表されていない:公的統計で取れるのは求人倍率や不足判断といった市場側の数字までです*1*2。
- 先に固定するのは分母:同じ指標名でも数え方が違えば前回と比べられません。分母を1回決めて動かさないことが要点です。
- 通過率より日数が先に表れる:市場が混んでいる時期は、落ちるのではなく他社に決まります。所要日数を先に見てください。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
「採用のKPIを置きたい」という相談で最初に出るのが、業界平均はどのくらいかという質問です。書類選考の通過率、面接の通過率、内定承諾率。これらの公的な平均値は公表されていません。探しても見つからないため、そこで作業が止まります。
止まる必要はありません。公的統計で取れるのは市場の混み具合までで、選考の中身は自社で測るしかない——この線を引いてしまえば、KPIの設計は前に進みます。比較対象は業界平均ではなく、自社の前回になります。そして前回と比べるためには、指標より先に分母を固定する必要があります。
本記事では、公的統計で取れる範囲を確認したうえで、5つの指標と分母の決め方、通過率より先に見る数字、そしてKPIを置いたときに起きる副作用を整理します。人数の計画そのものは要員計画に必要な4つの数字と決める順番で扱っているので、本記事は測り方に絞ります。
目次
公的統計で取れるのは、市場の混み具合まで
まず境界線を確認します。何が取れて何が取れないかを分けておくと、無い数字を探す時間が消えます。
取れる側から見ます。厚生労働省の一般職業紹介状況(令和8年6月分・令和8年7月31日公表)では、有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍で前月と比べて0.01ポイント上昇、新規求人倍率(季節調整値)は2.16倍で前月と比べて0.05ポイント上昇しました*1。
産業別の動きも出ています。6月の新規求人(原数値)は前年同月と比較すると3.1%増で、産業別ではサービス業(他に分類されないもの)11.5%増、製造業10.4%増、宿泊業・飲食サービス業5.4%増などで増加した一方、情報通信業は6.4%減、卸売業・小売業2.6%減、教育・学習支援業2.2%減となっています*1。
この6.4%減の読み方には注意が要ります。単月の原数値であり、季節性の影響を除いた数字ではありません。また求人が減ったことは、そのまま採用が容易になったことを意味しません。同じ調査でも不足感は続いており、労働経済動向調査では令和8年5月1日現在の正社員等労働者過不足判断D.I.が調査産業計で+47ポイント、情報通信業で+54ポイントの不足超過です*2。
人の動きの規模も公的統計で取れます。令和6年雇用動向調査では、転職入職率は9.7%で、就業形態別に見ると一般労働者は8.3%、パートタイム労働者は13.5%でした*3。市場全体でどれだけの人が動いているかは分かるということです。
一方、取れない側が本題です。書類選考の通過率、面接ごとの通過率、内定承諾率、応募から内定までの日数。これらに公的な業界平均は公表されていません。理由は単純で、数え方が会社ごとに違うためです。何を1件の応募と数えるか、いつを起点にするか。定義がそろわない指標は、集計しても比較できません。
比較対象は「自社の前回」になる
業界平均が無いという事実は、KPIを置けない理由にはなりません。むしろ設計を単純にします。
比べる相手は自社の前回の募集です。同じ会社、同じ職種、似た条件で出した前回と比べれば、変わったのは施策の側です。業界平均と比べても「うちは条件が違う」という話に落ちますが、前回と比べればその逃げ道がありません。
この方式で気をつける点が3つあります。
- 職種をまとめない。エンジニアと営業を合算した通過率は、構成比が変われば勝手に動きます
- チャネルを分ける。媒体経由と紹介経由では通過率の水準がそろいません。合算すると打ち手の判断ができません
- 市場側の数字を横に置く。前回より悪化していても、市場が混んでいれば施策の失敗とは言えません。求人倍率や不足判断D.I.は、この判断のために見ます
3つ目が公的統計の使い道です。自社の数字を評価するための背景として使うのであって、目標値を借りるために使うのではありません。混み具合が変わっているなら、施策の評価もそれを踏まえた読み方になります。
チャネルを分ける理由をもう少し具体的に書きます。紹介経由の候補者は、紹介者が事前に要件を伝えているため書類通過率が高く出ます。媒体経由は応募のハードルが低いぶん通過率が下がります。この2つを合算した通過率が下がったとき、選考が厳しくなったのか媒体経由の比率が上がっただけなのか、合算値からは判別できません。指標が動いた理由を1つに絞れない集計は、打ち手につながりません。
同じ理屈で、募集の期間もそろえておきたいところです。3か月かけた前回と1か月で締めた今回を比べると、応募数の差は施策ではなく期間の差になります。前回と比べるときは「募集開始から◯日目までの数字」という形で区切ると、条件がそろいます。
なお、前回の記録が無い場合は今回が1回目になります。1回目に「良い・悪い」の判断はできません。ここで無理に外部の数字と比べると、根拠のない目標が置かれて現場が振り回されます。1回目は記録を残すことだけを目的にするほうが健全でしょう。
5つの指標と、それぞれの分母
測る指標は5つで足ります。増やすと更新されなくなります。重要なのは指標名ではなく分母です。
| 指標 | 分母の決め方 | ずれやすい点 |
|---|---|---|
| 応募数 | 募集開始からの全応募。同一人物の重複は1件に寄せる | スカウトの返信を応募に数えるかどうか |
| 書類通過率 | 判定を終えた件数。未判定は分母に入れない | 保留の扱い。放置分が分母に残ると率が下がる |
| 面接通過率 | 実施した面接数。回次ごとに分けて数える | 日程調整中の辞退を面接数に含めるか |
| 内定率 | 最終面接を実施した数 | 条件提示の前に取り下げた分の扱い |
| 承諾率 | 出した内定数。返答待ちは別に数える | 返答待ちを分母に入れると期末に率が動く |
「ずれやすい点」の列が実務上の要点です。どちらの数え方でも構いませんが、決めたら変えないこと。変えた場合は変えた日を記録します。ここが曖昧だと、改善したのか数え方が変わったのか判別できません。
分母の決定で迷ったときの原則は、「作業が終わったものだけを分母に入れる」です。判定していない書類、実施していない面接、返答が来ていない内定は、まだ結果が出ていません。これらを分母に含めると、進行中の案件が多い時期に率が下がって見えます。
あわせて、選考の判定基準そのものが定まっていないと通過率は安定しません。IPAの調査では、DX人材の評価基準について「基準はない」の回答率が2025年度で76.1%でした*4。基準が無い状態で通過率だけを追うと、面接官が変わるたびに数字が動きます。基準の作り方はコーディングテスト導入の進め方と評価基準で扱いました。
通過率より先に、所要日数を見る
指標を揃えたあと、どれから見るか。市場が混んでいる時期は、通過率よりも日数のほうが先に表れます。
理由は明快です。候補者が他社と並行して進んでいるとき、こちらの選考が遅ければ結果が出る前に決まります。この形は「面接で落ちた」ではなく「辞退」として記録され、通過率にはあまり現れません。通過率が前回と同じでも採用できていない場合、原因は日数側にあることが多いでしょう。
| 区間 | 起点と終点 | 詰まる原因 |
|---|---|---|
| 応募から書類判定 | 応募到着日 → 合否連絡日 | 判定者が現場で、他業務と競合している |
| 判定から初回面接 | 通過連絡日 → 実施日 | 面接枠が事前に確保されていない |
| 面接間の間隔 | 前回実施日 → 次回実施日 | 評価の突き合わせに時間がかかる |
| 最終面接から条件提示 | 実施日 → 提示日 | 賃金の決裁ルートが決まっていない |
4つの中で最も改善しやすいのは2番目です。面接の枠を先に押さえておくだけで数日短縮できます。逆に最も見落とされるのが4番目でしょう。賃金の決裁に時間がかかる会社では、ここで1週間以上失うことがあります。水準を事前に決めておけば短縮できます。この準備はエンジニアの年収レンジと公的統計の使い方で扱いました。
日数の記録は、通過率より手間がかかりません。各段階の日付を書くだけで、率は後から計算できます。最初に整えるなら日付の記録からが順当です。
辞退の理由は、選択肢を決めて記録する
通過率と日数のほかに、もうひとつ取っておきたい記録があります。辞退の理由です。ここは自由記述にすると集計できません。選択肢を先に決めておくのが要点です。
| 選択肢 | 読み取れること | 次に見直す場所 |
|---|---|---|
| 他社に決まった | 競合と並行していた | 日数(表2の全区間) |
| 条件が合わなかった(賃金) | 提示水準と市場のずれ | 賃金レンジと等級 |
| 条件が合わなかった(勤務時間・場所) | 枠が1種類しかない | 勤務形態の選択肢 |
| 仕事の内容が想定と違った | 求人票と実態のずれ | 募集要項の担当範囲 |
| 現職に残ることにした | 転職の意思が固まっていなかった | 初回接触時の見極め |
| 理由の回答なし | — | この件数も数えておく |
6つ目の「理由の回答なし」を選択肢に入れておく点が実務的です。聞けなかった件数が分かっていないと、集計結果が偏っているかどうかを判断できません。回答なしが半分を超えるなら、上位の理由をそのまま施策の根拠にはできません。
この表の右列は、そのまま次の募集での確認項目になります。賃金が理由の辞退が続いていれば提示水準の見直し、勤務時間や場所が理由なら枠の追加です。後者は時短勤務での採用、フルタイム前提との違いで扱いました。求人票と実態のずれについては求人情報の的確な表示、企業に課される義務も参考になるでしょう。
なお、辞退理由は候補者が言いやすい形で答えるものです。「他社に決まった」の中には、条件が合わなかったという本音が含まれている場合があります。1件ごとに深読みするのではなく、複数回分をまとめて傾向として読むのが妥当な使い方でしょう。
KPIを置くと起きる副作用
指標を目標にすると、数字は動きます。ただし意図した方向とは限りません。あらかじめ想定しておける形が3つあります。
第一に、通過率を目標にすると、通す判断が増えます。面接官が「通過率が低いと言われる」と受け取れば、迷ったときに通す方向へ寄ります。結果として次の段階に負荷が移り、最終面接で落ちる人が増えます。全体の所要時間は伸びます。
第二に、応募数を目標にすると、要件が緩みます。母集団を増やすために対象を広げると、書類判定の件数だけが増えます。判定の手間が増えるぶん日数も伸びるため、採用数は変わらないという結果になりがちです。
第三に、承諾率を目標にすると、内定を出すのが遅くなります。断られない相手にだけ出す形に寄り、判断を保留する期間が伸びます。候補者側から見れば連絡が来ない状態です。
対策は共通しています。単独の指標を目標にせず、日数と組にして見ること。そして目標ではなく確認項目として扱うことです。「通過率を◯%にする」ではなく「前回と比べて動いた指標について理由を1行書く」という運用にすると、数字を作る動きが起きにくくなります。
もうひとつ有効なのが、採用数そのものは指標に入れないことです。採用数は要員計画側で決まる数であり、選考の運用で増減させるものではありません。ここを混ぜると、質を落として数を満たす判断が正当化されます。
最初の3か月でやること
着手の順序を置きます。ツールの導入は後回しで構いません。
- 1か月目:日付を記録する。応募到着、書類判定、各面接の実施、条件提示。表計算ソフトの1枚で足ります
- 2か月目:分母を決める。表1の「ずれやすい点」について、自社の扱いを1行ずつ書き出します
- 3か月目:前回との比較を1回やる。動いた指標について理由を1行書き、次の募集で確認することを決めます
この順序にする理由は、日付の記録だけは後から取り戻せないことです。分母の定義は後からでも整理できますが、記録していない日付は復元できません。まず記録から始めてください。
3か月目の比較で「前回が無い」場合は、そのまま次回まで待ちます。焦って外部の数字を目標に置くより、1回分の実績を持ってから判断するほうが確実です。1回目の記録は、2回目のための土台です。
記録が2回分たまると、市場側の数字と並べて読めるようになります。有効求人倍率や不足判断D.I.は月次・四半期で公表されるため、自社の数字が動いた時期と重ねられます*1*2。母集団の設計を見直す判断はエンジニア採用の母集団形成、先に決める9つのことで扱っています。
記録の置き場所と担当も1か月目に決めます。候補者ごとに1行、日付は列で持つ形にしておくと、あとで区間の日数を計算できます。逆に案件ごとにメモを分けて書く形にすると、集計の段階で手作業が発生し、続きません。担当は1人にして、面接を実施した人が自分で日付を入れる運用にすると記入漏れが減ります。
なお、記録と集計の作業に手が回らない局面では外部の力を借りる選択もあります。ただし分母をどう決めるかは自社の判断として残す必要があります。順序としては1か月目と2か月目を自社で通すのが無理のない進め方です。
まとめ:採用KPIの設計で押さえる3つの視点
第一に、公的統計で取れる範囲を先に確認するという点です。厚生労働省の一般職業紹介状況(令和8年6月分)では有効求人倍率(季節調整値)が1.18倍で前月比0.01ポイント上昇、新規求人倍率が2.16倍で0.05ポイント上昇し、6月の新規求人(原数値)は前年同月比3.1%増、産業別では情報通信業が6.4%減でした。労働経済動向調査では令和8年5月1日現在の正社員等労働者過不足判断D.I.が調査産業計+47・情報通信業+54、令和6年雇用動向調査では転職入職率が9.7%(一般労働者8.3%)です。一方で書類通過率・面接通過率・内定承諾率・所要日数の公的な業界平均は公表されていません。数え方が会社ごとに違うためです。第二に、比較対象は自社の前回になるという点です。職種をまとめず、チャネルを分け、市場側の数字を背景として横に置きます。そして指標より先に分母を固定します。原則は「作業が終わったものだけを分母に入れる」で、未判定の書類や返答待ちの内定を分母に含めると進行中の案件が多い時期に率が下がって見えます。第三に、通過率より日数のほうが先に表れるという点です。混んでいる時期は落ちるのではなく他社に決まるため、辞退として記録され通過率には現れません。応募から書類判定、判定から初回面接、面接間の間隔、最終面接から条件提示の4区間を測ってください。KPIを目標にすると通す判断が増える・要件が緩む・内定が遅くなるという副作用が出るため、単独では見ず日数と組にし、目標ではなく確認項目として扱います。まず日付の記録から始めてください。
よくある質問
書類選考の通過率の業界平均を知りたいのですが、どこで見られますか。
公的統計には公表されていません。厚生労働省の一般職業紹介状況では有効求人倍率や新規求人倍率、労働経済動向調査では労働者過不足判断D.I.、雇用動向調査では入職率・離職率・転職入職率が取れますが、いずれも市場の混み具合や人の移動の規模を示すもので、選考の各段階の通過率は含まれません。理由は数え方が会社ごとに違うためです。比較対象は自社の前回の募集に置いてください。
KPIは何個くらい置くのが妥当ですか。
応募数・書類通過率・面接通過率・内定率・承諾率の5つで足ります。増やすほど更新されなくなり、運用が止まります。重要なのは指標の数ではなく分母の定義です。同じ「通過率」でも未判定を分母に入れるかどうかで水準が変わるため、自社の扱いを1行ずつ書き出し、決めたら変えないでください。変える場合は変更した日を記録します。
通過率は前回と同じなのに採用できていません。どこを見ればよいですか。
所要日数を見てください。候補者が他社と並行して進んでいる場合、選考が遅ければ結果が出る前に決まります。この形は「辞退」として記録されるため通過率には現れません。応募到着から書類判定、通過連絡から初回面接、面接間の間隔、最終面接から条件提示の4区間を測り、どこで滞留しているかを確認します。面接枠を事前に押さえること、賃金の決裁ルートを先に決めておくことが取りやすい対策です。
採用数をKPIに入れてはいけないのですか。
選考の運用を評価する指標としては入れないほうがよいでしょう。採用数は要員計画側で決まる数であり、選考の運用で増減させるものではありません。ここを混ぜると、質を落として数を満たす判断が正当化されます。必要な人数の出し方は要員計画の側で扱い、選考のKPIは「決めた要件に対してどこで詰まっているか」を見る道具として分けて使ってください。
通過率を目標にすると、何が起きますか。
面接官が迷ったときに通す方向へ寄ります。結果として次の段階に負荷が移り、最終面接で落ちる人が増えて全体の所要時間が伸びます。応募数を目標にすると要件が緩んで判定件数だけが増え、承諾率を目標にすると断られない相手にだけ内定を出す形に寄って判断が遅くなります。対策としては、単独の指標を目標にせず日数と組にして見ること、そして目標ではなく「前回と比べて動いた指標の理由を1行書く」という確認項目として扱うことです。
出典
- *1 参考:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)について」(令和8年7月31日公表)(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74767.html)。有効求人倍率(季節調整値)1.18倍と前月差、新規求人倍率2.16倍、6月の新規求人(原数値)の前年同月比および産業別増減(情報通信業6.4%減など)の一次情報として(2026年8月確認)
- *2 参考:厚生労働省「労働経済動向調査(令和8年5月)の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keizai/2605/dl/7roudoukeizaidouko.pdf)。令和8年5月1日現在の正社員等労働者過不足判断D.I.(調査産業計+47ポイント、情報通信業+54ポイント)の確認として(2026年8月確認)
- *3 参考:厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/dl/gaikyou.pdf)。転職入職率9.7%および就業形態別(一般労働者8.3%、パートタイム労働者13.5%)の確認として(2026年8月確認)
- *4 参考:独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2026」(2025年度調査)(https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/rcu1hd0000017uk8-att/dx-trend-2026.pdf)。DX人材の評価基準について「基準はない」の回答率が2025年度で76.1%であることの確認として(2026年8月確認)