LASSIC Media らしくメディア
エンジニア中途採用の年収条件は入社時の等級で決まる|能力の測り方
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 情報通信業では管理職以外の基本給に賃金表がある企業が76.5%で、年収条件は入社時にどの等級へ置くかで大きく変わります。
- 同じ業種で基本給の決定要素に職務遂行能力を挙げた企業は81.2%あり、選考では能力を等級の定義の言葉で確かめます。
- 役割を書いて等級の定義と照らし、見極めきれない部分は見直しの時点と基準を決めて内定時の書面に書いておきます。
※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
候補者の希望額は聞いたのに、社内のどの等級に置けばよいのか決まらず、年収条件を出せない。前職の役職に合わせて等級を決めたら、同じ仕事をしている社員より高くなってしまった——。エンジニア中途採用では、年収の額の前にある等級の決め方でつまずくことがよくあります。入社時の等級を決めるとは、任せる役割と候補者の力を社内の等級の定義に照らし、どの段階から始めてもらうかを決めることを指します。
本記事では、開発部門の責任者と人事の担当者に向けて、厚生労働省の調査で見た賃金表の有無と基本給の決定要素、自社の等級の区切り方の確かめ方、役割の当てはめ方、選考で能力を測る方法、見直しの時点、賃金表がない会社の決め方を整理します。
目次
年収条件の前に等級を決める理由
エンジニア中途採用で年収条件を決めるとき、候補者の希望額や前職の年収から考え始めることがよくあります。ところが、社内に等級と、等級ごとの基本給の額を定めた表がある会社では、入社時にどの等級のどの段階へ置くかが決まった時点で、基本給の額もおおよそ決まります。年収条件の話し合いで実際に動かしているのは、多くの場合、等級の当てはめ方です。
労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に、賃金の「決定、計算及び支払の方法」などを就業規則に定めて届け出るよう求めています。*5 等級と額の表を持つ会社では、それが賃金規程として就業規則の一部になっていることが多いはずです。また同法第15条は、労働契約を結ぶときに賃金などの労働条件を明示しなければならないとしています。*5 入社時の等級は、候補者に示す賃金の出発点になります。
新卒の採用では、入社時の等級は学歴などでほぼ1つに決まっています。中途採用は違い、候補者ごとに入口の等級が変わります。決め方が人によってばらつくと、同じ仕事をしている社員との差を説明できなくなり、入社後の不満の種にもなります。だからこそ、額を話し合う前に等級を決める手順を先にそろえておきたいところです。
情報通信業の76.5%に賃金表がある
厚生労働省の「令和4年就労条件総合調査」は、常用労働者30人以上の民営企業を対象に、令和4年1月1日現在の賃金制度などを尋ねた調査です(有効回答3,757社)。*1 対象は、期間を定めずに雇われている労働者で、パートタイム労働者は含みません。*1
この調査で、管理職以外の基本給に賃金表がある企業は、調査産業計で63.1%でした。*4 情報通信業では76.5%で、内訳は基本給のすべてに賃金表がある企業が71.8%、一部にある企業が4.7%です。*4 賃金表がない情報通信業の企業は21.4%でした。*4 企業の規模による差も大きく、調査産業計では1,000人以上の企業で92.0%、30~99人の企業で56.4%となっています。*4
情報通信業の企業の4社に3社ほどは、基本給を表で決めているということです。こうした会社でエンジニアの年収条件を決める作業は、白紙から額を考えるよりも、表のどこに置くかを決める作業に近くなります。一方、賃金表がない2割ほどの会社では、別の手順で額を決める必要があります。こちらは最後の節で扱います。
基本給は能力で決める会社が多い
同じ調査は、基本給を何で決めているかを複数回答で尋ねています。管理職以外の基本給の決定要素を見ると、情報通信業では「職務遂行能力」が81.2%で最も高く、「職務・職種など仕事の内容」が75.9%、「学歴、年齢・勤続年数など」が57.9%、「業績・成果」が57.6%でした。*2 調査産業計では、仕事の内容が76.4%、職務遂行能力が66.3%、学歴、年齢・勤続年数などが65.8%、業績・成果が42.0%です。*2
職務遂行能力の81.2%は、調査した16の大産業の中で最も高い値です。*2 管理職でも、情報通信業では職務遂行能力が80.0%、仕事の内容が79.9%と、ほぼ並んでいます。*3 複数回答なので、仕事の内容と能力の両方で基本給を決めている会社も多いと読めます。
中途採用にとっての意味は、入社前に候補者の能力を見極めなければ、等級も年収条件も決まらない会社が多いということです。新卒なら入社後の働きぶりを見ながら等級を上げていけますが、中途採用では最初の等級を選考の情報だけで決めます。この見極めをどう行うかが、エンジニア中途採用の年収条件を決めるうえでの要になります。
自社の等級が何で区切られているか
入社時の等級を決める前に、自社の等級が何で段階を分けているのかを確かめます。賃金規程や等級の定義を書いた文書を開き、各等級の説明の文を読むと、おおむね次の3つのどれか、またはその組み合わせになっています。
| 等級の区切り方 | 定義に書かれやすいこと | 入社時の等級を決める材料 | 気をつける点 |
|---|---|---|---|
| 仕事の内容 | 担当する仕事の範囲、責任の重さ、判断を任される範囲 | 求人で任せる役割を書いた文 | 役割が決まらないと等級も決まらない |
| 職務遂行能力 | 一人でできること、ほかの人に教えられること | 選考で確かめた過去の仕事の中身 | 入社前に見極めきれない部分が残る |
| 学歴、年齢・勤続年数など | 年齢や勤めた年数に応じた段階 | 前職の経験年数の数え方の規定 | 候補者ごとに数え方を変えない |
仕事の内容で区切る等級なら、入社時の等級は求人で任せる役割から決まります。職務遂行能力で区切る等級なら、選考で確かめた候補者の力から決まります。学歴や年齢、勤めた年数で決まる部分がある場合は、前職での経験の年数をどう数えるかを規程で定めているかを確かめてください。定めがなければ、人事の担当者と数え方を決めてから選考に入ると、候補者ごとの差が出にくくなります。
等級の定義の文があいまいなこともあります。「高度な業務を担う」のように、何が高度なのかが書かれていない場合です。そのときは、その等級にいまいる社員が実際にどんな仕事をしているかを、現場の責任者に聞いて書き出しておきます。中途採用の候補者は、その社員と比べて当てはめるのが分かりやすい方法です。
役割を書いて等級に当てはめる
最初に、入社した人に任せる役割を書きます。担当するシステム、受け持つ工程、自分で決めてよい範囲、ほかの人に教える仕事があるかどうか。この4つを書くと、等級の定義の文と並べて読めるようになります。書き方はエンジニア採用の求人票に書く業務内容でも整理しています。
次に、役割の文と等級の定義の文を並べ、どの等級の言葉に当てはまるかを確かめます。たとえば「決まった設計書どおりに機能を作る」役割と、「機能の設計を決め、ほかの人の作ったプログラムを確認する」役割では、当てはまる等級が変わるはずです。当てはめたら、同じ等級にいる社員の担当と比べ、仕事の重さがそろっているかを見ておきます。
当てはめた等級が決まれば、その等級の基本給の範囲が年収条件の幅になります。求人票に書く年収の幅は、この範囲から出すのが基本です。幅の上限をどこに置くかはエンジニア中途採用の年収上限で扱っています。役割と等級を先に決めておけば、候補者に「なぜこの額なのか」を説明するときにも、任せる仕事の言葉で話せます。
選考で能力をどう測るか
職務遂行能力で区切る等級では、等級の定義の言葉を、面接で確かめる問いに置き換えます。たとえば定義に「一人で設計を進められる」とあれば、「最近設計した機能で、何を自分で決め、何を誰に相談したか」を聞きます。「ほかの人を指導できる」とあれば、「後から来た人に何をどの順番で教えたか」を聞きます。定義の言葉と問いを1対1で対応させておくと、面接官が変わっても判断がそろいやすくなります。
話だけでは分からない部分は、実際の仕事に近い課題で確かめる方法もあります。既存のプログラムの読み解きや、設計の議論に加わってもらう形です。課題の結果も、等級の定義のどの言葉に当たるかで記録します。点数だけを残すと、どの等級に置くかの判断に使いにくくなります。
前職の役職名は、等級を決める材料にしないほうが、判断を誤りにくくなります。同じ「リーダー」でも、会社によって任されている範囲がまったく違うからです。役職名ではなく、その立場で何を決め、何人と仕事をしていたかを聞きます。最後の判断は、配属先の責任者と人事の担当者の2人で行い、どの言葉に当てはまったかを記録しておきます。
等級を見直す時点を先に決める
選考をどれだけ丁寧に行っても、入社前に見極めきれない部分は残ります。そこで、入社時の等級を決めたうえで、入社後に見直す時点と、見直すときの基準をあらかじめ決めておく方法があります。たとえば試用期間の終わりや入社から半年後に、等級の定義の言葉に照らして実際の仕事ぶりを確かめ、上の等級に当たる働きなら上げる、という形です。
この方法には注意点があります。見直しで等級を下げる、つまり賃金を下げる方向の取り決めは、労働条件の不利益な変更として扱われるおそれがあります。見直しの取り決めを入れるときは、上げる方向の見直しにとどめるのか、どんな条件を書面に書くのかを、就業規則や社会保険労務士などの専門家に確かめてください。
見直しの時点と基準は、内定のときに渡す書面に書いておきます。口頭で「半年後に見直します」と伝えただけでは、入社後に言った言わないの行き違いが起こりがちです。条件を書面でどう示すかはエンジニア中途採用の内定辞退を防ぐ条件提示で整理しています。
賃金表がない会社の決め方
情報通信業でも、管理職以外の基本給に賃金表がない企業は21.4%ありました。*4 表がない会社では、エンジニア中途採用のたびに一人ずつ額を決めることになりがちです。そうすると、採用した時期の採用の難しさによって額が上下し、同じ仕事をしている社員の間で差が生まれます。
本格的な等級の制度をすぐに作れなくても、最低限そろえられることはあります。開発の仕事を、指示を受けて作る段階、自分で設計して作る段階、ほかの人をまとめる段階のように、3つほどの役割の段階に言葉で分けておくことです。そのうえで、いまいる社員の基本給がどの段階にどう分布しているかを並べ、段階ごとの額の範囲を社内で合意しておきます。
範囲を決めるときに、世の中の水準と比べたい場合は、公的な統計で職種や経験の近い人の賃金を確かめる方法があります。エンジニア中途採用の年収条件を職種とレベル別の中央値で決めるで、その手順を扱っています。段階の言葉と額の範囲が決まれば、それがそのまま、等級のある会社と同じ手順で年収条件を決める土台になります。
まとめ:入社時の等級を決める3つの点
エンジニア中途採用の年収条件を等級から決めるうえで、押さえておきたい点は3つです。第一に、自社の等級が仕事の内容、職務遂行能力、年齢や勤続年数のどれで区切られているかを、等級の定義の文から確かめること。第二に、任せる役割を書いて等級の定義と照らし、能力で区切る等級なら、定義の言葉を面接の問いに置き換えて候補者の力を確かめること。第三に、見極めきれない部分は、入社後に見直す時点と基準を決めて内定時の書面に書いておくことです。賃金表がない会社でも、役割の段階を言葉で分けて額の範囲をそろえれば、同じ手順で年収条件を決められます。任せる役割に合う人の探し方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
候補者の希望額が、当てはめた等級の上限を超えるときはどうしますか
上限を超える額を個別に出す前に、任せる役割が1つ上の等級の定義に当たるかを確かめます。当たるなら役割の書き方と等級を見直し、当たらないなら、担当の範囲や働き方などほかの条件と合わせて話し合います。同じ等級の社員より高い額を例外で出すと、その社員との差を説明しにくくなります。
求人票に社内の等級の名前を書くべきですか
社内の等級の名前は、候補者には意味が伝わりにくいものです。求人票には、その等級に当たる役割の中身と、年収の幅を書くほうが伝わります。等級の名前は、内定のときに渡す書面で、見直しの時点や基準と一緒に示すとよいでしょう。
年齢や勤続年数で決まる部分は、中途採用にどう当てはめますか
賃金規程に、前職での経験の年数をどう数えるかの定めがあるかを確かめます。定めがなければ、エンジニアとして働いた年数だけを数えるのかなど、数え方を人事の担当者と決めてから選考に入ります。候補者ごとに数え方を変えないことが大切です。
任せる役割が決まったら相談
エンジニアに任せる役割と、当てはめたい等級の考え方が分かっていれば、そのままご相談いただけます。年収条件の幅をまだ決めきれていない段階でも構いません。
Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。
Remoguは、リモート前提で全国から即戦力のITプロ人材を調達するサービスです。リラシクは、扱う求人がすべてリモートワークのITエンジニア専門転職エージェントです。どちらもLASSICが運営しています。
出典
- *1 参考:厚生労働省「令和4年就労条件総合調査の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/22/index.html)。出典:厚生労働省「令和4年就労条件総合調査の概況」(2022年10月28日公表)。調査の概要(常用労働者30人以上の民営企業、令和4年1月1日現在、有効回答数3,757)、利用上の注意(期間を定めずに雇われている労働者、パートタイム労働者を除く)、第18表 基本給の決定要素別企業割合を参照(確認日2026年10月7日)(2026年10月確認)
- *2 参考:e-Stat「令和4年就労条件総合調査 第29-2表」(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040013116&fileKind=4)。出典:第29-2表 職層、産業・企業規模、基本給の決定要素別企業割合(管理職以外)。調査産業計と16大産業の行を参照(確認日2026年10月7日)(2026年10月確認)
- *3 参考:e-Stat「令和4年就労条件総合調査 第29-1表」(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040013115&fileKind=4)。出典:第29-1表 職層、産業・企業規模、基本給の決定要素別企業割合(管理職)。情報通信業の行を参照(確認日2026年10月7日)(2026年10月確認)
- *4 参考:e-Stat「令和4年就労条件総合調査 第28-2表」(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040013114&fileKind=4)。出典:第28-2表 職層、産業・企業規模、賃金表の有無別企業割合(管理職以外)。調査産業計・企業規模別・情報通信業の行を参照(確認日2026年10月7日)(2026年10月確認)
- *5 参考:e-Gov法令検索「労働基準法」(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)。出典:労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条(労働条件の明示)第1項、第89条(作成及び届出の義務)第2号を参照(確認日2026年10月7日)(2026年10月確認)