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SESの契約期間と長期参画、更新の単位と終了の予告
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- SESの長期参画では、更新しても変えない事項を基本契約に、期間・作業・人数を期間ごとの契約に書き分けます。
- 作業が年単位で続くと見込めるなら更新の単位を延ばし、少なくとも年に1回は条件をまとめて見直します。
- 続けないと決めたときに何日前までに伝えるかを契約で決め、予告の日を引き継ぎの始まりとして扱います。
※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
同じ技術者に1年以上続けて入ってもらっているのに、契約は3か月ごとの更新を前と同じ条件で繰り返しているだけ。続けない場合にいつ切り出すかも決めていない——。SES(技術者が客先で働く契約の形)で長期参画をお願いしている現場では、こうした状態がよく見られます。SESの長期参画とは、SES会社の同じ技術者に、契約期間の更新を重ねながら年単位で自社の開発や運用に加わってもらうことを指します。
長く続けてもらえば、自社の仕組みに詳しい人が手元に残り、そのたびの説明や引き継ぎが減ります。その一方で、条件を見直す場がないまま年数だけが進んだり、終えるときに相手の会社が次の準備をする時間を取れなかったりします。本記事では、SESで開発要員を確保するマネージャーに向けて、長く続く取引の進め方を示した国の基準を手がかりに、契約の組み立て方、更新の単位、条件を見直す時期、長期化で起きることへの備え、終えるときの予告を整理します。
目次
SESの長期参画とは
長期参画で決めることは、最初の契約期間の長さだけではありません。何か月ごとに更新するのか、いつ条件を見直すのか、続けないと決めたときにいつまでに伝えるのか。この3つを始める前に決めておかないと、更新の手続きだけが繰り返され、続けるかどうかを考える機会が来ないまま年数が積み重なります。
期間を短く区切って始めるときの決め方は「SESの短期契約で契約期間を決める手順、満了日と見直しの時期」で、派遣として人を受け入れる場合の期間の制限は「労働者派遣法の抵触日とは」で扱っています。本記事は、SES会社との取引が1年、2年と続いていく場面に絞ります。
契約期間を何か月にするかに、法律で決まった答えがあるわけではありません。発注する側とSES会社が話し合って決めるものです。ただ、長く続く取引をどう進めるのが望ましいかについては、国が示している基準があります。次の節から、その基準を手がかりに見ていきます。
手がかりになる振興基準
受託中小企業振興法は、仕事の委託を受ける中小企業の振興を目的とした法律です。2026年1月1日の施行で、それまでの下請中小企業振興法から名前が改められました。*3 法律が対象とする委託には、プログラムなどの情報成果物の作成や、業として提供する役務を構成する行為を任せることも含まれます。*2
この法律の第3条にもとづいて経済産業大臣が定めているのが「振興基準」です。委託する事業者と委託を受ける中小企業が「よるべき一般的な基準」と位置づけられ、最新のものは2026年6月24日に改正されています。*1 第4条は、必要があると認めるときは、主務大臣が振興基準に定める事項について指導や助言を行うとしています。*2
委託する側と受ける側に当たるかどうかは、資本金または従業員の数の大小と、委託する仕事の中身で決まります。*2 自社とSES会社の取引が当てはまるかは契約の内容と両社の規模しだいなので、迷うときは所管の窓口や専門家に確かめてください。当てはまらない取引であっても、長く続く取引の進め方を考える材料として読む価値はあります。
基本契約と期間ごとの契約
振興基準は、継続的な取引では、取引に関する基本的な事項を定めた契約を結び、それにもとづいて取引を行うとしています。*1 SESの長期参画に当てはめると、秘密の扱いや支払いの条件、技術者を交代するときの手続きといった変わらない事項を基本契約にまとめ、期間や任せる作業の範囲、人数を期間ごとの契約で決める形になります。
こうしておけば、更新のたびに見直すのは期間ごとの契約だけで済みます。反対に、毎回すべての条件を書き直した契約書を作っていると、前の期間からどこが変わったのかが見えにくくなります。長く続くほど契約書の束は厚くなるので、変わる部分と変わらない部分を分けておく効果は大きくなります。
振興基準は、発注の内容が曖昧な契約にならないよう、十分に協議したうえで発注の内容や納期、価格などの条件を書面等で示し、渡すことを徹底するとしています。ここでいう書面等には電子メールも含まれます。*1 長く続く取引ほど「いつもどおり」で済ませて口頭の確認が増えがちです。更新のたびに、その期間で任せる作業を文書で残しておきます。
更新の単位の決め方
振興基準は、継続的な取引関係にある相手が安定して仕事を提供できるよう、発注計画の期間を長くし、それに沿って発注するよう努めるとしています。あわせて、相手が長期的な見通しのもとで経営方針を立てられるよう、何を発注するのかをできる限り具体的に示すことも挙げています。*1
SESでは、技術者を送り出す会社の側も、その人の次の仕事をいつから探すかを契約期間を見ながら決めています。数か月先までの見通ししか示されないと、技術者本人も先の予定を立てにくくなります。作業が年単位で続くと見込めるなら、更新の単位を3か月から6か月や1年に延ばすことを検討してよいでしょう。
一方で、更新の単位を延ばすと、途中で作業が減っても次の区切りまで条件を変えにくくなります。どちらに寄せるかは、この先の作業の量をどれだけ見通せるかで決めます。たとえば、保守するシステムが決まっていて作業の中身が大きく変わらないなら長めに、新しい機能の開発で数か月後の作業量が読めないなら短めに区切る、といった分け方ができます。
単位を短くしたまま続けるなら、年間の見通しだけでも伝えておくと、相手は次の準備を進めやすくなります。「来年の3月までは今の作業が続く見込み」と添えるだけでも、契約期間の短さから生まれる不安はかなり減ります。見通しが外れたときは、分かった時点で早めに知らせます。
年に1回は条件を話し合う
振興基準は、毎年9月と3月の「価格交渉促進月間」の機会をとらえるなどして、少なくとも年に1回以上の協議を行うとしています。*1 継続的な発注について相手から申し出があれば定期的な協議に応じること、費用が上がったり発注の内容を変えたりして申し出があったときは、定期的な協議の時期でなくても遅滞なく応じることも定めています。*1
これは取引の対価をめぐる協議の定めですが、長期参画では、対価のほかにも、任せる作業の範囲や人数、出社と在宅の割合などが、最初に決めたときから少しずつずれていきます。年に1回の協議でこれらもまとめて見直すと決めておけば、「気づいたら最初の契約のときと仕事の中身が違っていた」という状態を避けやすくなります。
見直しの時期は、自社の予算を決める時期と合わせておくと進めやすくなります。翌年度の予算を固める前に話し合っておけば、合意した条件をそのまま予算に反映できます。協議で決めたことは、次の期間ごとの契約に書き込んで残します。
長期化で起きることと備え
長期参画で起きやすいことは3つあります。1つ目は、仕組みの知識が特定の技術者に集まることです。長く担当している人ほど、文書にしていない経緯や判断の理由を頭の中に持っています。更新のたびに、手順書や設計の判断の記録が今の状態に合っているかを確かめておきます。進め方は「SESの外注依存を見直し、ベンダーロックインを防ぐ4つの手順」にまとめています。
2つ目は、アカウントの権限が増えたまま残ることです。担当の範囲が広がるたびに権限を付け加えていくと、今の作業には要らない権限まで持ち続けることになります。更新の時期に契約の一覧と権限の一覧を見比べる方法は「業務委託エンジニアの受け入れ時の権限管理、付与から削除までの手順」で扱っています。
3つ目は、取引への依存が双方に生まれることです。振興基準は、長期にわたり特定の委託事業者に依存して行われ、おおむね総売上高の20%以上を占める受託取引を「特定受託取引」と呼び、その依存の度合いを下げる取り組みについて定めています。*1 発注する側から見ても、1社・1人に頼り切っていると、その人が抜けたときに作業が止まります。後任への渡し方は「SES契約終了の後任への引き継ぎ、要員交代と会社交代の違い」、途中で離れることへの備えは「外部人材活用のトラブル、早期離任に備えて契約で決めておくこと」で整理しています。
終えるときは早めに予告する
振興基準は、継続的な取引関係にある相手との取引を停止したり、取引の量を大幅に減らしたりする場合は、相手の経営に著しい影響を与えないよう配慮する観点から、相当の猶予期間をもって予告するとしています。発注の量の大幅な変動をできる限り避けることも求めています。*1
長期参画の技術者に抜けてもらうときや、人数を減らすときは、SES会社の側にその技術者の次の参画先を探す期間が要ります。「相当の猶予期間」が何日かは基準に書かれていないので、何日前までに伝えるかを契約で決めておきます。基本契約に、更新しない場合はどちらからでも期間の満了の一定日数前までに申し出る、と書いておくのが一つの形です。
予告の日数を決めるときは、自社の側の準備も見込みます。後任を探す、作業を社内の人に移す、文書を整える、といった準備は満了の直前では間に合いません。終了の予告の日を引き継ぎを始める日として扱えば、段取りを組みやすくなります。人数を減らすときも同じで、一度に減らさず、期間を分けて段階的に減らせないかを先に相手と話し合います。
外部に委託するときに確認しておきたい点
SES会社に長期参画を相談する前に、3つを書き出しておくと話が進みやすくなります。作業がどのくらいの期間続く見込みか、更新の単位と年に1回の見直しの時期、そして続けないと決めたときに何日前までに伝えるかです。ここまで決まっていれば、SES会社も、その期間を通して担当できる技術者を探しやすくなります。
あわせて、更新を重ねても変えない事項と、期間ごとに決める事項を分けておきます。前者を基本契約に、後者を期間ごとの契約に書くと、更新のたびに確かめる範囲がはっきりします。条項の書き方や、法律が当てはまるかどうかに迷う点は、契約に詳しい専門家に確かめてから決めてください。
更新の前に委託先の体制を確かめる点は「SESの契約更新前に確かめる、委託先のセキュリティ3項目」にまとめています。
まとめ:長期参画で確かめておきたい3つの点
SESの長期参画で契約期間を決めるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、更新しても変えない事項を基本契約に、期間・作業の範囲・人数を期間ごとの契約に書き分けること。第二に、作業が年単位で続くと見込めるなら更新の単位を延ばし、少なくとも年に1回は作業の範囲や人数を含めて条件を見直すこと。第三に、続けないと決めたときに何日前までに伝えるかを契約で決め、予告の日を引き継ぎの始まりとして扱うことです。この3点を踏まえておけば、「何年も同じ条件で更新を続けたあげく、終える話を満了の直前に切り出すことになった」という事態を避けやすくなります。長く担ってもらう人の探し方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
長期参画の技術者は、決まった年数で入れ替えなければいけませんか
振興基準には、取引を続けてよい年数の上限は書かれていません。年数の制限としてよく挙がる3年は、労働者派遣で受け入れる場合の期間の制限で語られる数字です。自社の受け入れ方がどの契約の形に当たるかに迷うときは、専門家に確かめてください。
年に1回の協議は、9月か3月に行わなければいけませんか
振興基準は、価格交渉促進月間の「機会を捉える等により」少なくとも年に1回以上の協議を行う、としています。*1 時期をその月に限ってはいないので、自社の予算を決める時期に合わせる方法もあります。
終了の予告は、何日前にすればよいですか
振興基準は「相当の猶予期間」とするだけで、日数は示していません。*1 SES会社が技術者の次の参画先を探す期間と、自社の引き継ぎの準備にかかる期間を合わせて考え、基本契約で日数を決めておきます。
更新の単位は、途中で変えてもよいですか
期間ごとの契約を結び直すときに、相手と話し合って変えられます。作業の見通しが立ってきたら単位を延ばし、作業が読めなくなったら短くする、といった変え方ができます。変えたときは、次の期間の契約に書いて残します。
長く続く作業の見通しが立ったら相談
更新の単位や見直しの時期をまだ決めきれていない段階でも、ご相談いただけます。
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出典
- *1 参考:経済産業省「振興基準」(受託中小企業振興法第3条第1項の規定に基づく告示、令和8年6月24日)(PDF)(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/shinkoukijyun/zenbun.pdf)。出典:前文、第2の1(基本契約の締結)・2(契約条件の明確化及び書面等の交付)・4(発注分野の明確化)・5(長期発注計画の提示及び発注契約の長期化)・6(1)(発注の安定化)・9(取引停止の予告)、第4の2(2)(少なくとも年に1回以上の協議)、第5の2(1)(特定受託取引)を参照。2026年10月2日確認(2026年10月確認)
- *2 参考:e-Gov法令検索「受託中小企業振興法」(昭和四十五年法律第百四十五号)(https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000145)。出典:第2条(定義)、第3条(振興基準)、第4条(指導等)を参照。2026年10月2日確認(2026年10月確認)
- *3 参考:経済産業省 中小企業庁「受託中小企業振興法の概要」(PDF)(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/kaiseihou_setsumeikai/gaiyo.pdf)。出典:令和8年1月1日施行と、「下請中小企業振興法」から「受託中小企業振興法」への名称変更の記載を参照。2026年10月2日確認(2026年10月確認)
- *4 参考:経済産業省 中小企業庁「振興基準」(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/shinkoukijyun.html)。振興基準の全文・改正の概要・新旧対照表の掲載ページとして(2026年10月確認)