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初任給の公的な数字は2つある、定義の違い
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 全国の数字は6月分の所定内給与:令和7年の大学は262.3千円で、前年比5.6%増です*1。
- 東京の数字は採用時の賃金:令和8年3月採用の大学卒は267千円、対象は70,464人です*2。
- 東京の数字は前年と比べられない:集計方法が中位数から算術平均値へ変更されています*2。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
初任給を決めるとき、公的な数字を探すと2つ出てきます。どちらも正しいのですが、測っているものが違います。
ひとつは賃金構造基本統計調査です。令和7年調査では新規学卒者の賃金が男女計で高校207.3千円、専門学校230.7千円、高専・短大235.5千円、大学262.3千円、大学院299.0千円となっています*1。
もうひとつは労働局が出す初任給情報です。東京労働局の令和8年3月分では、平均値が中学232千円、高校228千円、短大241千円、大学267千円です*2。大学卒で5千円ほど差がありますが、これは景気の差ではありません。
本記事では2つの数字の定義、学歴別と男女別の実測、東京の数字を前年と比べられない理由、産業や規模での開き、そして求人票に書くときの明示ルールを整理します。個別の賃金設計は自社の判断ですが、どの数字を根拠にしたかは説明できる状態にしておく必要があります。
目次
2つの数字は測っているものが違う
まず定義から確認します。
賃金構造基本統計調査の「賃金」には明確な定義があります。本概況に用いている「賃金」は、調査実施年6月分の所定内給与額の平均をいう*1。
所定内給与額の中身も定められています。労働契約等であらかじめ定められている支給条件、算定方法により6月分として支給された現金給与額(きまって支給する現金給与額)のうち、超過労働給与額(①時間外勤務手当、②深夜勤務手当、③休日出勤手当、④宿日直手当、⑤交替手当として支給される給与をいう。)を差し引いた額で、所得税等を控除する前の額をいう*1。
4月ではなく6月分の給与です。入社直後の月ではなく、研修期間が終わっているかもしれない月の数字だという点は押さえておく必要があります。
一方の東京労働局の初任給情報は出所が違います。都内ハローワークに届出のあった新規学卒者の「雇用保険被保険者資格取得届」を基に、被保険者となった年月日が令和8年3月1日から4月30日までの間の者のうち、新規学卒者であって雇用形態が常用の者を対象とし、採用時賃金を集計したものです*2。
含める手当の範囲も別に書かれています。賃金には、毎月決まって支払われる各種の手当及び現物支給は含まれるが、超過勤務手当、賞与及びその他の臨時の給与は含まない。また、税込みの金額である*2。
片方は6月分の所定内給与、もう片方は採用時の賃金です。同じ「大学卒の初任給」という言い方でも、参照している月が違います。
全国の数字は学歴で40千円台の差がある
令和7年調査の新規学卒者の賃金を見ます*1。
| 性 | 高校 | 専門学校 | 高専・短大 | 大学 | 大学院 |
|---|---|---|---|---|---|
| 男女計 | 207.3(+5.0) | 230.7(+3.5) | 235.5(+5.2) | 262.3(+5.6) | 299.0(+4.0) |
| 男 | 210.1(+4.8) | 227.8(+3.9) | 241.4(+4.5) | 264.9(+5.4) | 301.2(+3.8) |
| 女 | 202.9(+5.8) | 232.4(+3.4) | 230.0(+4.0) | 259.7(+6.0) | 292.9(+5.3) |
高校と大学の差は男女計で55.0千円です*1。大学と大学院の差は36.7千円で、学歴の段が上がるほど差が縮まる並びになっています。
専門学校だけ男女が逆転しています。男227.8千円に対して女232.4千円で、女性のほうが4.6千円高くなっています*1。他の4区分はいずれも男性のほうが高い並びです。
伸び率も学歴で違います。大学は男女計で5.6%増、高専・短大は5.2%増、高校は5.0%増である一方、専門学校は3.5%増、大学院は4.0%増です*1。
伸びが大きいのは大学と高校で、専門学校と大学院は相対的に小さい年でした。横並びで一律に引き上げると、この差から外れることになります。
集計の範囲も確認しておきます。この概況は有効回答を得た59,836事業所のうち、10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所(52,242事業所)について集計したもので、調査対象数は79,321事業所、有効回答率は75.4%です*1。
規模の区分にも定義があります。この概況では常用労働者1,000人以上を「大企業」、100〜999人を「中企業」、10〜99人を「小企業」に区分しているとされています*1。一般に使われる中小企業の定義とは切り方が違うため、他の資料と並べるときは注意が必要です。
職種ごとの賃金レンジの読み方はエンジニアの年収レンジと公的統計の使い方で扱いました。
東京の数字は学歴を年齢で判定している
労働局の初任給情報には、独特の割り切りがあります。
学歴の判定方法がそのひとつです。学歴による分類は、15歳を中学、18歳を高校、20歳を短大、22歳を大学卒業とする*2。
実際の最終学歴ではなく、年齢で振り分けています。したがって留年や既卒での入社、大学院修了者はこの区分から外れることになります。
対象者数も公表されています。中学10人、高校8,189人、短大11,677人、大学70,464人です*2。中学卒は10人なので、金額を相場として読む対象ではありません。
中学卒についてはさらに注記があります。中学卒の初任給情報は、最低賃金法第7条の3に該当する企業内訓練校の者を含むため、初任給が著しく低くなる場合があります*2。
表の記号にも意味があります。賃金欄の「※」は対象者が10人未満、「-」は対象者がいないことを表す*2。産業別や職業別の細かいマスを読むときは、この記号を先に見る必要があります。
平均の取り方も違います。この資料は算術平均値 小数点第2位で四捨五入で算出されており*2、賃金構造基本統計調査のように都道府県、産業、事業所規模ごとに復元倍率を算出し、復元倍率を用いて集計した労働者数の加重平均で出したものではありません*1。
東京の数字は前年と比べられない
時系列で並べたくなりますが、ここに落とし穴があります。
東京労働局は注記を付けています。令和6年度までは、学卒求人票を基に四分位数を用い、中位数(中央値)にて算出しておりましたが、昨年度より対象および集計方法を変更しております*2。
変わったのは3点です。データの出所が学卒求人票から雇用保険被保険者資格取得届へ、代表値が中位数から算術平均値へ、そして対象者の定義が変更されています*2。
求人票ベースから採用実績ベースに変わったという点が最も大きいでしょう。求人票に書いた金額と、実際に採用した人の賃金は同じとは限りません。
代表値の変更も方向が読めません。中位数と算術平均値は、分布が偏っていれば一致しません。前年からの増減として説明すると、制度変更の影響と実勢の変化が混ざります。
一方で賃金構造基本統計調査は対前年増減率を公表しており*1、こちらは同じ定義での比較として使えます。時系列で語るならAの数字、直近の採用実績を見るならBの数字という使い分けになります。
調査の時点も揃っていません。賃金構造基本統計調査は令和7年6月分の賃金等について、令和7年7月に調査を行ったものです*1。対して東京の資料は令和8年3月1日から4月30日までの間に被保険者となった者を対象としています*2。約9か月の時差があるため、東京の数字のほうが新しい採用の水準を映しています。
数字を根拠として社内で示す場合は、出所と定義を並記しておくと後の説明が楽になります。求人情報の表示ルール全般は求人情報の的確な表示、企業に課される義務で扱いました。
規模による開きは10千円にとどまる
東京の資料は産業別・職業別・規模別の内訳も載せています*2。
| 区分 | 高いほう | 低いほう |
|---|---|---|
| 産業別 | 金融業・保険業 280/電気・ガス・熱供業・水道業 280/建設業 279 | 複合サービス業 240/運輸業・郵便業 254/サービス業(他に分類されないもの)257 |
| 職業別 | 事務的職業 272/管理的職業 268/サービスの職業 266 | 保安の職業 255/運輸・通信の職業 260/専門的・技術的職業 263 |
| 規模別 | 300人以上 268/100〜299人 266 | 29人以下 258/30〜99人 265 |
規模別の開きは10千円です*2。29人以下が258千円、300人以上が268千円で、率にすると4%弱です。初任給の額だけで規模の不利が決まる構図にはなっていません。
情報通信業は270千円で、全産業の平均値267千円を3千円上回る位置です*2。産業別で見ると上位ではありません。金融業・保険業や建設業のほうが高い並びになっています。
職業別では意外な並びが出ています。事務的職業が272千円で最も高く、専門的・技術的職業は263千円です*2。職種の専門性がそのまま入口の賃金に反映されているわけではありません。
ただしこれらは東京の届出分の算術平均値であり、産業や職業の内訳ごとに対象者数が大きく異なります*2。数字を並べる前に、その区分の対象者数と記号を確認してください。
職種ごとに要件と処遇を接続する考え方はマネジメントに進まないエンジニアの処遇設計で扱いました。
求人票に書くときの明示ルール
金額が決まったら、次は書き方の規律です。
募集・求人業務取扱要領は明示すべき項目を列挙しています。賃金に関しては、賃金形態(月給、日給、時給等の区分)、基本給、定額的に支払われる手当、通勤手当、昇給に関する事項等について明示すること*3。
「初任給○○円」だけでは足りません。月給か時給かの区分、基本給、定額的に支払われる手当、通勤手当、昇給がそれぞれ必要になります*3。
固定残業代がある場合は追加の明示が求められます。固定残業代に係る計算方法(固定残業代の算定の基礎として設定する労働時間数及び金額を明らかにするものに限る。)、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業時間を超える時間外労働、休日労働及び深夜労働分についての割増賃金を追加で支払うこと等を明示すること*3。
固定残業代を含んだ総額だけを初任給として出すことはできません。時間数と金額、そして除外後の基本給を分けて示す必要があります*3。
表示の禁止事項も明記されています。明示する従事すべき業務の内容等は、虚偽又は誇大な内容としないこと、そして賃金等について、実際の賃金等よりも高額であるかのように表示してはならないとされています*3。
明示すべき項目の全体像はエンジニア求人票の書き方と必須14項目にまとめています。記載と実際が食い違ったときに何が起きるかは求人票と実際の相違、年3297件の内訳で扱いました。
入口の賃金を動かせないときのご相談
初任給の水準はすぐには変えられません。任せたい職責と必要な稼働の形から、担当が一緒に整理できます。
最後に賃金水準の見直しが募集に間に合わないと判断したときの分岐を1つだけ挙げておきます。賃金表の改定は既存社員との関係も含めた調整が必要で、募集の時期には間に合わないことがあります。その間の実務を業務委託で回し、水準を整えてから正社員の募集を強めるという順番も現実的な選択肢です。相場より低い金額のまま募集を続ける前の検討として有効でしょう。
まとめ:初任給の数字で押さえる3点
第一に、2つの公的な数字は測っているものが違います。賃金構造基本統計調査の「賃金」は調査実施年6月分の所定内給与額の平均で、きまって支給する現金給与額から時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日出勤手当、宿日直手当、交替手当を差し引いた額です。令和7年調査の新規学卒者は男女計で高校207.3千円、専門学校230.7千円、高専・短大235.5千円、大学262.3千円、大学院299.0千円でした。一方、東京労働局の初任給情報は雇用保険被保険者資格取得届を基にした採用時賃金で、毎月決まって支払われる各種の手当と現物支給を含み、超過勤務手当、賞与、その他の臨時の給与は含みません。令和8年3月分は中学232千円、高校228千円、短大241千円、大学267千円です。第二に、比較の可否です。東京の資料は令和6年度までは学卒求人票を基に四分位数を用い中位数で算出していたものが、対象および集計方法を変更しているため、前年との単純比較ができません。学歴の判定も15歳を中学、18歳を高校、20歳を短大、22歳を大学卒業とする年齢による代理であり、中学卒は対象者10人で企業内訓練校の者を含みます。時系列で語るなら対前年増減率が公表されている賃金構造基本統計調査を使うことになります。第三に、求人票の書き方です。賃金形態、基本給、定額的に支払われる手当、通勤手当、昇給に関する事項を明示し、固定残業代があるなら計算方法、固定残業代を除外した基本給の額、超過分を追加で支払うことを明示します。実際の賃金等よりも高額であるかのように表示することは認められていません。まずは自社が根拠にしている数字が、どちらの定義のものかを確認してください。
よくある質問
初任給の公的な数字はどこを見ればよいのですか。
用途で分かれます。全国の水準と前年からの変化を見るなら賃金構造基本統計調査です。令和7年調査の新規学卒者は男女計で高校207.3千円、専門学校230.7千円、高専・短大235.5千円、大学262.3千円、大学院299.0千円で、対前年増減率も公表されています。直近の採用実績に近い数字を見るなら労働局の初任給情報です。東京労働局の令和8年3月分は中学232千円、高校228千円、短大241千円、大学267千円です。
同じ大学卒なのに金額が違うのはなぜですか。
測っている対象が違います。賃金構造基本統計調査の賃金は調査実施年6月分の所定内給与額の平均で、10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所を全国で集計したものです。東京労働局の初任給情報は都内ハローワークに届出のあった雇用保険被保険者資格取得届を基にした採用時賃金で、雇用形態が常用の新規学卒者を算術平均したものです。地域、時点、学歴の判定方法、平均の取り方がそれぞれ異なります。
東京労働局の初任給情報は前年と比較できますか。
できません。資料に、令和6年度までは学卒求人票を基に四分位数を用い中位数(中央値)にて算出していたが、昨年度より対象および集計方法を変更していると注記されています。データの出所が求人票から雇用保険被保険者資格取得届へ、代表値が中位数から算術平均値へ変わっているため、前年からの増減として説明すると制度変更の影響と実勢の変化が混ざります。時系列の比較には対前年増減率が公表されている賃金構造基本統計調査を使ってください。
企業規模が小さいと初任給で不利になりますか。
東京労働局の令和8年3月分では、大学卒の平均値が29人以下258千円、30〜99人265千円、100〜299人266千円、300人以上268千円です。規模が最も小さい層と最も大きい層の差は10千円で、率にすると4%弱にとどまります。ただしこれは東京の届出分の算術平均値であり、区分ごとに対象者数が異なるため、細かいマスを読むときは対象者数と記号を確認する必要があります。
求人票に初任給を書くとき、金額だけ書けばよいのですか。
足りません。募集・求人業務取扱要領は、賃金形態(月給、日給、時給等の区分)、基本給、定額的に支払われる手当、通勤手当、昇給に関する事項等について明示することとしています。固定残業代を支払う場合は、計算方法(固定残業時間と金額を明らかにするもの)、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業時間を超える時間外労働・休日労働・深夜労働分の割増賃金を追加で支払うことも明示します。実際の賃金等よりも高額であるかのように表示することは認められていません。
出典
- *1 参考:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2025/index.html)。「賃金」が調査実施年6月分の所定内給与額の平均である旨と所定内給与額の定義(きまって支給する現金給与額から時間外勤務手当・深夜勤務手当・休日出勤手当・宿日直手当・交替手当を差し引いた額で所得税等を控除する前の額)、新規学卒者の性・学歴別賃金および対前年増減率(男女計で高校207.3千円+5.0%、専門学校230.7千円+3.5%、高専・短大235.5千円+5.2%、大学262.3千円+5.6%、大学院299.0千円+4.0%と男女別の各値)、調査の範囲(16大産業、5人以上の常用労働者を雇用する民営事業所等から無作為抽出した79,321事業所)、有効回答59,836事業所・有効回答率75.4%と概況が10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所52,242事業所について集計されている旨、復元倍率による加重平均という集計・推計方法、企業規模区分の定義の一次情報として(2026年8月確認)
- *2 参考:東京労働局「令和8年3月 新規学校卒業者の初任給情報」(https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/jirei_toukei/_121239/_080623_000013.html)。都内ハローワークに届出のあった新規学卒者の雇用保険被保険者資格取得届を基に、被保険者となった年月日が令和8年3月1日から4月30日までの間の新規学卒者で雇用形態が常用の者の採用時賃金を算術平均値で集計している旨、学歴による分類が15歳を中学・18歳を高校・20歳を短大・22歳を大学卒業とする年齢による区分である旨、対象者数(中学10人・高校8,189人・短大11,677人・大学70,464人)と平均値(中学232千円・高校228千円・短大241千円・大学267千円)、賃金に毎月決まって支払われる各種の手当及び現物支給を含み超過勤務手当・賞与・その他の臨時の給与を含まない旨と税込みである旨、「※」が対象者10人未満・「-」が対象者なしを表す旨、中学卒の集計に最低賃金法第7条の3に該当する企業内訓練校の者を含む旨、令和6年度までは学卒求人票を基に四分位数を用い中位数(中央値)にて算出していたが対象および集計方法を変更した旨、大学卒の産業別・職業別・規模別の平均値の一次情報として(2026年8月確認)
- *3 参考:厚生労働省「募集・求人業務取扱要領」(https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001003066.pdf)。賃金に関して賃金形態(月給、日給、時給等の区分)、基本給、定額的に支払われる手当、通勤手当、昇給に関する事項等を明示すること、固定残業代に係る計算方法(固定残業時間および金額を明らかにするものに限る)・固定残業代を除外した基本給の額・固定残業時間を超える時間外労働、休日労働及び深夜労働分についての割増賃金を追加で支払うこと等を明示すること、明示する従事すべき業務の内容等は虚偽又は誇大な内容としないこと、賃金等について実際の賃金等よりも高額であるかのように表示を行わないことの一次情報として(2026年8月確認)