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副業エンジニアと契約する前に本人と確かめる5つのこと
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 業務委託の副業に届け出や許可が要るかは本業の会社のルールで決まるので、本人に確かめてもらいます。
- 本業の会社に対する秘密保持と競業避止(競合する仕事をしない約束)を聞き取り、本業の情報を持ち込まないことを契約に書きます。
- 作業に使う端末と作業の時間帯を決め、ソースコードの変更履歴や打ち合わせの記録を自社の側に残します。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
「本業の会社に、副業の届け出は済ませているのだろうか」「本業と同じ業界の開発を頼んで、あとで問題にならないか」——。副業のエンジニアに開発を頼もうとすると、発注する側にはこうした迷いが出てきます。本業を持つ人と業務委託で契約する場面では、本人と本業の会社との約束が、発注する側からは見えにくくなりがちです。副業エンジニアとは、会社に勤めながら、勤務時間外に別の会社の開発などを引き受けるエンジニアを指します。
社内にない技術を持つ人に、週に数日だけ開発に加わってもらえるのが、副業エンジニアに頼む利点です。ただし万能ではなく、本人は本業の会社との間でも就業規則や秘密保持の約束を抱えていて、頼める作業や時間帯がそれに左右されます。本記事では、副業エンジニアに開発を頼む開発マネージャーに向けて、本業の会社の副業ルール、秘密保持と競業避止、契約の前に確かめることと契約に入れる約束、そして作業中に残す記録を整理します。
目次
副業エンジニアとの契約とは
厚生労働省の「副業・兼業の事例集」は、副業・兼業を2つに分けています。受け入れる会社に雇われて働く「雇用型」と、業務委託などの契約で行うものや自ら起業して行うものを指す「非雇用型」です。*3 本記事で扱うのは後者のうち、発注する会社が本人と業務委託契約を結んで開発を頼む形です。事例集に載っている受け入れ企業の事例にも、副業・兼業の人材と業務委託契約を結ぶ会社があります。
雇用型で迎える場合は、本業と副業の労働時間を合わせて数えることが中心の論点になります。この点は「副業人材の受け入れ、後から契約する側の違い」で扱いました。業務委託の副業では、発注する会社は本人を雇いません。それでも本人は、本業の会社と結んだ労働契約をそのまま続けています。本業の会社に対する秘密保持や競業避止の約束も、副業を始めたからといってなくなるわけではありません。
発注する会社と本人が交わす契約書には、本業の会社との約束は書かれていません。本人が本業の会社の情報を使って作業をしてしまうと、発注する会社も他社の秘密情報をめぐる紛争に巻き込まれるおそれがあります。だからこそ、契約の前に本人と確かめたことを、契約書にも約束として書いておきます。
本業の会社の副業ルール
本業の会社が副業を認めているか、どんな手続きが要るかは、会社ごとに違います。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、副業を希望する労働者に、まず「自身が勤めている企業の副業・兼業に関するルール(労働契約、就業規則等)を確認し」、そのルールに照らして副業を選ぶよう求めています。*1 確かめるのは本人です。発注する会社が本業の会社の就業規則を読んで、副業ができるかどうかを決めるわけではありません。
業務委託の副業も、本業の会社のルールの対象になり得ます。ガイドラインのパンフレットは、モデル就業規則の副業・兼業の規定について、「他の会社等に雇用される形での副業・兼業のほか、事業主となって行うものや、請負・委託・準委任契約により行うものも含む」と解説しています。*2 モデル就業規則は厚生労働省が示す規定の例なので、各社がこのとおりの規定を置いているわけではありません。雇われて働く副業だけが届け出の対象になるとは考えずに、本人に確かめてもらいます。
副業を認めている会社の割合は、調査によって幅があります。事例集が紹介する産業雇用安定センターの調査(賛助会員企業等が対象)では、「雇用による副業・兼業」を認めている割合は25.7%、「個人事業主等としての副業・兼業」を認めている割合は13.4%でした。*3 相手が副業を認める会社に勤めているとは、声をかける段階では分かりません。
手続きの例もパンフレットに載っています。ある製造業の会社の申請書には、契約形態を雇用か非雇用(受託業務(フリーランス)等)から選ぶ欄と、会社名(受託先)、業務内容、期間を書く欄があります。*2 本人が本業の会社に届け出るときには、発注する会社の名前と頼む作業、契約の期間が要るということです。頼む作業と期間を書面にまとめて先に渡しておくと、本人は届け出を進めやすくなります。
秘密保持と競業避止
本業の会社との約束のうち、発注する側に関係が深いのが秘密保持と競業避止です。ガイドラインは、労働者は使用者の業務上の秘密を守る義務を負っているとしたうえで、副業で問題になり得る場合として、他社の労働者が、その他社の業務上の秘密を自社のもとで漏らす場合を挙げています。*1 発注する会社から見れば、本人が本業の会社の秘密を自社の仕事に使ってしまう場面です。
競業避止は、在職中に会社と競合する業務をしない義務を指します。ガイドラインは、他社の労働者を自社でも使う場合に「当該労働者が当該他社に対して負う競業避止義務に違反しないよう確認や注意喚起を行うこと」を挙げています。*1 ガイドラインのこの部分は、雇って働いてもらう場合について書かれたものです。業務委託で頼む場合も、本人が本業の会社に負う義務は同じように残るので、発注する側も確認と注意喚起をしておきます。
ただし、本業と同じ業界の仕事だから一律に断る、という話でもありません。ガイドラインは、会社の正当な利益が侵害されない場合には「同一の業種・職種であっても、副業・兼業を認めるべき場合も考えられる」としています。*1 競合に当たるかどうかは、本人の職種や地位なども踏まえて、本人と本業の会社が判断するものです。発注する側にできるのは、頼む作業の中身を具体的に伝え、本人が本業の会社に相談できるようにしておくことです。
契約の前に本人と確かめること
確かめ方の参考になるのが、経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」です。第5章は、他社の秘密情報を意図せず侵害しないための対策を、起こりやすい場面ごとに紹介しています。転職者を受け入れる場面では、転職者が転職元との関係で負っている「特定の情報を外部に持ち出してはいけない」(秘密保持義務)、「競合他社に転職してはならない」(競業避止義務)といった義務の有無と内容を、まず確認するとしています。*4
ハンドブックが書いているのは転職者の場面です。副業エンジニアは本業の会社に今も勤めているので、同じ確認が欠かせません。契約の前に本人と確かめておきたいのは、次の表の5つです。
| 確かめること | 本人に聞く中身 |
|---|---|
| 本業の会社への届け出 | 本業の会社のルールで、業務委託の副業に届け出や許可が要るか。要るなら手続きが済んでいるか |
| 秘密保持の約束 | 本業の会社の就業規則や誓約書で、持ち出してはいけない情報が決まっているか |
| 競業避止の約束 | 今回頼む作業が本業の会社の事業と競合しないか。本業の会社に相談したか |
| 本業で担当している仕事 | 本業で担当しているシステムや顧客と、今回頼む作業が重ならないか |
| 作業に使う機器と時間 | 本業の会社の端末やアカウントを使わずに作業できるか。本業の勤務時間外に作業できるか |
本人が誓約書の写しを持っていないことや、約束の中身があいまいなこともあります。ハンドブックは、面接で本人に思い出してもらいながら事実を確かめ、義務の中身をできるだけ特定するよう勧めています。確かめた結果は、打ち合わせの記録として書面に残しておきます。
業務委託契約に入れておく約束
確かめた内容は、業務委託契約の条項か、契約とあわせて受け取る誓約書に書いておきます。ハンドブックは、転職者に転職元の秘密情報を持ち込ませないよう注意を促すとともに、不正競争防止法で問われる「重大な過失」(取引上の注意を著しく怠ったこと)が無かったと主張する根拠の一つにするため、書面で確約を取っておくことが有効だとしています。*4 誓約書の例として挙げられているのは、次のような文言です(A社は転職者を受け入れる会社)。
- 「第三者の秘密情報を含んだ媒体(データ、資料)を一切持ち出していない」
- 「第三者が保有するあらゆる秘密情報を持ち込まない」
- 「第三者の完成させた職務発明等をA社名義で出願しない」
副業エンジニアに当てはめると、第三者にはまず本業の会社が入ります。本業の会社のソースコードや設計書、顧客の情報を持ち込まないこと、自社の仕事に本業の会社の情報を使わないことを、条項として書いておきます。本業の仕事で生まれた発明を、自社の名義で特許として出願しないことも、開発を頼む契約では入れておきたい約束です。
作業に使う機器と時間も決めておきます。パンフレットが紹介する会社の例には、副業の申請書で「自社の資産(会社備品、技術、ノウハウ、情報、従業員であることの身分等)を流用しないこと」を確認・誓約させる会社や、勤務中やオフィス内での副業を認めていない会社があります。*2 本業の会社のパソコンやアカウントで副業の作業をすれば、本業の会社のルールに触れるおそれがあります。発注する会社が作業用の端末とアカウントを用意し、作業する時間帯を本業の勤務時間外にすると契約で決めておけば、本人も本業の会社に説明しやすくなります。
作業中に残しておく記録
契約を結んだ後も、確認は続きます。ハンドブックは、転職者を受け入れた後も、従事する業務の内容を定期的に確認し、私物のUSBメモリなどの記録媒体を業務に使ったり持ち込んだりすることを禁止する取り組みも有効だとしています。副業エンジニアの場合は、頼んでいる作業が本業の担当と重なっていないかを、作業の区切りごとに本人と確かめます。
記録も残しておきます。ハンドブックは、情報の作成・取得の過程や更新の履歴について、電子メール、検討文書、メモ、議事録などの資料を保管しておくよう勧めています。*4 開発の仕事なら、発注する会社が管理する保管場所でソースコードの変更の履歴を残し、設計の検討メモや打ち合わせの記録も同じ場所に置きます。成果物が本業の会社の情報と似ていると言われたときに、自社の仕事として作った経緯を示すための記録です。
一方で、本人が身につけた技術まで使わせないという意味ではありません。ハンドブックは、業界で広く知られている情報や、転職者が転職元企業で身につけた技能やノウハウなどについては、基本的に利用は制約されないとしています。*4 副業エンジニアに頼む価値は、こうした技能にあります。契約で禁じるのは、本業の会社の秘密情報を持ち込むことです。
つまずきやすい点
一つ目は、本業の会社のルールを発注する側が判断してしまうことです。「副業を認めている会社だから問題ない」と考えても、業務委託の副業まで認めているか、届け出が要るかは会社によって違います。発注する側は、本人が確かめた結果を聞いて記録に残します。
二つ目は、本業の担当に近い作業を頼んでしまうことです。本人が本業で何を担当しているかを聞かずに進めると、同じ業界の同じ種類のシステムの開発を頼むことになりかねません。契約の前に、本業で担当しているシステムの種類や業界を、本人が話せる程度に聞いておきます。
三つ目は、確認を口頭だけで済ませることです。話を聞いただけで記録が無ければ、後で本業の会社から問い合わせを受けたときに、何を確かめたかを示せません。確かめた内容は打ち合わせの記録に、約束は契約書か誓約書に残します。作業の日数や連絡の取り方の決め方は「業務委託エンジニアの稼働日数、作業量と連絡の頻度から決める」で扱っています。
まとめ:副業エンジニアの契約で確かめたい3つの点
副業エンジニアとの契約を進めるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、本業の会社のルールで業務委託の副業に届け出や許可が要るかを、本人に確かめてもらうこと。第二に、本業の会社に対する秘密保持と競業避止の約束を聞き取り、本業の会社の情報を持ち込まないことを契約書か誓約書に書くこと。第三に、作業に使う端末と作業の時間帯を決め、作業の経緯を自社の側の記録に残すことです。この3点を踏まえておけば、「本業の会社から問い合わせが来て、契約を途中で打ち切ることになった」という事態を避けやすくなります。副業エンジニアとの契約の進め方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
本業の会社に知られたくないと言われたら、どうすればよいですか
パンフレットは労働者に向けて、副業先が決まったら就業規則などに定められた方法にしたがい、会社に副業の内容を届け出るよう呼びかけています。*2 届け出が要る会社なのに手続きをしないまま始めると、後で契約を続けられなくなるおそれがあります。本人に本業の会社のルールを確かめてもらい、必要な手続きが済んでから契約を結ぶのがおすすめです。
契約期間の途中で、本業の会社から副業を止められることはありますか
あり得ます。モデル就業規則は、労働者からの届け出に基づき、本業の仕事に支障がある場合などには、会社が副業を禁止または制限できるとしています。*2 途中で作業ができなくなったときの引き継ぎの方法と、それまでの成果物の扱いを、契約で決めておくと慌てずに済みます。
副業エンジニアに自社の秘密情報を渡すときは、何に気をつければよいですか
パンフレットは副業をする人の留意点として、今の仕事と副業のそれぞれで知り得た業務上の秘密情報を漏らさないことを挙げています。本業の会社の情報を持ち込まない約束と同じように、自社が渡す情報を本業に持ち出さない約束も契約に入れておきます。渡す情報をどう管理するかは「外部人材活用のセキュリティ対策、契約と記録に残す3つの点」で扱っています。
開発を任せる人を探しているとき
頼みたい作業と期間の整理からご相談いただけます。
Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。
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出典
- *1 参考:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月改定版・PDF)(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf)。出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定、令和4年7月改定)。3(1)イ 秘密保持義務・ウ 競業避止義務、4(1)労働者の対応を参照(2026年9月29日確認)(2026年9月確認)
- *2 参考:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」パンフレット(令和7年3月31日改定版・PDF)(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf)。出典:同パンフレット。モデル就業規則の副業・兼業の規定と解説、労働者向けの説明、企業の副業・兼業制度に関する取組事例(申請書の記載欄・確認事項)を参照(2026年9月29日確認)(2026年9月確認)
- *3 参考:厚生労働省「副業・兼業の事例集~24社から学ぶ~」(2025年3月・PDF)(https://www.mhlw.go.jp/content/001486498.pdf)。出典:同事例集。用語の説明(雇用型・非雇用型)、公益財団法人産業雇用安定センター「従業員の『副業・兼業』に関するアンケート調査」の紹介部分、受入れ企業の事例を参照(2026年9月29日確認)(2026年9月確認)
- *4 参考:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」(令和6年2月最終改訂・PDF)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf)。出典:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」(平成28年2月、最終改訂 令和6年2月)。第5章 5-1 自社情報の独自性の立証、5-2(1)転職者の受入れ(①契約関係の確認、②誓約書の取得等、③採用後の管理)と注52を参照(2026年9月29日確認)(2026年9月確認)
- *5 参考:厚生労働省「副業・兼業」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html)。ガイドライン・パンフレット・事例集が掲載されているページの確認として(2026年9月確認)