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エンジニア中途採用の育成、OJTの指導役と最初の仕事を決める
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 情報通信業の企業の51.5%がOJTで段階的に高度な仕事を割り振っており、全体の28.1%を大きく上回ります。
- 中途採用者の指導役は、技術の相談と社内の進め方の案内で窓口を分け、指導役の担当業務を減らしておきます。
- 情報通信業の40.8%が指導する人材の不足を課題に挙げており、OJTだけに頼らず文書と振り返りの面談で補います。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
経験者を採ったのだから、細かく教えなくても動けるはずだと思って配属した。ところが3か月たっても、社内のやり方になじまないまま、質問できる相手も決まっていない——。エンジニア中途採用の現場では、こうした食い違いが起こりがちです。OJT(仕事を通じた育成)とは、日常の業務のなかで、従業員に仕事を効果的に覚えてもらうための取り組みを指します。*1
中途採用者の育成は、研修を一から受けてもらうより、実務のなかで社内の進め方を覚えてもらう形になりやすいものです。ただし万能ではなく、教える側の時間や、目の前の仕事だけでは身につきにくい知識は別に手当てが要ります。本記事では、開発の現場を預かるマネージャに向けて、企業がOJTでしていること、誰が教えるのか、最初に任せる仕事、OJTだけでは足りない部分、そして外部に頼むときに確認しておきたい点を整理します。
目次
中途採用者のOJTとは
手がかりにするのは、労働政策研究・研修機構(JILPT)が2025年11月にまとめた「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」です。従業員5人以上の企業20,000社に調査票を送り、2024年10月から11月にかけて6,116社(30.6%)から回答を得ています。*1 OJTとして何をしているか、それをどう評価しているかを、業種や規模ごとに集計しています。
回答にはエンジニアの多い情報通信業の企業も含まれます。情報通信業で過去3年間に正社員を採用した89社のうち、中途採用者を採った企業は80社でした。その80社が中途で採った人として挙げたなかには、「特別な技能・技術や専門能力を持った人」が50.0%あります。*2 技術を身につけた人を中途で迎え、そのうえで社内で育てるという流れが、この業種では珍しくないことが分かります。
新卒のOJTは、仕事の基本を一から教えるところから始まります。中途採用者は技術の基本を身につけて入社してくるので、足りないのはたいてい、自社のシステムの知識と、社内の仕事の進め方の2つです。中途採用者のOJTは、この2つを実務のなかで覚えてもらう取り組みだと考えると、誰が教え、何から任せるかを決めやすくなります。
なお、この調査のOJTの設問は、中途採用者に限らず従業員全体について聞いたものです。中途採用者の育成に当てはめるときは、技術の基本をすでに持っている人だという前提で読み替えていきます。
企業がOJTでしていること
全体では、「仕事のやり方を実際に見せている」63.9%と「とにかく実践させ、経験させる」62.2%が6割を超えます。次いで「仕事を行う上での心構えを示している」44.5%、「身につけるべき知識や能力を示している」44.3%です。*1 見せる、やらせるという現場での取り組みが中心になっています。
情報通信業の103社に絞ると、並びが変わります。最も多いのは「仕事のやり方を実際に見せている」55.3%で、「身につけるべき知識や能力を示している」53.4%、「段階的に高度な仕事を割り振っている」と「とにかく実践させ、経験させる」がともに51.5%で続きます。*2 段階的に高度な仕事を割り振る企業は全体では28.1%なので、情報通信業では23.4ポイント多いことになります。
「目指すべき仕事や役割を示している」も、情報通信業では46.6%と全体の34.3%を上回ります。見せて覚えてもらうだけでなく、身につける知識と目指す役割を示したうえで、仕事の難しさを段階的に上げていく形が、情報通信業では多く取られています。情報通信業は回答が103社と少なく、1社の違いで1ポイント前後動くので、差の大きさは割り引いて見ておきます。
誰が教えるのか
指導役の置き方も、調査で分かります。情報通信業で「専任の教育係を付ける」企業は21.4%、「それぞれの従業員に後輩の指導をするよう求めている」企業は35.9%でした。*2 1人の担当者に任せるより、職場の先輩がそれぞれ教える形のほうが多いということです。
教える側を支える取り組みも見ておきます。職場の管理者・監督者を対象にした取り組みを特に行っていない企業は、全体で57.3%です。*1 情報通信業では39.8%にとどまり、「部下の教育に関する項目を管理者・監督者の評価項目とする」企業が31.1%ありました。*2 全体の12.8%と比べると、教えることを評価に入れている企業が多い業種です。
中途採用者の指導役は、1人に決めつけず、教える中身で分けておくと進めやすくなります。技術の相談に乗るのは同じ技術を使うチームの先輩、社内の手続きや承認の流れを案内するのはその業務を長く担当している人、というように窓口を2つに分けるやり方です。どちらが誰なのかは、入社初日に本人へ伝えておきます。
指導役に選んだ人の担当業務は、その分だけ減らしておきます。教える時間を上乗せしたまま自分の開発の締め切りも抱えていると、質問への返事が後回しになりがちです。指導役を務めたことを評価の面談で取り上げると決めておけば、引き受ける側も時間を割きやすくなります。
最初に任せる仕事
情報通信業のOJTで「段階的に高度な仕事を割り振っている」企業が多いことは、中途採用者に最初に任せる仕事の選び方にもつながります。経験者だからといって、いきなり新しい機能の設計を任せるのではなく、社内の進め方を一通り通る小さな仕事から始めてもらう形です。
たとえば、既存システムの小さな改修を1件、設計書の書き方、レビューの受け方、テストと本番環境への反映の手順まで、社内の決まりどおりに通してもらいます。技術としては簡単でも、社内の進め方を一度に確かめられるのが利点です。本人がつまずいた箇所が、そのまま次に教えることになります。
| 順番 | 任せる仕事 | 確かめること |
|---|---|---|
| 1件目 | 既存システムの小さな改修を、設計書からレビュー、テスト、本番反映まで通す | 社内の手順と承認の流れを、聞かずに進められるか |
| 2件目 | 画面1つではなく機能1つを担当し、関係する部署との確認も本人が行う | 影響の範囲を自分で洗い出せるか |
| 3件目 | 他の人の設計書やコードのレビューを行う側に回る | 社内の決まりに沿って指摘できるか |
2件目からは、難しさを1段ずつ上げます。担当する範囲を画面1つから機能1つに広げる、レビューを受ける側から行う側に回ってもらう、といった上げ方です。入社後最初の面談で職務経歴の案件を1件ずつ聞いておけば、どこまで早く上げてよいかの見当も付きます。
OJTだけでは足りない部分
OJTを行っている企業に評価を聞くと、全体では「うまくいっている」6.8%と「ある程度うまくいっている」70.3%で、合わせて8割近くになります。*1 情報通信業では102社のうち71社で69.6%にとどまり、「あまりうまくいっていない」と「うまくいっていない」を合わせると30.4%でした。*2
人材育成の課題を聞いた設問では、情報通信業の40.8%が「指導する人材が不足している」を、同じく40.8%が「人材育成を行う時間がない」を挙げています。*2 OJTは職場の人が仕事の合間に教える形なので、教える人と時間が足りなければ、そのまま手薄になります。
もう一つ、目の前の仕事だけでは覚えにくいものがあります。自社のシステム全体の構成や、なぜ今の設計になったのかという経緯は、小さな改修を担当しているだけでは見えてきません。情報通信業の企業が今後力を入れたいOJTでも、「身につけるべき知識や能力を示している」が45.6%で最も多く、「仕事のやり方を実際に見せている」は21.4%でした。*2
OJTを補う手としては、システムの構成図と設計の経緯を文書にまとめておくことと、月に1回ほど振り返りの面談を置くことが挙げられます。情報通信業では「仕事を振り返る機会を与える」企業が34.0%あり、全体の24.3%より多くなっています。社外の研修は、社内に教えられる人がいない技術の分野に絞って使うと選びやすくなります。
教える側に回る中途採用者
中途採用者は、教わる側にとどまる人ではありません。調査は、一通りの仕事をこなせるようになった従業員にどんな育成をしているかも聞いています。情報通信業では「部下の指導役に据える」が57.3%で最も多く、「困難な仕事や重要な仕事を積極的に与える」が43.7%で続きます。*2
経験のある中途採用者なら、前の職場で経験を積んだ技術の分野では、入社して早いうちから教える側に回ってもらえます。社内の進め方は教わりながら、たとえばテストの自動化やクラウドの設定のような得意な分野では、既存の社員に教える形です。教わるだけの立場が続くより、お互いに教える場面があるほうが、職場で話す相手も増えていきます。
ただし、教える側に回ってもらうのは、最初の改修で社内の進め方を一通り通った後にします。社内の決まりを知らないまま教えると、前の職場のやり方がそのまま広がることがあるためです。何を教えてもらうかは、指導役と相談して技術の分野ごとに決めておきます。
外部に委託するときに確認しておきたい点
指導役を置きたいのに、その人の開発の仕事を減らせない。こうした場合は、指導役が抱えている開発の一部を外部の専門人材に任せ、指導役が教える時間をつくるという方法があります。任せるのは期限と範囲がはっきりした作業にとどめ、自社のシステムの知識と社内の進め方を教える役は社内に残しておきます。
外部の人に中途採用者への技術の指導を頼む場合は、何を教えてもらうかを技術の分野で決めておきます。社内の手続きや承認の流れまで外部の人に任せると、中途採用者が社内の誰に聞けばよいか分からないままになりがちです。
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まとめ:OJTで確かめておきたい3つの点
エンジニア中途採用の育成をOJTで進めるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、指導役を技術の相談と社内の進め方の案内に分けて決め、指導役の担当業務をその分だけ減らしておくこと。第二に、最初は社内の進め方を一通り通る小さな改修を任せ、難しさを1段ずつ上げていくこと。第三に、システムの構成や設計の経緯のように仕事のなかだけでは覚えにくい知識を、文書と振り返りの面談で補うことです。この3点を踏まえておけば、「経験者を採ったのに、半年たっても社内のやり方が分からないまま」という事態を避けやすくなります。指導役の時間を確保できるかに迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
一通りの仕事をこなせるようになるまで、どのくらいかかりますか
調査では、中心的な業務で一通りの仕事をこなせるようになるまでの期間を、情報通信業の42.7%が「3〜4年程度」、31.1%が「1〜2年程度」と答えています。*2 これは従業員全体についての回答なので、技術の基本を持つ中途採用者なら、社内の進め方を覚える分だけ短く見込めます。
指導役は何人置けばよいですか
決まった人数はありませんが、技術の相談に乗る人と、社内の手続きを案内する人の2人を決めておくと、本人が誰に聞けばよいか迷いにくくなります。同じ人が両方を担える場合は1人でも構いません。その場合は担当業務を減らす量を多めに見ておきます。
小さな会社でもOJTはうまくいきますか
調査では、OJTが「うまくいっている」と答えた企業の割合は、従業員9人以下の企業が11.9%で、他の規模と比べて特に高くなっています。*1 全体では6.8%です。
中途採用者に社外の研修を受けてもらう必要はありますか
必ずしも要りません。自社のシステムや社内の進め方は社外の研修では学べないので、まずOJTで覚えてもらいます。社内に教えられる人がいない技術の分野があるときに、その分野に絞って社外の研修を選ぶと無駄が出にくくなります。
指導役の時間をつくりたいときに相談
中途採用者の育成期間に、指導役が抱えている開発のどこを任せたいかが決まっていれば、そのままご相談いただけます。任せる範囲をまだ決めきれていない段階でも構いません。
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出典
- *1 参考:労働政策研究・研修機構「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」調査シリーズNo.257 本文(PDF)(https://www.jil.go.jp/institute/research/2025/documents/0257_01.pdf)。出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」JILPT調査シリーズNo.257(2025年11月)。調査対象は従業員5人以上の企業20,000社、調査期間は2024年10月15日〜11月8日、有効回収数6,116社(30.6%)。第1章(調査の概要)、第2章第3節(図表2-3-10、2-3-26)、第4節(図表2-4-1 OJTの取り組み、2-4-2 OJTに対する評価、2-4-3 管理者・監督者を対象とした取り組み)を参照(2026年9月確認)
- *2 参考:労働政策研究・研修機構「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」付属統計表(PDF)(https://www.jil.go.jp/institute/research/2025/documents/0257_03.pdf)。出典:同調査の付属統計表。情報通信業の行(問1、問1付問1、問1付問1-1、問11、問12、問13、問15、問24、問26、問30)を参照。割合は表の件数から筆者が計算し直して確かめた(2026年9月確認)
- *3 参考:労働政策研究・研修機構「調査シリーズNo.257 人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」(https://www.jil.go.jp/institute/research/2025/257.html)。調査の目的、調査方法、調査対象、調査実査期間、有効回収数、担当者の確認として(2026年9月確認)