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エンジニア採用で社員化する人の役割移管、契約から始める手順
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 外部で関わっていたエンジニアの役割は契約で決まっているので、入社前は契約の範囲のままにし、いまの役割を契約の書面から書き出します。
- 雇いたいときは本人と条件を話す前に、通知や手数料などの取り決めを派遣元や委託先との契約で確かめます。
- 労働条件では業務の変更の範囲まで示し、報告の相手や権限は入社日に切り替え、新しい役割は入社後に一つずつ移します。
※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
派遣で来てもらっているエンジニアに、社員として加わってほしい。本人も前向きだが、入社したら何を任せ、いつから任せればよいのかが決まらない——。外部の技術者と長く一緒に開発してきた現場では、こうした迷いが起こりがちです。社員化の役割移管とは、派遣や業務委託の契約で決まっていた役割を、エンジニア採用で迎えた社員としての役割へ、順番を決めて移していくことを指します。
本人の仕事ぶりも、システムへの詳しさも分かっている相手なので、一から人を探すより話は早く進みます。ただし万能ではなく、外部のうちに役割を広げてしまったり、派遣元や委託先との取り決めを後回しにしたりすると、入社の前後でつまずきます。本記事では、開発の現場を預かるマネージャーに向けて、外部のうちに役割を広げにくい理由、いまの役割の書き出し方、雇う意思を伝える順番、社員として示す業務の範囲、入社日を境に移すもの、つまずきやすい点を整理します。
目次
社員化の役割移管とは
外部の立場で関わってきたエンジニアをエンジニア採用で社員に迎えるとき、本人は同じでも、担う役割を決めている枠が変わります。派遣なら派遣元と自社が結んだ派遣契約が、業務委託なら委託先と結んだ委託契約が、これまでの役割の線でした。社員化すると、その線は自社と本人が結ぶ労働契約と、社内での配置に置き換わります。
役割移管でよく起こるのは、次の2つです。1つは、本人が詳しいからといって、入社が決まる前から少しずつ仕事を増やしてしまうこと。もう1つは、入社した後も外部だった頃と同じ範囲の仕事のままにしておき、本人も周りも役割が変わったことに気づかないことです。どちらも、いつ、何を移すのかを決めていないために起こります。
本記事では、派遣で受け入れていたエンジニアを中心に、労働者派遣法と厚生労働省の指針が定めている点を手がかりにして、移す順番を整理します。業務委託で関わっていた人の場合は、法令ではなく各契約の条項で確かめる点が多くなります。
外部のうちは役割を広げにくい
労働者派遣法は、派遣契約を結ぶときに、派遣労働者が従事する業務の内容や、就業中の派遣労働者を直接指揮命令する者に関する事項などを定めるよう求めています。*1 省令は、定める事項に、派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度を加えています。*2 派遣で受け入れているエンジニアの役割は、まずこの契約の中身で決まっています。
厚生労働省の「派遣先が講ずべき措置に関する指針」(以下、派遣先指針)は、派遣先に対し、契約で定めた就業条件を、派遣労働者の業務の遂行を指揮命令する立場の人などに、書面の交付や就業場所への掲示で周知するよう求めています。あわせて、直接指揮命令する者に、契約に違反することになる業務上の指示をしないよう指導を徹底することも挙げています。*3 社員化の話が進んでいても、入社前に契約にない仕事を頼んでよいことにはなりません。
業務委託でも、委託契約に書いた業務の範囲が役割の線です。社員化を待つあいだに、契約の範囲を越えた仕事を頼みたくなったら、先に契約の変更を委託先と話し合います。どちらの場合も「役割を広げるのは入社してから」と決めておくと、現場のマネージャーの判断がぶれません。
いまの役割を書き出す
移す役割を考える出発点は、本人がいま何をしているかです。派遣契約の書面には、業務の内容と責任の程度が書かれています。*2 派遣先指針は、派遣先が契約を申し込むときに、直接指揮命令することになる人から、業務の内容、業務に伴う責任の程度、業務に必要な知識・技術・経験の水準などを十分に確かめるよう求めています。*3 受け入れたときのこの確認の記録が残っていれば、それも材料になります。
ただ、書面の業務の内容は短く書かれていることが多く、それだけでは役割を移せません。そこで、書面の項目ごとに実際の仕事を書き足して、表にまとめます。責任の程度の欄には、本人がいま自分で決めていること(検証用の環境への反映など)と、社員に確認を取ってから進めていること(本番への反映、仕様の変更など)を分けて書きます。
| 項目 | 契約の書面や確認の記録にあること | 書き足す中身 |
|---|---|---|
| 業務の内容 | 派遣労働者が従事する業務の内容 | 担当しているシステムと機能、定期の作業、障害が起きたときに受け持つ範囲 |
| 責任の程度 | 業務に伴う責任の程度 | 本人が自分で決めていること、社員に確認を取ってから進めていること |
| 指示と報告 | 直接指揮命令する者に関する事項 | 仕事を頼んでいる人、進み具合の報告を受けている人 |
| 知識と経験 | 業務に必要な知識・技術・経験の水準(受け入れ時の確認事項) | 本人しか知らない手順、仕様が決まった経緯 |
表ができたら、行ごとに「社員として引き続き担う役割」「入社後に新しく担う役割」「外部の側に残す役割」の3つに振り分けます。本人が派遣元や委託先のチームの一員として来ていた場合は、同じチームの別の技術者が受け持っていた仕事との境目も、ここで書き出しておきます。
雇う意思を伝える順番
派遣で受け入れているエンジニアを雇いたいときは、派遣元との取り決めを先に確かめます。省令は、派遣契約で定める事項の一つとして、派遣先が派遣の終了後にその派遣労働者を雇う場合に、派遣元にあらかじめその旨を通知すること、手数料を支払うことその他の、派遣の終了後に契約の当事者間の紛争を防ぐための措置を挙げています。*2
派遣先指針も、派遣先は契約を結ぶにあたって、派遣の終了後に派遣労働者を雇う場合にそれが円滑に行われるよう、派遣元の求めに応じて、雇う意思があるならそれを事前に派遣元に示すこと、派遣元が職業紹介を行える場合には職業紹介によって雇い、その手数料を支払うことなどを定めるとしています。*3 派遣元向けの「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」にも、派遣元が派遣先にこれらを定めるよう求める旨があります。*4
どちらも「定める」としているので、実際の扱いは結んだ契約によって違います。手数料がかかるかどうか、かかるならいくらか、いつまでに知らせるかは、各契約の条項で確かめます。派遣の期間の途中で社員にしたい場合も、契約の解除や変更が関わるため、派遣元と相談して契約で確かめます。
業務委託の場合も、委託先の従業員を採用することについての条項や、採用したときの手数料を定めた条項が入っていることがあります。こうした条項の有無と中身は契約ごとに違うので、本人に声をかける前に契約を確かめ、委託先と話し合っておきます。先に本人と条件の話を進めてしまうと、派遣元や委託先との話し合いが後追いになり、入社日も決めにくくなります。派遣から自社雇用へ切り替えるときの法律上の決まりは「SESから自社雇用への切り替えを4つの条文で確かめる」で扱っています。
社員として示す業務の範囲
エンジニア採用で社員として迎えるときは、労働条件を書面などで示します。労働基準法施行規則は、示す労働条件の一つを「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)」としています。*5 入社した時点の業務に加えて、これから担う可能性がある業務の範囲も示すということです。
社員化では、入社時の業務は、さきほどの表の「社員として引き続き担う役割」から書けます。変更の範囲には、「入社後に新しく担う役割」が収まる幅を持たせます。たとえば入社時の業務を「受発注システムの改修と保守」とし、変更の範囲を「社内の業務システムの企画・設計・開発・保守、およびこれらに付随する業務」とする書き方です。外部だった頃の業務の内容をそのまま写すと、入社後に設計や外部の技術者の取りまとめを任せたいときに、示した業務との食い違いが生じます。
本人には、労働条件の書面と役割の表を並べて説明します。外部の立場ではしていなかった判断、たとえば本番への反映の承認や、改修の優先順位の決定を、いつから担ってもらうのかも伝えておきます。外注していた仕事を新しく雇う社員に移すときの手続きは「エンジニア採用で外注置き換え、社員化で増える手続きと契約の終え方」で扱っています。
入社日を境に移すもの
入社日には、契約で決まっていた役割が、労働契約と社内の配置で決まる役割に切り替わります。この日を境に移すものを、事前に一覧にしておきます。主なものは次の4つです。
- 報告の相手:派遣契約に書いた指揮命令者から、社内の上司への報告に変える
- アカウントと権限:外部の人として発行したアカウントを止め、社員として発行し直す。付ける権限は、役割の表の「社員として引き続き担う役割」に合わせる
- 判断の権限:外部の立場では社員に確認していた判断を、どこまで本人に任せるかを決める
- 社外との窓口:派遣元や委託先からの連絡を、社内の誰が受けるのかを決める
アカウントを発行し直すのは、外部の人として渡した権限と、社員として渡す権限を分けておくためです。分けておけば、あとで権限を見直すときに、いつ、どの立場で付けた権限なのかを記録から追えます。外部の人として発行したアカウントは、契約が終わった人の分として扱います。外部の技術者のアカウントの渡し方と消し方は「業務委託エンジニアの受け入れ時の権限管理、付与から削除までの手順」で扱っています。
判断の権限は、入社日に全部を渡さなくても構いません。入社してしばらくは外部だった頃と同じ範囲で仕事をしてもらい、表の「入社後に新しく担う役割」を一つずつ移していくと、本人も周りも、役割が変わったことを確かめながら進められます。移すたびに、社内の誰がその判断を手放すのかも決めておくと、二人が同じことを決める状態を避けられます。
つまずきやすい点
一つ目は、外部の側に残る仕事を忘れることです。本人が派遣元や委託先のチームの一員だった場合、本人が抜けると、そのチームが担っていた仕事のうち本人の担当分が空きます。派遣元や委託先に後任を頼むのか、社員になった本人がそのまま担うのかを、表の「外部の側に残す役割」と照らして決めます。本人が両方を担うつもりでいると、入社後の仕事の量が想定を超えます。
二つ目は、資料や道具の扱いを確かめないことです。本人が外部の立場で作った手順書や作業用のスクリプトには、派遣元や委託先が持ち込んだものが混じっていることがあります。とくに業務委託では、成果物や資料の権利の扱いは契約で決まります。入社後も使い続けるものは、一覧にして契約の条項と照らします。委託した成果物の権利の基本は「業務委託エンジニアの参画後に知る成果物の著作権の基本」で扱っています。
三つ目は、本人しか知らない状態が続くことです。外部だった頃に本人しか知らなかった手順は、社員になれば社内に残ると思われがちです。けれども本人が1人で担う限り、休暇や異動のたびに仕事が止まります。入社を機に、表の「知識と経験」の欄を手順書にし、社内の別の人にも一度作業してもらいます。手順書だけでは抜けていた点が、そこで見つかることがあります。
まとめ:社員化の役割移管で確かめておきたい3つの点
外部で関わっていたエンジニアの社員化で役割移管を進めるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、入社前は役割を契約の範囲のままにし、いまの役割を契約の書面から書き出して、引き続き担う役割、新しく担う役割、外部の側に残す役割に分けること。第二に、本人と条件を話す前に、雇う意思の通知や手数料などの取り決めを派遣元や委託先との契約で確かめること。第三に、労働条件で業務の変更の範囲まで示し、報告の相手や権限は入社日に切り替え、新しい役割は入社後に一つずつ移すことです。この3点を踏まえておけば、「社員になったのに、外部だった頃と何も変わらない」という事態を避けやすくなります。移す役割を誰が担うかに迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
紹介予定派遣で受け入れていた場合も同じ進め方でよいですか
役割を書き出して移す順番は同じです。紹介予定派遣では、職業紹介によって従事する業務の内容や労働条件などを、派遣契約で定めることになっています。*1 社員として示す業務を考えるときは、その定めと役割の表を照らし合わせます。紹介予定派遣のしくみは「エンジニア採用で社員化を考える、紹介予定派遣の基本」で扱っています。
派遣元に知らせる前に、本人の意向だけ聞いてもよいですか
派遣契約に、雇う場合にあらかじめ派遣元へ知らせる定めがあれば、それに沿って進めます。定めがあるかどうか、どの時点で何を知らせるかは契約によって違うため、まず各契約で確かめます。判断がつかないときは、派遣元の担当者に進め方を相談しておくと、後の話し合いがこじれにくくなります。
外部だった頃の仕事ぶりは、社員としての評価に使えますか
参考にはなりますが、それだけで決めるのは避けたいところです。外部だった頃の役割は契約の範囲に区切られていたため、契約の外にある仕事、たとえば設計の判断や外部の技術者の取りまとめぶりは見えていません。入社後に新しく担う役割については、役割の表をもとに目標を決め、改めて確かめます。
移す役割が見えたら相談
社員になる人が手放す仕事や、外部の側に残す役割が書き出せていれば、そのままご相談いただけます。誰に任せるか決めきれていない段階でも構いません。
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出典
- *1 参考:e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(https://laws.e-gov.go.jp/law/360AC0000000088)。出典:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)。第26条第1項第1号(業務の内容)、第3号(直接指揮命令する者に関する事項)、第9号(紹介予定派遣に関する事項)、第10号(厚生労働省令で定める事項)を参照(確認日2026年10月2日)(2026年10月確認)
- *2 参考:e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則」(https://laws.e-gov.go.jp/law/361M50002000020)。出典:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則(昭和61年労働省令第20号)。第22条第1号(業務に伴う責任の程度)、第5号(派遣の終了後に派遣労働者を雇用する場合の通知・手数料その他の紛争防止の措置)を参照(確認日2026年10月2日)(2026年10月確認)
- *3 参考:厚生労働省「派遣先が講ずべき措置に関する指針」(PDF)(https://www.mhlw.go.jp/content/000717005.pdf)。出典:派遣先が講ずべき措置に関する指針(平成11年労働省告示第138号、最終改正令和8年厚生労働省告示第201号)。第2の1(労働者派遣契約の締結に当たっての就業条件の確認)、第2の2(1)(就業条件の周知徹底)・(4)(労働者派遣契約の内容の遵守に係る指導)、第2の6(1)ロ(派遣の終了後に派遣労働者を雇用する場合の措置)を参照(確認日2026年10月2日)(2026年10月確認)
- *4 参考:厚生労働省「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」(PDF)(https://www.mhlw.go.jp/content/000920084.pdf)。出典:派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針(平成11年労働省告示第137号、最終改正令和8年厚生労働省告示第200号)。第2の2(2)ロ(派遣の終了後に派遣先が派遣労働者を雇用する場合の定め)を参照(確認日2026年10月2日)(2026年10月確認)
- *5 参考:e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)。出典:労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)。第5条第1項第1号の3(就業の場所及び従事すべき業務に関する事項と変更の範囲)を参照(確認日2026年10月2日)(2026年10月確認)