LASSIC Media らしくメディア
その指摘数は多いのか少ないのか|レビュー指摘件数の密度の測り方
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- レビュー指摘件数の密度は、指摘の件数を規模やレビュー工数で割った値で、分母を決めないと比べられません。
- IPAの資料では、工数あたりの中央値が基本設計で625.0件、製作で496.9件(1,000人時あたり)です。
- 何で割るかで、案件ごとの値のばらつきの幅は2.05倍から7.76倍まで変わるので、自社で測るなら分母を固定します。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
レビューの報告に指摘の件数が並んでいても、それが多いのか少ないのか判断がつかない。前の案件と比べようにも、規模もかけた時間も違う——。設計やプログラム製作のレビューを管理する現場では、こうした迷いが起こりがちです。レビュー指摘件数の密度とは、レビューで挙がった指摘の件数を、プログラムの規模やレビューにかけた工数で割った値のことです。
密度にすれば、規模の違う案件どうしでも比べやすくなります。ただし万能ではなく、何で割るかによって値の散らばり方が大きく変わります。本記事では、開発チームのレビューを管理する方に向けて、IPAが公開している分布をもとに、規模あたりと工数あたりの値、平均を使わない理由、分母による幅の違い、そして自社で測り始めるときの手順を整理します。
目次
レビュー指摘件数の密度とは
密度の分母には、大きく分けて規模と工数の2種類があります。規模で割る方法では、作ったプログラムの行数や機能の量を使います。行数はSLOC(ソースコードの行数)で数え、1,000行単位の値をKSLOC(1,000行あたり)と書きます。機能の量はFP(ファンクションポイント。機能の数から見た規模)で数えます。工数で割る方法では、レビューにかけた人の時間、つまり人時を使います。
規模あたりの値は、作ったプログラムの量に対してどれだけ指摘が出たかを表します。工数あたりの値は、レビューにかけた時間に対してどれだけ指摘が出たかを表します。同じ指摘件数でも、どちらで割るかで比べる相手が変わります。報告に件数だけが書かれていて、何で割るかが決まっていないと、前の案件とも業界の値とも比べられません。
参照する資料
業界の分布として使えるのが、IPA(情報処理推進機構)の「ソフトウェア開発分析データ集2022」です。2022年9月26日に公開され、最終更新は2025年8月28日で、これまでに収集した5,546プロジェクトの定量データから分析されています。*1
設計工程のレビュー指摘件数は、本編の4章で扱われています。基本設計については、SLOC規模あたり、FP規模あたり、工数あたり、ページあたりの4通りの分母で集計されています。工数には、その工程のレビューにかけた工数が使われ、工数あたりの密度は1,000人時あたりで載っています。*2 以下では、このうちSLOC規模あたり・FP規模あたり・工数あたりの3つと、製作(プログラムを作る工程)の工数あたりの値を見ていきます。
値は、件数を小さい順に並べたときの真ん中の値(中央値)と、下から4分の1の位置の値(P25)、4分の3の位置の値(P75)で示されています。P25からP75までの間に、全体の半分の案件が入ります。N(集計に入った案件の数)は表ごとに違い、表どうしは同じプロジェクトの集まりではありません。
規模あたりの指摘件数
本編の表4-1-1によると、基本設計のレビュー指摘件数は、SLOC規模あたりの中央値が2.500件/KSLOCで、Nは405です。P25は0.985、P75は5.121でした。*2 P75をP25で割ると5.20倍の開きがあります。2014年度から2019年度のデータでの中央値は2.574で、本編は今回の値とあまり差はないと記しています。
中央値から計算すると、10KSLOCの開発なら指摘は25件ほどになります。同じ10KSLOCでも、P25の案件なら約10件、P75の案件なら約51件です。最小値は0.000件で、指摘が1件も記録されていない案件も分布に含まれています。
プログラムを動かさずにコードを調べる仕組みの導入は「静的解析・コード品質ゲート導入を外注で進める」で扱っています。
なぜ平均を使わないのか
表4-1-1の最大値は8,000.000件/KSLOCです。本編はこの値について、1行の変更だけに対して8件の指摘があったプロジェクトのものと説明しています。1行を分母にすると、8件の指摘は1,000行あたり8,000件と計算されるためです。この1件の影響で平均は25.317、標準偏差は397.507まで大きくなっています。*2 表の値から計算すると、最大値は中央値の3,200倍、平均は中央値の10.1倍です。
製作工程でも同じことが起きています。表4-2-1の最大値は94,868.4件/1,000人時で、平均1,601.8は中央値496.9の3.22倍、標準偏差は6,393.8です。*2 どちらの表でも、平均は一部の極端な案件の値で大きく動くため、比べるときは中央値と四分位を使います。
自社で測るときも同じことが起こります。小さな変更だけを切り出して密度を出すと、値が極端に大きくなります。規模が小さすぎる案件は密度の比較から除く、という下限を先に決めておくとよいでしょう。
工数あたりの指摘件数
本編の表4-1-3では、基本設計のレビュー指摘件数は、工数あたりの中央値が625.0件/1,000人時で、Nは244でした。P25は231.1、P75は1,564.7で、P75をP25で割ると6.77倍です。最小値は0.0、最大値は10,119.0、平均は1,212.6、標準偏差は1,652.8でした。*2 平均は中央値の1.94倍で、規模あたりの表ほど極端な開きはありません。
2014年度から2019年度のデータでは中央値が580.9、平均が1211.9で、本編はやや増加したとしています。この増加について、本編は「この傾向は以前から続いている」と記しています。*2
製作工程の表4-2-1では、工数あたりの中央値が496.9件/1,000人時で、Nは240です。P25は181.3、P75は1,407.4で、幅は7.76倍でした。2014年度から2019年度のデータの中央値555.1と比べて、やや減少したと記されています。*2 同じ単位で並べると基本設計のほうが多く、中央値から計算すると1.26倍です。ただしNが244と240で案件の集まりが違うため、1.26倍という差の大きさより、基本設計のほうが多いという順序として受け取るのが無難です。
工程ごとに社内で担うか委託するかの分け方は「工程別の内製化|設計開発テストだけ委託が34.4%」で扱っています。
分母で幅はどう変わるのか
FP規模あたりの表4-1-2では、中央値が175.0件/KFP(1,000ファンクションポイントあたり)で、P25が119.3、P75が244.3、平均は235.5、標準偏差は212.6でした。中央値は2014年度から2019年度の175.0と同じで、平均も240.1から235.5へと、あまり差はないとされています。*2 ただしNは17しかないため、参考値として扱います。
| 工程と分母 | P25 | 中央 | P75 | P75÷P25 | N |
|---|---|---|---|---|---|
| 基本設計・SLOC規模あたり[件/KSLOC] | 0.985 | 2.500 | 5.121 | 5.20倍 | 405 |
| 基本設計・工数あたり[件/1,000人時] | 231.1 | 625.0 | 1,564.7 | 6.77倍 | 244 |
| 基本設計・FP規模あたり[件/KFP] | 119.3 | 175.0 | 244.3 | 2.05倍 | 17 |
| 製作・工数あたり[件/1,000人時] | 181.3 | 496.9 | 1,407.4 | 7.76倍 | 240 |
4つを並べると、P75をP25で割った幅は、FP規模あたりの2.05倍から製作の工数あたりの7.76倍まで開きます。同じ指摘件数を数えていても、何で割るかで値の散らばり方がこれだけ変わります。FP規模あたりの幅が狭いのは、17件だけの分布であることも影響している可能性があります。自社で測るなら、分母を1つに決めて変えずに続けることが欠かせません。
どう測り始めるのか
ここまでの分布を自社の手順に置き換えると、4つの段階になります。まず、規模で数えるのか工数で数えるのか、分母を先に決めます。次に、基本設計と製作のように工程を分けて記録します。工程を混ぜると、前回より基本設計は増え製作は減った、という違いが見えなくなります。3つ目に、表の中央値と四分位に自社の値を当てはめて位置を確かめます。最後に、分母を変えずに次の案件と比べ続けます。
順番を逆にして件数だけを先に集めると、あとから分母をそろえ直す手間がかかります。件数が多いことを、そのまま品質が良い、あるいは悪いと受け取らないことも大切です。指摘の重さや中身はこの集計に含まれておらず、指摘件数と後工程の不具合の関係を示す集計も公表されていません。
記録と判定を分けて考えると、体制も組みやすくなります。指摘の重さを決める判断は社員が担い、件数と工数の記録や集計は外部の要員に任せる、という分け方ができます。仕様書やコードを読んで指摘を挙げる作業は、人数を増やせば、それだけ多くの量をこなせる作業です。設計工程の数か月だけ、フリーランスを含む業務委託の専門人材に読み手として加わってもらう方法もあります。
レビューの体制を外部の専門家で補う方法は「技術選定・アーキテクチャレビューを外注で補強」で、同じ資料の別の指標は「外部委託工数比率とは、中央値63.4%が示す体制の相場」で扱っています。
まとめ:指摘件数の密度で確かめておきたい3つの点
レビュー指摘件数の密度を使ううえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、規模で割るのか工数で割るのか、分母を先に決めること。第二に、平均ではなく中央値と四分位で自社の位置を見ること。第三に、基本設計と製作を分けて記録し、同じ分母で案件どうしを比べ続けることです。この3点を踏まえておけば、「指摘件数は増えたが、多いのか少ないのか誰も言えない」という事態を避けやすくなります。レビューの測り方や体制に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
この資料は今後も更新されますか
更新の予定はありません。IPAは事業終了に伴い今後の発行予定はないと明記しており、最終更新は2025年8月28日です。*1 IPAは2005年からエンタプライズ分野の開発データを集めてきており、2020年に書籍版の名称を変えて現在の形になりました。*4 直近の相場としてではなく、比べるときの基準として使うのが向いています。
表の値はどこで確かめられますか
IPAの公開ページで、本編のほか業種編3編、サマリー版、マンガ解説版、グラフデータが公開されています。*4 グラフデータの著作権はIPAが持っており、使うときは著作権表示(Copyright 2022 IPA)を明記するよう使用条件で求められています。*3
分母が記録されていない案件は、分布に入っていますか
入っていません。本編の層別定義では、分母となる値(実効SLOCの実績値、FPの実績値、レビュー実績の工数)が0より大きいことが条件です。開発5工程のフェーズ有無がすべてそろい、種別が明確で、設計フェーズ別のレビュー指摘件数に記入があることも条件になっています。*2 自社で比べるときも、件数と一緒に分母の値を残しておく必要があります。
ページあたりで数える方法もありますか
あります。基本設計の指摘件数は、SLOC規模あたり、FP規模あたり、工数あたりに加えて、ページあたりでも集計されています。*2 社内で設計書のページ数を記録しているなら、ページあたりを自社の分母に選ぶこともできます。
レビューの体制を相談したいとき
レビューに何をどれだけ割くか、測り方の決め方からご相談いただけます。
Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。
Remoguは、リモート前提で全国から即戦力のITプロ人材を調達するサービスです。リラシクは、扱う求人がすべてリモートワークのITエンジニア専門転職エージェントです。どちらもLASSICが運営しています。
出典
- *1 参考:IPA「ソフトウェア開発分析データ集2022」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/metrics/metrics2022.html)。出典:公開日・最終更新日、5,546プロジェクトの定量データから分析したこと、事業終了に伴い今後の発行予定がないことの記述を参照(2026年9月確認)
- *2 参考:IPA「ソフトウェア開発分析データ集2022」本編(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/metrics/hjuojm000000c6it-att/000102171.pdf)。出典:4章 表4-1-1〜表4-1-3・表4-2-1の四分位・平均・標準偏差・N・層別定義、上端の説明、2014〜2019年度との比較の記述を参照(2026年9月確認)
- *3 参考:IPA「ソフトウェア開発分析データ集2022グラフデータ」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/metrics/hjuojm000000c6it-att/000103288.zip)。出典:同じ表の値の確認と使用条件(著作権はIPAが保有。Copyright 2022 IPA)を参照(2026年9月確認)
- *4 参考:IPA「ソフトウェア開発分析データ集」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/metrics/index.html)。出典:業種編3編・サマリー版・マンガ解説版・グラフデータという構成と、2005年からのデータ収集の沿革を参照(2026年9月確認)