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職業能力評価基準とは|採用要件を書く公的な型
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 採用要件を書く公的な型がある:厚生労働省の職業能力評価基準は、職種を4段階に細分化して整理した公的な評価基準です*1。
- 軸は「成果につながる行動例」:各項目に、遂行できるか否かの判断基準となる典型的な行動例が付いています*2。
- 情報システム職種も対象:業種横断的な事務系職種9職種19職務のひとつとして整備されています*3。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
採用要件を書き出すと、たいてい抽象語が並びます。「主体性がある」「キャッチアップが早い」「チームで動ける」。この状態で面接に入ると、判断が面接官ごとにぶれます。
原因は語彙の不足ではなく、書く型がないことです。そして型は、すでに公的に用意されています。厚生労働省の職業能力評価基準です。
資料はこれを、仕事をこなすために必要な「知識」と「技術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を、業種別、職種・職務別に整理したものと説明し、公的な職業能力の評価基準と位置づけています*1。
本記事では、この基準の構造と、採用要件に落とすときの使い方を整理します。人事評価制度そのものへの反映は社内制度と接続する話になるため、必要に応じて社会保険労務士等に確認したうえで進めてください。
目次
仕事を4段階に分解する
まず構造です。この基準の要点は、抽象語を使わずに済む粒度まで仕事を割ることにあります。
資料は仕事の内容を「①職種」→「②職務」→「③能力ユニット」→「④能力細目」という単位に細分化していますとしています*2。それぞれの定義も示されています*2。
- 職種:仕事の内容や性質が類似している「職務」を括ったもの
- 職務:概ね1人の労働者が、責任をもって遂行すべき精神的、肉体的活動を要する仕事の集まり
- 能力ユニット:仕事を効果的、効率的に遂行するために必要な職業能力を、活動単位で括ったもの
そのうえで、各項目に2種類の記述が付きます。成果につながる行動例を「⑤職務遂行のための基準」、仕事をこなすために前提として求められる知識を「⑥必要な知識」として整理・体系化しています*2。
⑤の定義がこの基準の中心です。資料は「能力細目」の仕事について、確実な遂行ができるか否かの判断基準となる典型的な行動例や、技能・技術を列挙したものとしています*2。「主体性がある」ではなく「こういう場面でこう動く」という形で書く、ということです。
この考え方は、試用期間で何を見るかという問題と同じ構造です。観察できる行動の形に落とさないと、判断が印象に寄ります。試用期間側の整理は試用期間とは何を見る期間か、設計と運用で扱いました。
用語の注記も丁寧です。「課業」について資料は企業・団体の組織活動に必要な機能や役割を個々の労働者に割り当てる際に、有意義に分類しうる最小の活動単位のこととし、単なる「作業」や「動作」ではなく達成すべき目的があり、それ自体が仕事としてまとまりを持っていますと説明しています*2。目的のない作業の羅列にはならない、という歯止めです。
レベルは4段階で定義されている
もうひとつの軸がレベルです。資料は会社において期待される責任・役割の範囲と難易度により4つの能力段階(レベル区分)を設定していますとしています*4。
| レベル | 目安 |
|---|---|
| レベル1 | 担当者として、上司の指示・助言を踏まえた定例的業務の確実な遂行に必要な能力水準 |
| レベル2 | グループやチームの中心メンバーとして、創意工夫を凝らして自主的な判断、改善、提案を行いながら業務を遂行するために必要な能力水準 |
| レベル3 | 中小規模組織の責任者もしくは高度専門職・熟練者として、上位方針を踏まえて管理運営、計画作成、業務遂行、問題解決等を行い、企業利益を創出する業務を遂行するために必要な能力水準 |
| レベル4 | 大規模組織の責任者もしくは高度に専門的な熟練者として、広範かつ統合的な判断及び意思決定を行い、企業利益を先導・創造する業務を遂行するために必要な能力水準 |
この4段階は、募集する枠がどこに当たるのかを言語化する道具になります。「即戦力を求めます」と書く代わりに、レベル2なのかレベル3なのかを決める。決まれば、求人票の書き方も面接の質問も変わります。
注意したいのは、レベルが役職と同じではないという点です。資料は事務系職種におけるキャリア形成の例として、スタッフ・シニアスタッフ・マネジャー・シニアマネジャーという流れと、スペシャリスト・シニアスペシャリストという流れの2本を示しています*4。マネジメントに進まない道筋も、同じレベルの中に置かれています。
専門職側の処遇をどう設計するかはマネジメントに進まないエンジニアの処遇設計で扱いました。レベル区分を使うと、この2本の道筋を同じ物差しの上で説明できます。
資料はキャリアルートについても定義を置いています。特定の職務の専門分野の職業能力を深めたり、人事異動を通じていくつかの職務を経験しながら、職業能力の幅を広げていく道筋であり、「キャリアパス」ともいうことがあります*4。募集の段階で入社後の道筋を示す材料になります。
「情報システム」職種が用意されている
ここまで読んで「製造業向けの話だろう」と思われたかもしれません。実際には、業種を問わない事務系職種が別に整備されています。
資料は本基準で対象とする職種は、業種を問わずほとんどの企業に共通する事務系職種を網羅するものとして、経営戦略、人事・人材開発・労務管理、企業法務・総務・広報、経理・資金財務・経営管理分析、情報システム、営業・マーケティング・広告、生産管理、ロジスティクス及び国際事業の9職種19職務に区分し整理していますとしています*3。5番目に「情報システム」が入っています。
策定と改訂の時期も明記されています。本基準は平成16年に策定され、平成20年3月、平成31年3月に改訂したものです*3。
情報システム職種の人材要件確認表は、区分が用意されています。基礎、専門、マネジメント、高度専門、上級マネジメントという形です*3。「エンジニア」という一語で括っていた枠を、この区分に沿って割り直すだけでも要件が具体化します。
職種をまたいで共通する能力ユニットも別に置かれています。ビジネス知識の習得、PCの基本操作とネットワークの活用、企業倫理とコンプライアンスなどです*3。職種固有の要件と、どの職種でも要る要件を分けて書ける構造になっています。
事務系以外については、業種別の基準が並行して整備されています。資料は平成14年度から、業種横断的な事務系職種のほか、電気機械器具製造業、ホテル業などものづくりからサービス業まで幅広い業種を整備しておりとしており*1、業種の一覧は業種横断的な経理・人事等の事務系9職種及び、電気機械器具製造業、ホテル業、在宅介護業等の56業種と示されています*5。
資料の全体像も整理されています。様式1が全体構成、様式2が職種別能力ユニット一覧、様式3が能力ユニット別職業能力評価基準です*2。あわせて付属資料として職務概要書があり、職務ごとの概要、仕事の内容、求められる経験・能力、関連する資格等についてまとめられています*2。求人票を書く側から見ると、この職務概要書がいちばん近い形をしています。求人票の項目そのものはエンジニア求人票の書き方と必須14項目で扱いました。
共通の能力と、職務固有の能力を分ける
要件表を書くときに効いてくる構造が、もうひとつあります。能力の分け方です。
職種別能力ユニット一覧(様式2)は、能力を2種類に分けて並べています。職務の別によらず、職種に共通している能力と、各職務の遂行のために固有に求められる能力です*2。
この分離が、募集要項の書き方をそのまま決めます。共通の能力は職種の枠に一度書けば足りますが、固有の能力は職務ごとに書き分ける必要があります。逆に、両者を混ぜて1枚にすると、どの枠にも同じ長い要件表が付くことになり、応募する側から見て違いが読めません。
資料は様式の使い方についても補足しています。その業界での企業の仕事の概要については、全体構成(様式1)と職種別能力ユニット一覧(様式2)を参照することである程度把握することができますとし、様式2は能力ユニット別職業能力評価基準(様式3)を閲覧入手するための目次としても利用できる資料ですと述べています*2。まず様式2で全体を見渡し、必要な部分だけ様式3を開く。この順序で読むと、量に圧倒されずに済みます。
事務系職種には、要件を書く作業に直接使えるツールも並んでいます。人材要件確認表、社内研修・教育モデル基準、職種別能力ユニットインデックスです*3。人材要件確認表は情報システム職種にも用意されており、前述の基礎から上級マネジメントまでの区分で分かれています*3。
社内研修・教育モデル基準が並んでいることには意味があります。要件を書く作業と、足りない部分をどう埋めるかの設計は、同じ表の上で続いています。入社時点で要らない知識を後から身につける前提にするなら、その道筋も同時に描けます。育成と採用の比較はDX人材は採用か育成か、助成金を含めて比較するで扱いました。
業種別の基準を参照したい場合の内訳も公開されています。建設業関係7業種、製造業関係13業種、運輸業関係2業種、卸売・小売業関係6業種、金融・保険業関係2業種、サービス業関係16業種、その他10業種という構成です*5。自社の事業が事務系職種の枠に収まらない場合は、こちらを見ることになります。
そのまま使うものではない
誤解を避けるために、性格を確認しておきます。この基準は完成品ではありません。
資料はこの基準は、業界内での標準的な基準であるため、各企業で適宜カスタマイズしてご活用してくださいと明記しています*1。標準を写して終わりにするなら、抽象語を別の抽象語に置き換えただけになります。
使い方の幅も示されています。資料は「人材育成」、「採用」、「人事評価」など様々な場面で活用できるものとし、検定試験の「基準書」としての利用にも触れています*1。採用だけに使う道具ではありません。
採用と人事評価で同じ基準を使えることには実務上の意味があります。入社前に見る項目と、入社後に評価する項目が同じ言葉で書かれていれば、期間の途中で判断がぶれません。逆に、選考は独自の観点、評価は別の制度という状態だと、入社後の評価が本人の想定と食い違います。
ツールも用意されています。職業能力評価シートとキャリアマップが一部の業種に作成されており、資料は効果的な能力開発や評価レベルの向上、キャリアパスの明確化、人材の早期育成を目的に、キャリアマップと合わせて職業能力評価シートを活用することで、キャリアの道筋に沿った社員の成長を支援することが可能になりますとしています*1。導入・活用マニュアルは16業種に用意されています*1。
職業訓練と接続する形もあります。ジョブ・カード制度を利用して職業訓練(雇用型訓練)に取り組む企業が活用できる「モデル評価シート」と「モデルカリキュラム」があり、評価の目安を一覧にした判定目安表も公開されています*1。未経験者を受け入れる枠を作る場合は、この系列が近くなります。
関連ツールとしてポータブルスキル見える化ツールも挙げられており、資料は職業能力評価基準をもとに作成したデータベースから適職を診断するツールと説明しています*1。候補者側が使う道具ですが、どの軸で職務を見ているかを知るには役立ちます。
着手の順序——1職務ぶんだけ写して直す
順序を置きます。全職種を整えようとすると終わりません。
- ① いま募集している1職務だけを対象にする。全体設計は後回しにします
- ② レベルを決める。表1の4段階のどれに当たる枠なのかを先に決めます
- ③ 該当する能力ユニットを拾う。情報システム職種の資料から、自社の仕事に当たるものを選びます
- ④ 職務遂行のための基準を自社の言葉に直す。使っている道具や体制に合わせて書き換えます
- ⑤ 必要な知識を分ける。入社時点で要るものと、入社後に身につけるもので分けます
- ⑥ 選考の質問に落とす。④の行動例を、面接で聞ける形の質問に変換します
②を先に置く理由は、レベルが決まらないと③以降の粒度が決まらないからです。レベル1の枠にレベル3の要件を書いてしまう、という食い違いが最も起きやすい間違いです。募集の人数と枠の設計は要員計画に必要な4つの数字と決める順番で扱いました。
④が作業の本体です。標準の記述を見ながら、自社ではどういう場面でその行動が現れるかを書き足していく。この書き換えを飛ばすと、現場のレビューで「うちの仕事はこうじゃない」と言われて止まります。
⑤の切り分けは、母集団の広さに直結します。入社時点で要る知識を絞れば応募できる人が増え、絞らなければ狭まります。この判断を要件表の上で明示的にやると、後から「なぜこの条件なのか」を説明できます。
⑥まで到達すると、選考の質問が要件表から導かれる状態になります。技術面での見極めの質問は技術面接で人事が見極める5つの質問で扱いました。要件表と質問がつながっていれば、面接官が変わっても見る対象は変わりません。
なお、この作業には現場の時間が要ります。要件を書けるのは、その仕事をしている人だけです。現場が手一杯のまま人事だけで要件表を作ると、標準の写しに戻ります。当座の負荷を下げてから着手したい場合は、期間を区切って外部の力を借りる進め方もあります。
まとめ:職業能力評価基準で押さえる3つの視点
第一に、仕事を4段階に分解する構造だという点です。厚生労働省の職業能力評価基準は、仕事の内容を職種、職務、能力ユニット、能力細目という単位に細分化し、成果につながる行動例を「職務遂行のための基準」、前提として求められる知識を「必要な知識」として整理・体系化しています。職務遂行のための基準は、能力細目の仕事について確実な遂行ができるか否かの判断基準となる典型的な行動例や技能・技術を列挙したものと定義されており、抽象語ではなく行動の形で書くための型になっています。第二に、レベルが4段階で定義されているという点です。会社において期待される責任・役割の範囲と難易度により、レベル1の担当者として上司の指示・助言を踏まえた定例的業務の確実な遂行の水準から、レベル4の大規模組織の責任者として広範かつ統合的な判断及び意思決定を行う水準までが示されています。マネジメント側とスペシャリスト側の2本のキャリアルートが同じレベルの中に置かれている点も、処遇の設計に使えます。第三に、業種を問わない事務系職種として情報システム職種が用意されているという点です。経営戦略から国際事業までの9職種19職務のひとつであり、平成16年に策定され平成20年3月、平成31年3月に改訂されています。ただし業界内での標準的な基準であるため、各企業でカスタマイズして使うことが前提です。まず募集中の1職務だけを対象に、レベルを決めるところから始めてください。
よくある質問
職業能力評価基準は何のための基準ですか。
公的な職業能力の評価基準です。厚生労働省は、仕事をこなすために必要な知識と技術・技能に加えて、成果につながる職務行動例を業種別、職種・職務別に整理したものと説明しています。平成14年度から、業種横断的な事務系職種のほか、ものづくりからサービス業まで幅広い業種が整備されてきました。人材育成、採用、人事評価、検定試験の基準書といった場面での活用が想定されています。
IT系の職種も対象になっていますか。
業種横断的な事務系職種のひとつとして情報システム職種が整備されています。事務系職種は、経営戦略、人事・人材開発・労務管理、企業法務・総務・広報、経理・資金財務・経営管理分析、情報システム、営業・マーケティング・広告、生産管理、ロジスティクス、国際事業の9職種19職務に区分されています。情報システム職種の人材要件確認表は、基礎、専門、マネジメント、高度専門、上級マネジメントの区分で用意されています。
レベル区分は役職と同じですか。
同じではありません。レベル区分は、会社において期待される責任・役割の範囲と難易度によって設定された4つの能力段階です。資料が示すキャリア形成の例では、スタッフからマネジャーへ進む道筋と、スペシャリストとして専門性を深める道筋の2本が同じレベルの枠内に置かれています。マネジメントに進まない選択も、レベルの上昇として説明できる構造になっています。
そのまま自社の要件表として使えますか。
カスタマイズが前提です。資料は、この基準が業界内での標準的な基準であるため各企業で適宜カスタマイズして活用するよう明記しています。標準の記述を写すだけでは、自社の仕事の実態と合いません。使っている道具や体制に合わせて職務遂行のための基準を書き換える作業が、実質的な本体になります。
採用以外の場面でも使えますか。
人材育成や人事評価にも使えるものとされています。一部の業種には職業能力評価シートやキャリアマップが用意され、キャリアの道筋に沿った成長の支援に活用できるとされています。またジョブ・カード制度を利用して雇用型訓練に取り組む企業向けにモデル評価シートとモデルカリキュラムが用意され、評価の目安を示す判定目安表も公開されています。
出典
- *1 参考:厚生労働省「職業能力評価基準」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/ability_skill/syokunou/index.html)。職業能力評価基準の定義と位置づけ、整備の経緯、活用場面、カスタマイズ前提である旨、職業能力評価シート・キャリアマップ・モデル評価シート・ポータブルスキル見える化ツールなどの活用ツールの一次情報として(2026年8月確認)
- *2 参考:厚生労働省「職業能力評価基準の構成」(https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001018939.pdf)。職種・職務・能力ユニット・能力細目の定義、職務遂行のための基準と必要な知識の位置づけ、課業の定義、様式1〜3と職務概要書の全体像の一次情報として(2026年8月確認)
- *3 参考:厚生労働省「事務系職種」(職業能力評価基準)(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10327.html)。業種横断的な事務系職種9職種19職務の内訳と情報システム職種の位置づけ、策定・改訂の時期、人材要件確認表と共通能力ユニットの一次情報として(2026年8月確認)
- *4 参考:厚生労働省「レベル区分」(事務系職種・職業能力評価基準)(https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001132869.pdf)。レベル1〜4のレベル区分の目安、事務系職種におけるキャリア形成の例、キャリアルートの定義の一次情報として(2026年8月確認)
- *5 参考:厚生労働省「職業能力評価基準の策定業種一覧」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04653.html)。事務系9職種および56業種の内訳と各業種の資料の入手先として(2026年8月確認)