LASSIC Media らしくメディア

2026.10.02 採用支援コラム

SESと組織再編、システム子会社の売却で確かめる契約と体制




監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論

  • システム子会社の再編が決まる前に、SESの契約ごとに契約の当事者と、作業するシステムの持ち主を一覧にしておきます。
  • 経済産業省の指針は、手法ごとに権利義務の移り方や承諾の要否が異なるとし、どの手法を選ぶかは状況に応じて決めるとしています。
  • 売却する場合は、移行期間にSESの技術者へ作業を頼む窓口と、期間が終わったあとの引き継ぎ先を決めておきます。

※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。

グループのシステム子会社を売却することになったが、そこでSESの技術者に頼んでいる開発や運用をどう続ければよいのか見通せない。親会社のシステムも子会社経由の契約で回っていて、どこから手をつければよいか分からない——。組織再編の話が持ち上がった情報システム部門では、こうした迷いが出てきます。ここでいうシステム子会社の再編とは、グループの情報システムを担う子会社を、売却や独立などの方法でグループから切り離したり、形を変えたりすることを指します。

再編の手法は一つではなく、手法によって契約の移り方も変わります。本記事では、システム子会社の切り離しにかかわる発注側の担当者に向けて、経済産業省の「事業再編実務指針」と参考資料集をもとに、手法による違い、売却に踏み切れない理由、SESの契約の一覧の作り方、移行期間の業務委託、取引先への伝え方、つまずきやすい点を整理します。

灰色の砂地を流れる青緑色の川を真上から写した空撮。1本の流れがいくつもの細い筋に分かれ、中州をはさんでまた合わさっている。人も文字も写っていない

システム子会社の再編とは

システム子会社は、親会社やグループ各社の情報システムの開発や運用を担う子会社です。経済産業省が2020年7月31日に策定した「事業再編実務指針」は、子会社を会社法上の子会社、つまり会社が総株主の議決権の過半数を持つ株式会社などで、その会社が経営を支配している法人として定義しています。*1

同じ指針は、子会社や事業をグループから切り離すことを「事業の切出し」と呼び、最終的には資本関係の解消を含めて完全に分離させる方向で行うものとしています。手法には事業譲渡、会社分割(吸収分割)、子会社株式の売却といった事業売却のほか、スピンオフなどがあると書かれています。*1 グループの中でシステム部門をまとめ直す統合とは、ここで分かれます。

システム子会社の現場では、社員に加えて、SES(技術者の作業を提供してもらう契約)で来ている他社の技術者が開発や運用を支えていることがあります。この人たちはシステム子会社の社員ではなく、契約先の会社に雇われている人です。再編の話では社員の転籍や処遇が先に議題になりやすいのですが、SESの技術者は契約の行き先として別に整理します。

手法によって変わること

事業再編実務指針は、切出しの手法ごとに、権利義務が引き継がれる法的な根拠、債権者や労働者の個別の承諾が要るかどうか、特定の売却先が要るかどうか、対価を受け取るかどうか、労働者を守るための手続きなどが異なるとしています。*1 指針に載っている比較を、主な項目に絞って表にしました。

事業の切出しの手法ごとの違い(経済産業省「事業再編実務指針」参考資料5.3-1をもとに作成)
手法 権利義務の承継 債権者・労働者の個別承諾 特定の売却先 対価の受領
事業譲渡 特定承継(民法) 必要 必要 あり
会社分割(吸収分割) 包括承継(会社法) 不要 必要 あり
子会社株式譲渡 株主に変更が生じるのみで、権利義務に変更なし ― 必要 あり
スピンオフ(現物配当) 株主に変更が生じるのみで、権利義務に変更なし ― 不要 なし
エクイティ・カーブアウト 株主に変更が生じるのみで、権利義務に変更なし ― 不要 あり

システム子会社でよく話題になるのは、子会社の株式を売る場合です。表のとおり、この手法では株主が変わるだけで、権利義務は変わらないと整理されています。*1 この整理に沿えば、子会社が当事者として結んでいるSESの契約は、子会社の契約のまま残ることになります。ただし、株主が変わったときの扱いを契約書で別に定めていることもあるので、個々の契約の条項は契約書で確かめ、判断に迷う点は専門家に相談します。

どの手法がよいかについて、指針は一律の答えを示していません。切出しの目的や資金の要否、取引の時間軸、売却先の状況などに応じて選ぶものとし、注記では、固定的・絶対的な方針や方策があるわけではないとする指摘を紹介しています。*1 合併・会社分割・事業譲渡のそれぞれで契約がどう移るかは業務委託エンジニアの契約とM&A、合併・会社分割・事業譲渡の違いで、会社分割での社員の雇用の行き先は会社分割で移る技術者の雇用で扱っています。

売却に踏み切れない理由

経済産業省の「事業再編ガイドライン 参考資料集」には、事業の売却や撤退等を検討・実施する段階での課題を社長・CEOに尋ねた平成30年度のアンケート結果が載っています。有効回答数は541社で、3つまで選べる設問です。*2 最も多かったのは「売却等を検討する基準が明確でないこと」の32%で、「対象事業が赤字でない限り、売上げには貢献しているため決断しにくいこと」が22%と続きます。

事業の売却や撤退等を検討・実施する段階での課題を尋ねた社長・CEOアンケート(平成30年度実施、有効回答数541社、3つまで選択可)の横棒グラフ。売却等を検討する基準が明確でないが32%、事業ポートフォリオ戦略で売却等を検討していないが28%、特段課題は無いが27%、赤字でない限り売上げに貢献しており決断しにくいが22%、売却等を検討するプロセスが明確でないが17%、対象事業の従業員や労働組合との調整が困難が16%、事業部門との調整が難しいとその他がそれぞれ6%、創業家や経営陣OBが売却等に反対するが2%。経済産業省「事業再編ガイドライン 参考資料集」参考資料2.1.1をもとに作成。

「売却等を検討するプロセスが明確でないこと」は17%、対象事業の従業員や労働組合との調整の難しさは16%でした。「特段課題は無い」は27%、「事業ポートフォリオ戦略において売却等を検討していない」は28%です。*2 事業の売却全般の調査で、システム子会社に限った数字ではありません。

同じ資料集には、令和元年度に行った企業アンケートで、事業の撤退・売却を検討の俎上に載せる基準を尋ねた結果もあります。東証の市場第一部・第二部の上場企業845社のうち78%が「特定の形式的な基準は定められていない」と答えています。*2 基準が決まっていなければ、売却の話はある時点で急に動き出します。SESの契約の整理は、話が出てから始めるより、平時に済ませておくほうが慌てずに済みます。

SESの契約を誰が結んでいるか

最初に作るのは、SESの契約の一覧です。契約ごとに、契約の当事者がどの会社か、技術者が作業するシステムの持ち主はどの会社か、作業の場所と使っているアカウントは誰が発行したものか、契約の期間と次の更新日はいつかを並べます。

一覧ができると、契約はおおむね3つに分かれます。1つ目は、システム子会社が結び、子会社自身のシステムで作業する契約です。2つ目は、システム子会社が結び、親会社やグループ各社のシステムで作業する契約です。3つ目は、親会社が結び、子会社の拠点やシステムで作業する契約です。

再編で扱いが変わりやすいのは、2つ目と3つ目です。子会社がグループから離れると、親会社から見たシステム子会社は社外の会社になります。2つ目の契約では、親会社のシステムの仕事を、グループ外の会社が結んだ契約で続けることになり、親会社と子会社のあいだの取り決めを結び直す必要が出てきます。3つ目では、作業の場所やアカウントが社外の会社のものになります。どちらも、誰の仕事として続けるかを先に決めます。

切り離しではなくグループ内で情報システム部門をまとめる場合の契約の整理は、情シス統合で見直す契約と個人データの扱いで取り上げています。

売却の範囲にITと人を入れる

事業再編実務指針は、企業等の取組例として、欧米企業ではディールの初期段階から、相手方との交渉の中でヒト、IT、資産などの売却対象の範囲をしっかり決めているという指摘を載せています。*1 システム子会社の売却では、この「IT」がそのまま売却の中身になります。

範囲を決めるときは、システムそのものだけでなく、ソースコードの保管場所、設計書や運用の手順書、各種のアカウント、そしてSESの契約まで並べます。どのシステムを売却先に渡し、どれを親会社に残すのかが決まれば、先ほどの一覧の契約を一つずつどちら側に置くかを決められます。

判断が難しいのは、親会社に残るシステムと売却先に渡るシステムの両方を、同じ技術者が見ている場合です。こうした契約は、作業の内容をシステムごとに分けられるか、分けられないなら移行期間のあいだどちらの会社が契約を持つかを、売却の条件を詰める段階で話し合っておきます。

移行期間の業務委託

同じ取組例の中で、指針は、欧米企業では必要に応じてTSA(Transition Service Agreement)を結び、売却後も対象事業が滞りなく運営できるよう、一定期間、売主に一部の機能を業務委託するのが一般的だという指摘も紹介しています。*1 売却した側が、しばらくのあいだ売却先の仕事の一部を引き受けるという取り決めです。

システム子会社の場合、この関係は両方向に起こり得ます。売却された子会社が、移行期間のあいだ親会社に残るシステムの運用を続けることもあれば、親会社が子会社にネットワークや社内のシステムを使わせ続けることもあります。どちらの場合も、その作業をSESの技術者が担っているなら、移行期間の取り決めとSESの契約の期間をそろえて考える必要があります。

決めておきたいのは3つです。移行期間にSESの技術者へ作業を頼む窓口をどちらの会社に置くか、移行期間がいつ終わるか、終わったあとに作業を誰に引き継ぐかです。移行期間の長さは指針にも書かれておらず、移すシステムの数や引き継ぐ人の準備によって変わります。SESの契約の更新日が移行期間の途中に来るなら、その更新でどちらの会社が契約を持つかもあわせて決めます。

取引先への伝え方

事業再編実務指針は、情報管理を徹底しながら、公表に向けて従業員、顧客・取引先、株主、地域社会などのステークホルダーに対し、誰から誰に、いつ、どのような方法で、どのようなメッセージを出すかの具体的な計画(コミュニケーションプラン)を作ることが重要だとしています。*1 SESの契約先の会社も、この取引先の一つです。

取組例には、規模の大きい事業を売却した際、公表と同時または前後数日のあいだに多くのステークホルダーとの調整が必要になり、あらかじめ詳細な計画を用意して実施したという企業の声もあります。*1 公表直後は社内の対応が重なるので、SESの契約先に何をいつ伝えるかも計画に入れておきます。

伝える順番は、まず契約先の会社の担当者、次に現場の技術者です。公表前に話せる範囲は情報管理の方針に従って決め、公表後には、契約の当事者が変わるかどうか、作業の場所やアカウントがいつ変わるか、問い合わせ先はどこかを伝えます。技術者が先行きを知らずに過ごす期間は、短いほど移行期間の作業が進めやすくなります。

つまずきやすい点

1つ目は、株式の売却なら何も変わらないと考えてしまうことです。子会社の契約は子会社に残りますが、親会社と子会社の関係はグループの内側から外側へ変わります。親会社のシステムを子会社経由で見てもらう契約は、その影響を受けます。

2つ目は、引き継ぎ先を決めないまま契約の更新を止めることです。売却が決まると更新を控える判断が出やすいのですが、移行期間の作業を担う人がいなくなれば運用が止まるおそれがあります。更新を止めるのは、作業の引き継ぎ先が決まってからにします。

3つ目は、システムに詳しい人を手元に残そうとして、売却先に渡す体制を薄くしてしまうことです。指針の取組例には、売却の際に優秀な従業員を本社に戻すと売却価格が下がり、買い手にとっても企業価値が担保されないという指摘があります。*1 社員についての指摘ですが、SESの技術者の配置にも同じことが言えます。どちらに誰を残すかは、移すシステムの範囲と一緒に決めます。

まとめ:システム子会社の再編で確かめる3つの点

システム子会社の再編でSESの契約と体制を考えるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、SESの契約ごとに契約の当事者と作業するシステムの持ち主を一覧にし、再編で扱いが変わる契約を見つけておくこと。第二に、手法によって権利義務の移り方が異なることを踏まえ、個々の契約の条項は契約書で確かめること。第三に、売却する場合は移行期間の窓口と終わったあとの引き継ぎ先を決め、SESの契約先にもコミュニケーションプランの中で伝えることです。この3点を踏まえておけば、「売却の公表後に、親会社のシステムを見ている技術者の契約がどちらの会社のものか分からなくなった」という事態を避けやすくなります。移行期間のあとを担う人の探し方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。

LASSICに相談するメリット

売却や独立で切り離すシステムの範囲と、移行期間のあとに残る作業が書き出せたら、次はその作業を担う人を探す段階です。引き継ぐシステムと始める時期が決まっていれば、求める経験がはっきりし、候補者を探しやすくなります。

Remoguは、株式会社LASSICが運営するフリーランス・業務委託のITプロ人材サービスです。リモート前提で全国から登録が集まっており、登録は約20,000名規模、その約8割が開発系です。人材が必要になった時点から4時間以内に候補者を提案し、最短1週間で実際の業務開始まで進みます(条件によっては実現できない場合があります)。

よくある質問

システム子会社を売却すると、子会社が結んでいるSESの契約は終わりますか

子会社の株式を売る場合、事業再編実務指針の整理では株主が変わるだけで権利義務は変わらないので、契約は子会社のものとして残ります。*1 ただし、株主が変わったときの扱いを契約書で定めていることもあります。個々の契約の条項は契約書で確かめ、判断に迷う点は専門家に相談します。

移行期間はどのくらいにすればよいですか

事業再編実務指針は、一定期間売主に一部の機能を業務委託するという取組例を紹介していますが、期間の長さは示していません。移すシステムの数と、引き継ぐ側の準備にかかる時間から決めます。SESの契約の更新日がその途中に来るかどうかも、あわせて確かめておきます。

再編の話を、いつSESの契約先に伝えればよいですか

公表前に話せる範囲は、社内の情報管理の方針に従って決めます。指針は、誰から誰に、いつ、どのような方法で伝えるかの計画を作ることが重要だとしています。*1 SESの契約先もその計画に入れ、公表後には契約の当事者や作業の場所が変わるかどうかを早めに伝えます。

引き継ぐ作業が見えたら相談

システム子会社の再編で、移行期間のあとに残る開発や運用の作業が分かっていれば、そのままご相談いただけます。どのシステムを誰が引き継ぐか決めきれていない段階でも構いません。

Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。

Remoguは、リモート前提で全国から即戦力のITプロ人材を調達するサービスです。リラシクは、扱う求人がすべてリモートワークのITエンジニア専門転職エージェントです。どちらもLASSICが運営しています。

無料相談はこちら

出典

  1. *1 参考:経済産業省「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~(事業再編ガイドライン)」(PDF)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/pdf/20200731003-1.pdf)。出典:経済産業省「事業再編実務指針」(2020年7月31日策定)。1.3.4(用語定義等)の子会社・事業の切出し、5.1(コミュニケーションプランの策定)、5.3(適切な切出し手法の選択)と注176、参考資料5.3-1(各手法の概要)、5.4(企業等の取組例)を参照(確認日2026年10月2日)(2026年10月確認)
  2. *2 参考:経済産業省「事業再編ガイドライン 参考資料集」(PDF)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/pdf/20200731003-3.pdf)。出典:参考資料2.1.1(事業売却・撤退等を検討・実施する際の課題、社長・CEOアンケート、平成30年度実施、有効回答数541社、3つまで選択可)、参考資料2.1.3(事業撤退・売却のための基準、企業アンケート、令和元年度実施、有効回答数は全社845社)を参照。図は資料に示された数値をもとに筆者が作成した(確認日2026年10月2日)(2026年10月確認)




View