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レガシー対応の情報共有、引き継ぎ前に聞く相手を決める
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- IPAの2024年度の調査では、レガシーシステムについて経営者・情報システム部門・業務部門の三者で情報共有している企業は28.4%でした。
- 「関連部門間での定期的なコミュニケーションは取られていない」と答えた企業も16.4%あります。
- 引き継ぎの前に、仕様を知る人と業務の要件を知る人を名前で書き出し、社内で誰も答えられない部分を洗い出します。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
前任者が抜けた古いシステムについて、まず誰に聞けばいいのかが分からない。情報システム部門に聞くと仕様は分かるのに、業務の決めごとは業務部門に聞いてほしいと言われる——。長く使われてきたシステムを引き継ぐ現場では、こうした食い違いが起こりがちです。レガシー対応の情報共有とは、古いシステムの見直しや移行について、経営者・情報システム部門・業務部門の間で計画や仕様の情報を伝え合うことを指します。
自社の共有の形を見直す手がかりになるのが、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「2024年度ソフトウェア動向調査」です。レガシーシステムへの対応について、誰と誰が情報を共有しているかを企業に尋ねた設問があります。ただし、この設問で分かることには限りがあり、共有の頻度や中身までは尋ねていません。本記事では、古いシステムを引き継ぐ実務担当者に向けて、共有の形の分布、社内とベンダーの作業分担との関係、聞く相手の決め方、そして外部に頼むときに確認したい点を整理します。
目次
レガシー対応の情報共有とは
レガシー対応で情報共有が欠かせないのは、知っていることが部門ごとに分かれているためです。システムの仕様は情報システム部門が知っています。その業務にどんな決めごとがあり、どこまで変えてよいかは、システムを使っている業務部門が知っています。移行にかける予算や時期を決めるのは経営者です。
この3者の間で情報が伝わっていないと、引き継いだ担当者は仕様と業務の決めごとを別々に聞いて回ることになります。聞いた内容が食い違えば確認をやり直すことになり、作業に取りかかるのが遅れます。前任者が抜けたあとは、誰が何を知っているかを教えてくれる人もいなくなります。引き継ぎを始める前に、社内で誰と誰が情報を共有しているかを確かめておく理由はここにあります。
どんな形で共有しているのか
IPAの調査は2024年12月17日から2025年2月14日にかけて行われ、2025年4月7日時点で企業799件の回答がありました。*1 情報共有の設問に答えたのは、システムを発注して使う側の企業のうち、レガシーシステムを保有している、または過去に保有していた384件です。*2 回答する企業は、経営上及びビジネス上もっとも重要と考えられるシステムを一つ思い浮かべて答えるよう指示されています。*3 公開されている回答データから集計すると、結果は次の表のとおりです。
| 選択肢 | 件数 | 384件に対する比率 |
|---|---|---|
| 経営者、情報システム部門、業務部門の三者で情報共有し、計画や仕様を三者で連携して決定している | 109件 | 28.4% |
| 主に経営者と情報システム部門で情報共有を行い推進している | 96件 | 25.0% |
| 関連部門間での定期的なコミュニケーションは取られていない | 63件 | 16.4% |
| 主に情報システム部門と業務部門で情報共有を行っているが、経営者には共有されていない | 56件 | 14.6% |
| わからない | 31件 | 8.1% |
| 主に経営者と業務部門で情報共有を行い推進している | 25件 | 6.5% |
| その他 | 4件 | 1.0% |
もっとも多いのは三者で連携して決めている形で、次いで経営者と情報システム部門の二者で共有している形です。三者がそろっている企業は3割に届かず、「関連部門間での定期的なコミュニケーションは取られていない」と答えた企業も63件、16.4%ありました。情報システム部門と業務部門の間では共有しているものの、経営者には共有されていない企業は56件、14.6%です。
経営者と業務部門は加わっているのか
選択肢を、経営者が加わっているかどうかでまとめ直してみます。経営者を含む3つの選択肢(三者、経営者と情報システム部門、経営者と業務部門)を選んだ企業を合わせると230件、59.9%です。一方、経営者に共有されていない56件と、定期的なコミュニケーションがない63件を合わせた119件、31.0%では、経営者が情報共有に加わっていません。移行の時期や予算を決める人に、状況が伝わっていない企業が3割ほどあることになります。
業務部門について同じように計算すると、業務部門が加わっている企業は190件、49.5%で、ほぼ半分です。残りは、経営者と情報システム部門の二者だけで共有している96件、定期的なコミュニケーションがない63件、「わからない」と「その他」です。仕様を情報システム部門に聞くだけで引き継ぎを進めると、業務の要件の確認が後回しになり、あとから作業をやり直すことになりかねません。
作業の分担で共有は変わるのか
同じ384件には、そのシステムの内製化(社内の人員で担うこと)の状況も尋ねています。*3 もっとも多いのは、情報システム部門が企画・要件定義(システムに何をさせるかを決める作業)を行い、設計・開発・運用はベンダー(開発や運用を請け負う会社)と協力する形で130件、33.9%でした。*2 全工程でベンダーの提案を受けて対応を依頼する形が83件、21.6%、すべて内製化している形が75件、19.5%、企画だけを社内で行いその後の工程はベンダー主体とする形が44件、11.5%です。
2つの設問の回答を組み合わせて計算すると、定期的なコミュニケーションがない企業の割合は、全工程をベンダーに任せている83件では32件、38.6%でした。要件定義まで社内で行う130件では6件、4.6%にとどまります。すべて内製化している75件では12件、16.0%、企画だけを社内で行う44件では4件、9.1%でした。
三者で連携している割合を同じように計算すると、要件定義まで社内で行う130件では60件、46.2%ともっとも高く、全工程をベンダーに任せている83件では11件、13.3%でした。企画だけを社内で行う44件では29.5%、すべて内製化している75件では22.7%です。工程を全部ベンダーに任せている企業では、社内の関係者どうしで定期的に共有していない割合が高く、引き継ぎのときに社内で聞ける相手が見つかりにくいと考えられます。ただし、共有がないから委託しているのか、委託しているから共有がなくなったのかは、この組み合わせからは判断できません。
聞く相手をどう決めるのか
ここまでの分布を踏まえると、引き継ぎの前に、次の4つの順で聞く相手を決めておくと進めやすくなります。
- そのシステムについて決めている人と使っている人を、名前で書き出す
- 仕様を知っている人と、業務の要件を知っている人を分ける
- 仕様も業務の要件も、社内の誰も答えられない部分を洗い出す
- 洗い出した部分を、期間を決めて担当者に調べてもらい、結果を文書で受け取る
1つめで名前まで書くのは、「情報システム部門」「営業部」のような部門名では、実際に誰に質問を持って行けばよいかが決まらないためです。三者がそろって共有している企業は3割に届かないので、まず答えられる人を一人ずつ特定するところから始めるのが確実です。2つめで分けるのは、業務部門が情報共有に加わっていない企業が半分ほどあるためです。仕様を知っている人が、業務の要件まで知っているとは決まっていません。
3つめでは、ベンダー側にしか情報が残っていない部分が見つかることがあります。とくに全工程をベンダーに任せている場合は、この部分が大きくなりやすいので、早めに洗い出しておきます。4つめで文書を受け取るのは、口頭で確かめただけでは、次に担当が替わったときに同じ質問を一から繰り返すことになるためです。仕様や要件を社内で書き残しておくことが、次の引き継ぎの準備にもなります。
つまずきやすい点
一つ目は、部門ごとの窓口を決めただけで終わらせることです。窓口の担当者は、質問を答えられる人へ取り次ぐだけのこともあります。取り次ぎが重なると、同じ質問への答えが部門ごとに違って返ってくることもあります。窓口とは別に、実際に答えを持っている人の名前を確かめておきます。
二つ目は、経営者への共有を後回しにすることです。移行の時期や予算を決める人が状況を知らないままだと、調べた結果をもとにした判断が遅れます。調べて分かったことと、まだ分からないことを、短い報告にまとめて定期的に伝えておくと、判断を仰ぐときに説明し直す手間が減ります。
三つ目は、ベンダーにしか分からない部分を、ベンダーへの確認だけで済ませることです。答えを聞いて終わりにせず、仕様や手順を文書にして社内に残しておけば、次の引き継ぎで同じ調査をせずに済みます。仕様書を引き継ぐ手順は「レガシーの仕様書を引き継ぐ手順」で扱っています。
外部に委託するときに確認しておきたい点
4つの手順のうち、3つめで洗い出した部分の調査と、4つめの文書化は、外部の専門人材に任せやすい作業です。調べる対象と期間を決めて依頼でき、結果を文書で受け取れるためです。フリーランスを含む業務委託でも、この形なら何をいつまでに渡してもらうかがはっきりします。依頼するときは、「受注処理のプログラムが読み書きしているデータと、そのデータを書き換えているプログラムを1か月で調べ、一覧にして受け取る」のように、調べる対象と期間、受け取る文書の形まで書いておきます。
一方、1つめの名前の書き出しと2つめの切り分けは社内で行います。誰に何を聞くかは、社内の事情を知る人でないと決められないためです。古いシステムを放置したときの影響は「レガシー放置の影響」、移行に必要になる人材は「レガシー移行に必要な人材の違い」、社外の人材の稼働と契約期間の管理は「人的リソースの管理」で扱っています。
まとめ:情報共有で確かめておきたい3つの点
レガシー対応の情報共有を引き継ぎに生かすうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、そのシステムについて決めている人と使っている人を、部門名ではなく名前で書き出すこと。第二に、仕様を知っている人と業務の要件を知っている人を分けて確かめ、経営者にも状況を伝えること。第三に、社内の誰も答えられない部分を洗い出し、期間を決めて調べた結果を文書で残すことです。この3点を踏まえておけば、「前任者が抜けたあと、誰に聞いても仕様が分からない」という事態を避けやすくなります。聞く相手の決め方や調べる作業の進め方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
この調査の回答は、どのような企業のものですか
任意で回答した企業のもので、日本の企業全体の姿をそのまま表すものではありません。*1 2025年4月7日時点の回答なので、それより後の変化は含まれていません。*1 自社と比べるときは、目安として使うのが適しています。
設問の母数が799件ではなく384件なのはなぜですか
絞り込みが2段あるためです。1段目は回答した企業の種類で、ユーザー企業662件とユーザー系情報システム子会社20件の682件が対象で、開発を請け負う側のベンダー系117件は回答の対象ではありません。2段目はレガシーシステムの保有で、保有している322件と過去に保有していた62件を合わせた384件が母数です。*2
自社の作業分担が分からない企業では、共有はどうなっていますか
内製化の状況を「わからない」と答えた43件で見ると、定期的なコミュニケーションがないのが9件、20.9%、三者で連携しているのは4件、9.3%です。*2 384件全体の16.4%より、定期的な共有がない割合が高くなっています。まず関係者の名前を書き出すところから始めます。
調査のデータは自分で確かめられますか
確かめられます。IPAは回答を匿名化してオープンデータとして公開し、分析レポートを募集しています。*1 設問一覧と回答のCSVが公開ページから入手でき、この調査は年度ごとに公開されています。*4
レガシーシステムの引き継ぎを相談したいとき
聞く相手の整理と、社内で答えられない部分の調べ方からご相談いただけます。
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出典
- *1 参考:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査」調査結果データの公開と分析レポートの募集(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/software-engineering/result-software2024.html)。出典:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査」の公開ページ。公開日2025年2月27日・最終更新日2025年4月25日、調査期間、2025年4月7日時点の回答件数(企業799件・個人74件)、回答を匿名化してオープンデータとして公開していることを参照(2026年9月確認)
- *2 参考:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 企業向け 調査結果(選択肢項目文字列)」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/software-engineering/h5f8pg00000028n8-att/software2024-c-result-data-str.csv)。出典:企業向けの回答データ(CSV)。Q5-11とQ5-9の件数・比率、経営者や業務部門が加わっているかのまとめ直し、2つの設問の組み合わせ、差はこのCSVから集計・計算した値(2026年9月確認)
- *3 参考:IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 企業向け 設問一覧」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/software-engineering/h5f8pg00000028n8-att/software2024-c-questions.xlsx)。出典:企業向けの設問一覧。Q5-11とQ5-9の設問文と選択肢、内製化とみなす範囲の注記、回答対象の企業種別、Q5-3の指示を参照(2026年9月確認)
- *4 参考:IPA「ソフトウェア開発関連調査」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/index.html)。出典:IPAのソフトウェア開発関連調査のページ。年度ごとに調査が公開されていることを参照(2026年9月確認)